第142話 ギルドにレンタル

昨夜のコスプレ撮影会の後、キック達は開拓村に帰っていった。



弁当屋の朝は早い。


皆んなキビキビと動いている。

が、タビー、ジョン、シュロがチラチラとこっちを見ている。

弁当の準備をしながらもチラチラチラチラ、何か言いたげだ。


昨夜ダン達に渡した皮防具の件だろうな。

うん。わかってる。

大丈夫だよ?

君たちにもちゃんとあげるよ?

でも今は忙しいから後でね。


逆にダンとロムはドヤ顔をしていた。

てか、君らさぁ、弁当売るのにアーマー着る必要ある?

店内で帽子はダメだろう。

ふたりは昨日渡したアーマーとキャップを着けてサンダルも履いていた。

いや、サンダルはいいけどさぁ、普段使いでもさ。


その日の午後には残りの子供らにアーマー、キャップ、サンダルを渡した。

何故か皆んな着るようになり、まるで弁当屋の制服のようになってしまった。

俺は着ないぞ!



それから数日たったある日の午後。

交代で店番をしながら昼食を摂っていたところにゴルダがやってきた。



「おう 邪魔するぞ」


「「「いらっしゃませー」」」


ゴルダは棚に置いてある弁当をひとつ手に取りカウンターで支払を済ませるとその弁当を持って店の奥に入ってきた。


「カオに用がある。ちょっと上がらせてもらうぞ」


キッチンテーブルで飯を食っていた俺の前にゴルダは座り、手に持っていた弁当を広げて食べ始めた。

アリサが慌ててお茶とスープを用意しに行った。


「うまいな、このパンも」


「どもっす。今日の弁当もまぁ良い出来だけど、明日はもっと旨いぜ。っふ、揚げたカツをパンに挟む」(ドヤァ)


謂わゆるカツサンドである。

元の世界では普通に売っていた。

が、この世界ではパンはパンだけで食べるのが普通なので、具を挟んだうちのパンは結構人気になっている。

しかも、具が日替わりだ。


ユイちゃん達女子から出ている案で、甘い物を挟んだ“オヤツパン”もそのうち始めるつもりだ。

柔らかめのパンに果物のジャムを挟んだり、ハチミツやクリームっぽい物を挟んだりとアイデア満載だ。


その時にチョコの話も出たが、この街でチョコは見つからなかった。

もしかしたら大きな街や王都にはあるのかも知れないが、ここにはない。

あっちゃんはギルドまで聞きに行ったそうだ。

どんだけチョコ食べたいんだ。


あ、もしかしてゴルダが今日来たのってその話か?



「チョコ売ってる店が見つかったのか?」


「違うわ!そんな話じゃない」


ゴルダの眉間の皺がさらに深くなり怖い顔が怒ったように見える。


「怒ってないぞ」


む、ゴルダ、やはり人の心が読めるのか!


「もぉぉ カオさん、声に出てますよ」


「え?マジ?」


「ゴルダさん、お茶とスープどうぞ」


「おう、すまんな」


今日のスープはオニオンスープだ。

具はほとんど入っていないが、野菜の旨味がよく出ている。

コンソメとかスープの元が見つからないので、野菜をじっくりと炒めた後にほぼ形が残らないくらい煮込んだらしい。

今朝はイートインの客にスープも付けているらしい。

まだお試し期間なのでもちろん無料だ。

ゴルダもスープに口つけて満足そうにグビグビと飲んでいた。


うんうん。美味かろう、うちのスープは。


「カオるん、声に出てるぞ。あと、めちゃドヤ声」


「なかなか旨いな、コレは」


「ドヤァ」


あ、ドヤまで声に出してしまった。

ヨッシーとあっちゃんの生温い笑顔が辛い。


「弁当屋は順調みたいだな。ところで、店の小僧達が着ているアレは皮のアーマーか?何で店で着てるのか知らんが、結構いい作りの防具じゃないか?」


「え…そう、か?」


ゲームの時の雑魚からドロップした物だ。

困った。

誰が作ったとか、どこで買ったとか聞かれても答えられん。



「まぁ、稀人さまのいた国の事は聞かん。聞いてもしかたないしな。ただ、子供が着るにはかなりしっかりとした物だ。もし手元に多くあるなら、少しギルドに卸さないか?」


ん?

どういう事だ?

ギルドにおろす?


「余っているならギルドに貸し出して欲しい。賃料はもちろんギルドが払う。それを低ランクの冒険者に無料で貸し出したいと思っている。ランクDになった冒険者は街の外に出始める。だが、まだ金が無いから防具まで手が回らん。なのでケガを負う若い冒険者が後を立たない。ひどいと命を落とす者もいる」



なるほど、そういう事か。

たしかこの世界に来たばかりの頃、そんな話を聞いた覚えがある。

竜の慟哭の子らと狩りに行った時か?


街の外で狩るには防具がいる。

防具を買うお金のためには街の外で狩りをしないとならない。

街の外で狩るには…と、堂々巡りに落ち入るそうだ。


アイテムボックスにはドロップ品がまだたくさん残っている。

開拓村に渡したがまだまだある。

なら、うち用にいくつか残して、あとはギルドに渡すか。


いつかどこかで誰かが使うかもしれない、と残しておくのは俺は好きではない。

いつか?

いつまでだ?

どこで誰が使うんだよ。

必要なのは“今”だ。

取っておく事に意味はない。

使ってこそだ。



「わかった、出せるだけ出す。賃料と言うか安く買い取ってもらえないか?」


「ふむ、そうだな。カオが売ってもよいと思っているなら買わせてもらおう」


「安くしとくぜ。ギルド前で弁当売らせて貰ってるしな。若い冒険者が出来るだけ怪我なく頑張ってくれれば、うちの弁当も売れるからな」


「そうか、ありがたい。ところで、ゴブリン氾濫の報奨金を取りに来てないのはあとはお前とヤマカーだけだ」

「え?僕もいただけるのですか?」

「ああ。ヤマカーには連絡役として頑張ってもらったからな」

「あ、では、キックやナオリンも?」

「あのふたりは先日受け取りに来た」


「忙しかったからすっかり忘れていたぜ…」


「まぁ、家を購入するくらいの金持ちにしたら端金かも知れんがな。強制依頼金に、引きで回ってもらった特別金、それと燃やしの指名金で結構な額だ。ヤマカーは強制依頼金だ」



ゴルダはふたつの小さい皮袋を俺と山さんの前に置いた。

山さんは皮袋を縛っていた紐を解き、中を覗いて嬉しそうな顔をしていた。

俺は試したい事があってその皮袋をアイテムボックスに入れた。

一覧表には『皮袋(大金貨入り)』とあった。

金額は表示されないのか…。




ゴルダがギルドに戻ると言うので、武器防具を渡すために俺も同行した。



ショートソード 20本

シルバーソード 10本

ショートボウ 20本(弓の数え方がわからん…)


レザーアーマー 45着

レザーキャップ 22……帽?

レザーサンダル 15…サンダル

レザーブーツ 32ブーツ

レザーシールド 40シールド


サンダルと帽子はあまりドロップしてなかったようだ。

あと意外とあったスモールシールドも出した。

レザーシールドとほぼ同じサイズだがスモールシールドは木で出来ていた。

皮より重たく強度は若干上だ。


アイアンシリーズやオークシリーズも結構な量があった。

それらを一通り出すと、ゴルダが確認をして、こちらは上級(B、C)冒険者に有料貸し出しとするそうだ。

というのも、アイアン(鉄)シリーズはかなり重量があるため、ランクDの子供が使うのには無理がある。

オークシリーズはアイアンより若干は軽いが、大きさからも成人(15歳)未満には厳しいと判断した。

15歳以上でランクもC以上だと安定した稼ぎもあるだろうから、有料貸し出しでいくらしい。


皮シリーズはランクDの冒険者は無料で貸し出してもらえる。


あ、それから今回ギルドに買い取ってもらった武器防具は、ひとつひとつ解呪魔法かけた。

後でトラブルになったら困るからな。


MP結構使ったな。

家に戻ったらMPを回復しつつ、アイテムボックスの中の残りの物も解呪しておこう。

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