第143話 閑話 アレコレその後①

教会中庭の女神像その後


教会の中庭にあるカバンをさげた女神像が、「実は女神さまの恩恵を受けた銅像である」という噂はあっという間に街中に広まった。

特に冒険者や商売人にとっては盗まれたくない物をしまっておける安全な倉庫として大人気だ。


それゆえ、毎日朝早くから日が暮れるまで教会の中庭にはいつも誰かしらが訪れている。

混んでる時は女神像に行列が出来ていたりもする。

色んな人が入り込む事で中庭にあった花壇や畑も踏み荒らされてしまい、子供達は悲しんだ。


その話をジェシカ達から聞いたカオはちょっと考え、教会の司祭にある提案をした。


「え?賽銭…箱ですか?」


「そう、立て看板と賽銭箱、それとベンチと屋台も」


カバンを持った倉庫女神までの地面に小石を敷いて細い道を造る。

道は一方通行だ。

向かう者と戻る者がすれ違う時に小道からはみ出て花壇を踏み荒らさないように、道なりに進むと出口に辿り着くようにした。


それから、女神像の前に立て看板と賽銭箱。

看板には、“倉庫は入れた本人しか出すことは出来ません”などの注意書き。

それと”女神さまへの感謝の気持ちとして小さな小銭のご寄付を“といった文言も入れておく。

賽銭箱に集まったご寄付は当然教会の資金として運用する。


それから他の女神像へも小石の道を延ばして、途中途中に座って休めるベンチを置く。

まぁ、散歩コースのような感じだ。

奥の方に木箱を重ねて並べ簡単な屋台を造る。

散歩中に喉を潤わせるちょっとした果樹水やパン、お菓子を売る。

売り子は教会の子供達だ。


「なるほど! それはいいですね」



司祭はさっそく取り掛かり、教会の中庭は散歩コースのある小さな公園になった。

屋台にはうちの弁当もいくつか置かせてもらってる。

弁当は原価で教会に卸した。

売れ残った場合は教会の子供達が食べるらしい。




開拓村その後


POT1000個とテレスク500枚を持って帰った開拓村。

村長と長谷川さん、キックとナオリンの4人で村長宅でまず話し合いをした。

村長の目の前には数本のPOTとスクロール数枚が置かれていた。

残りはまだキックのアイテムボックスボックスの中だ。


「回復薬と、魔法のスクロール?」


村長は恐る恐るといった感じでPOTの小瓶を手に取った。

冒険者でもない普通の町人や村民が回復薬を手にする機会はまずない。


「ええと確か、飲んで良し、付けてよし…だよね? 私も回復薬なんて初めてで使った事ないんだけど」


ナオリンがPOTの小瓶を掲げてクルクル回しながら説明書きがないか探している。

もちろん、ない。


「初級回復薬なので、大怪我とかは無理、だと思う。病気…は、どうだろう……病気治癒とかゲームに無かったから…」


キックは自信なげにだんだんと声が小さくなっていった。



「とりあえず各家庭というか、各家屋に1本ずつ配って常備してもらう?」


「そうですね。使ったら申請してもらって補給する感じで」


現在村には家屋が20軒ある。

やまと社員用に建てた10軒と元からいた開拓民の家が8軒、それと集会場が1軒と客用が1軒。

村の奥側には井戸が2ヶ所と風呂が1ヶ所。

その先に畑が並び、畑の先に川がある。

川には洗濯場と簡易水浴び場がある。

風呂は冬でも週に一回しか沸かさない。

80人超えの住民が入る風呂を沸かすための薪の量がハンパない。

なのでたいていは川での水浴びになる。



18軒の家に1本ずつPOTを配る事になった。



「スクロールはどうします?」


「各家庭よりも個人で持った方が良くないですか?」


「そうだね。子供のいる家庭は親御さんが管理すればいいね」


「あの…魔法のスクロールは何に使うんですか?」


村長がスクロールに手を伸ばすが触れるのを躊躇っていた。

回復薬を見た事がない普通の村民が魔法のスクロールなど知るわけがない。


「ええと、テレポートスクロールって言って、瞬時に移動が出来る魔法のスクロール?だそうなんだけど」


「テレポート? 魔法を使えない者でも?」


「あ、はい。私も使ってみましたから。私、魔法は使えません」


ナオリンがやってたゲームはモンスター相手の格闘がメインのゲームだ。

ナオリン自身のステータスの職業欄も“拳士”であった。

ステータスに、魔法っぽいスキルは見当たらなかったそうだ。



「ねぇ、そもそもブックマークとか出来るのかな?」


「私が出来ましたからたぶん出来るんじゃないでしょうか。神殿と、あとこの村の入り口も登録しました」


長谷川さんはゲーム未経験者だ。

もともとゲーム経験者でステータスに“職業”持ちだったキックとナオリンはブックマークが可能だった。

長谷川さんもカオに連れられて街に飛んだ時にブックするように言われて、やってみたら出来た。


「とりあえず登録してみたら?」


ナオリンが村長に登録の仕方を説明してみたところ、ブックマークの登録に成功したようだった。


「おおう、出来ましたぞ?」


ゲーム経験者であるキックとナオリン、ゲーム未経験の長谷川さん、この世界の住人である村長の全員がテレポートのブックマークに成功した。

そこで村人(やまと社員含む)全員に登録させるため、全員を村の中央の広場に集めた。


村長は、今回の事を説明して回復薬を渡し、各自に「村」をブックマークしてもらうよう指示をした。

幼い子供以外の村人はテレポートのブックマークに成功した。


“テレポートのブックマークは誰でも出来る”と、ここにいる誰もが思ったが、実はそうではない事が後に明らかになる。


実は、ブックマークが出来るのは冒険者登録をしている者、かつ、一度でも魔法でテレポートを経験していた事がある者、という縛りがあったのだ。

この開拓村は幼い子供を除く全員が冒険者登録をしに街までカオがエリアテレポートで運んでいたため、偶然だが“冒険者”と“テレポ経験者”というふたつの条件をクリアしていたのであった。

このことは、現在の幼い子供が数年後にブックマークをしようとした時に初めて明らかとなる。



「あの…登録場所なんですが…この村の他に街の神殿とかもあった方がよくないですか?」


「ああ、そっかぁ。何かあった時に街へ避難出来るように?」


「だけど小さい子供らが出来ないから置いてけないよ」


「あ!そうだね」


「有事の際は子供達と隠れる場所も村の中に造っておこう。それとは別に異変を知らせに行けるように街の登録は必要だ」


「隠れるのは子供と少人数であとは街に避難してくれた方がありがたい」


「では一応子供以外は全員、街の神殿を登録しよう。現在交代で街の仕事に行ってもらっているが、その時に神殿を登録するように」


「はい」「わかった」「おう」


「スクロールは500枚だっけ? 現在、村民って全部で何人?」


「元いたワシらが58人で、アンタら稀人が24じゃから82人か」


「子供を除いても、ひとりあたり5〜6枚?」


「500枚って多いと思ったけど、分けると案外少ないな」


「バカ者っ!少ない事があるか!」


突然怒鳴られた。


「魔法のスクロールなぞ、村に1枚あるだけで驚きだぞ」

「うんだ、それ売ったら凄い金になりそうだ」

「売るか?」


「こらこらこら、何かあった時の対策としてカオさんから貰ったんだから、売るとかはダメです」


「あ、そっか。一瞬売る方に心が傾いた」

「売ってウハウハ三昧!ふふふ」


「こらぁぁぁ」


「鹿野さんはさぁ、絶対皆んなのために使って欲しいって思ってくれたはず」

「うん。使ってこそとか言いそう」

「まず…1枚ずつ配って、テレポート初の人の練習…」

「そうだね。やってもらおう」


“村”で登録をしたので子供を残して全員で村の外に出た。

危険なのでそんなに離れない場所から、どんどんと村人がテレポートしていく。


最後のひとりを見送ってからキックと長谷川さんは徒歩で村に戻った。

村の中では皆んなが顔を輝かせて話していた。



「テレポートスクロールすごいな」

「チャコ初めてじゃないでしょ。うちら鹿野さんと飛んでるじゃん」

「え、でも、ひとりテレポートだよ?」

「うん 感激。魔法おおおおおお」

「俺…魔法使った。この歳で初めて魔法を」

「ズルいよおおお!大人ばっかズルい!」

「僕もやりたい!やりたい!やりたい!」


村中、大騒ぎであった。

その数日後。

今度は武器と防具が到着した。


レザーアーマー50

レザーキャップ30

レザーサンダル30

レザーブーツ30

レザーシールド50

ショートソード8本

シルバーソード5本

ショートボウ12本

矢500本


これまた全村民で広場に集まり防具装着の練習会となった。


「ねぇ、ツカちゃん、スマホの電池残ってる?写真とってほしい」

「あ、写真とろ!」

「わぁ 撮って撮って!」


「あ、スマホの充電はカオさんとこで出来ますよ。手回しの充電器があったです」

「え!マジ?ホント? 次の街当番の時に貸してもらおう」

「その時にこのおイモ持って行こうよ!結構良いの育ったよね」

「うんうん!」


すぐに防具装着の練習会は撮影会へと移行していた。

そして普段は大人しい男性陣も珍しく大はしゃぎであった。


「赤坂、どおだ?俺、イケてねぇ?」

「っふ。俺の方が決まっている。どうよ?」

「おお、なかなかっすね」

「いやいや、キミも良いぞ」


キャップ、アーマー、ブーツにシールドを持ったふたりが褒めあっていた。

剣を持てばパーフェクトなのだが、そこは平和な日本人。

刃物はちょっと抵抗があるようだった。


大人達の混乱に紛れて5〜6歳の子供もアーマーを身につけていた。

もともとフリーサイズというか、装着後にフィットするゲーム仕様なのか、そのくらいの子供にも装着は可能であった。

ただ、いくつか“呪われたモノ”があったようで脱げない者が数人でた。


「え?え?何かコレ脱げないんだけど…」

「なぁに言ってんすか、入間さぁん。ははは」


貰ってきた解呪スクは足りなくなり、キックがカオに連絡を取り、解呪に来てもらう事になった。



アーマーとシールドは50ずつあったし靴はサンダルとブーツを合わせると60あった。

が、これは村民に配るのではなく倉庫に保管する事になり急遽倉庫が建てられた。


村の外に狩りに行く者、街のギルドの依頼を受ける者が基本使用するという決まりが出来た。

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