第139話 弁当屋始動
大量のアイテムを持って自宅へ戻った。
みんなは弁当屋の準備に忙しく動いていた。
日替わりメニューも決まり、その材料の仕入れ先もきまった。
あとはひたすら作っては味見を繰り返して安定したレシピを作り上げている最中だった。
弁当屋の流れとしては、
早朝に売りに行くため前日の夕方には翌朝の仕込みはしておく。
朝、陽が登り次第、弁当を作り始める。
朝5時に西門前チーム、6時にはギルドチームが売りに行く。
売れ残っても8時には店に戻る。
店は7時から開店、午後2時には閉店。
昼は11時から午後2時まで、いくつかの場所に売りに行く。
ただしどこに行くかはまだ決まっていない。
と、概ねこんな感じだ。
素人の集まりだし、始めはそんなに大量には作らない。
この街で“弁当”がどこまで受け入れられるか、様子見をしながらやっていく予定だ。
しばらくは赤字になるだろうが、その補填は倉庫の金貨で補う。
それと、これが1番大事なのだが、今回は一緒に住む人数も多い事だし、金銭の丼勘定はやめた。
その辺もしっかり話し合いをした。
月給制を取り入れた。
店主は俺で開店資金も当然俺持ちだ。
家族経営ではなく、長男(俺)の店で兄弟が働いてるイメージだ。
兄弟と言えど給料はキチンと支払う。
実は少し前にあっちゃんに怒られたのだ。
「カオ兄ちゃんが宝くじを当てたからって、兄弟みんながそのお金で生活するの違くない?」
「でも…せっかくお金があるんだし」
「私達は家族だし、カオ兄ちゃんの宝くじで助けてもらう部分もあるけど、弟や妹が堕落しないように厳しくするのも長男としての責任だよ?」
「でも…お金…」
「うるさい!」
「ひゃい!」
「カオっちは店主として資金出して、兄弟はそこで働くよ?だから給料ちょうだい。働いた分、ちゃんと頂戴。家賃や食費は給料天引にして。出来れば家族割引で」
「畏まりました」
と言うわけで月給制になったのだ。
ダンやアリサ、ロムやキール達ももちろん月給だ。
教会やスラムから単発で雇う場合はアルバイトとして、時給制である。
福利厚生もしっかりと決めた。
残業代もキチンと出すぞ、うちはホワイトだからな。
週休2日制で有給休暇もある。産休、育休もある。
あと、マルたんは可愛いからお小遣い制だ。
弁当屋を始めるならキッチンが少し手狭であった。
拡げるかキッチン小屋を建てるなどの案も出たが、店がうまくいくようならその時にまた話し合う事にした。
キッチンを拡張したのに弁当屋が失敗だったら目も当てられないからな。
俺は慎重派だ。(ホントか?)
ずっと閉めっきりだった店舗を覗くとそれっぽくなっていた。
広い店舗の半分は小さいテーブルと椅子をいくつか置き、イートインコーナーとした。
そう、朝飯としてここで食べていってもよい。
サービスでお茶を出す予定だ。
壁には弁当を並べる棚を設置、奥に広めのレジカウンターがある。
あ、レジは無いけどね。
店舗ではカウンターの内側で接客についての講習が行われていた。
実は人を少し増やした。
今度こそ教会からの通いの子供達だ。(バイトだw)
人が増えたので役割分担をハッキリ決めた。
まず、家の事をやってくれる“家事チーム”
あっちゃん、ユイちゃん、アリサ、
キール(足の悪い少女)、シュロ(一番年下の少年)の5人だ。
”西門チーム“は朝5時に西門に弁当を売りに行く。
冒険者の出発は意外と朝早いのでその時間になった。
メンバーは、俺とダンのふたり。
実は、最初は西門と南門の二ヶ所に売りに行く予定だった。
この街の冒険者がその二ヶ所をよく利用するからだ。
だが西門オンリーになったのには理由がある。
というのは、弁当を買ってくれた人にオマケとして”シールド“をかけてはどうか、という案がでた。
魔法の“シールド”。
俺も「なるほど!」と思ったし、皆んなも賛成してくれた。
ただ、魔法を使えるのが俺ひとりなので南門の販売は見送りとなった。
”ギルドチーム“は、山さん、ヨッシー、ロム、タビーの4人。
朝6時からギルド内で弁当の販売をしてもらう。
もちろん、ゴルダの了承は得ている。
ギルド内というか、ギルドの入り口の外、扉の横で売る。
山さんがアイテムボックスを使えるので弁当を運ぶのもラクだ。
ロムやタビーは冒険者登録をしているので、弁当を売りつつ手が空いたら依頼掲示板のチェックも出来る。
うちの弁当屋は副業OKなので、休み利用してギルドの依頼を受けるのも良し。
ただし、働き過ぎや怪我には注意するように言ってある。
まぁ、俺も学生時代は無茶なバイトで稼いだっけ。
残りのメンバーは”店舗チーム“だ。
ユースケ、エルダ、ジェシカ、ジョンの4人だ。
店舗は7時オープンだ。
4人はオープン前に朝食を済ませてから店舗に出てもらう。
店舗は7時〜午後2時まで。
8時すぎには西門チームの俺らとギルドチームの山さん達も戻ってくる。
俺らは戻り次第朝食を済ませて店舗チームや弁当作成チームに加わる。
最初に決めた家ルールの“全員が一緒に朝食摂る“が、早くも挫折となった。
なので、“夕飯は出来るだけ一緒に摂る”に変更された。
教会からの通いで増員を頼んだのは、翌日の料理の仕込み等をお願いするためだ。
俺たちは朝が早いので、早めに風呂に入って夕飯を食べて寝る。
なので、翌日の弁当の仕込みや、本日の売上計算、片付けなどを新しい子達にお願いした。
もちろんその子達も現在訓練中だ。
経理に関してはあっちゃんやユイちゃんも手伝うと言っていたので、あと2〜3日で開店できそうだな。
ちなみに、売れ残った弁当は教会にお持ち帰りしてもらう予定だ。
夕方5時前に女性陣が風呂を済ませた。(今日は女子風呂の日だ)
夕飯の準備が出来て、全員がダイニングで食事を始めた。
弁当の試食のせいか皆あまり腹が空いていないようで箸が進んでいなかった。
いや、子供達はそうでもないか。
食べ盛り、育ち盛りのせいかモリモリと食べていた。
大人達は胃もたれと戦い、女性陣はさらにダイエットとも交戦中らしい。
「第3回やまと屋会議を開くから、大人だけこの後リビング集合な」
食べ終わりリビングへ移動するとアリサが気を利かせて、人数分のお茶を入れてくれた。
山さん、ヨッシー、ユースケ、あっちゃん、ユイちゃん、俺……の膝の間にマルク。
アリサがマルクを連れて行こうとしたが、俺にしがみついて離れなかった。
「いいよ 今夜も俺の部屋で寝かせる」
この家に越してきて、マルクはアリサと同じ部屋にしたのだが、マルクはずっと俺の部屋で寝ている。
マルクの背中を軽くポンポン叩いた。
腹も膨れてすぐ寝落ちするだろう。
会った頃のマルクはガリガリで骨が折れそうだったが、最近は少しだけ肉がついてきたな。
あの頃は抱き上げるたびにポッキリ折りそうで怖かったからな。
見ると瞼が半分落ちてきている。
ふと、視線に気がつき顔を上げるとヨッシー達がマルクを見ていた。
ヨッシーもユースケも山さんも複雑な顔をしていた。
マルクの可愛さに癒されながら、会えなくなった我が子の事を思い出しているのだろう。
「ええとさ、今日は別行動をさせてもらっただろ?」
「ああ、うん」
「どこ行ってたん?」
「教会の中庭の女神像のとこ」
俺は今日の発見を話した。
女神倉庫の中に大量のアイテムが入ってた事を話した時、一同は大いに盛り上がった。
「ちょっ、何それ、ズルいじゃん。カオるーん」
「カオっちだけ何か神様に好かれすぎじゃない?」
「魔法を使えるだけでもすごすぎるのに、大量のアイテム」
「いいなぁ…羨ましいなぁ」
「で、明日にでも山さん、女神像に触ってみてよ」
「え?僕?」
「うん ゲームが違うけど、もしかして何か入ってるかも知れないじゃん?」
「なるほど」
「あ、じゃあ、菊田さんも入ってそうじゃない?カオくんと同じゲームだったんでしょ?」
「そうなんだよね、金貨を見つけた時に連絡しておくべきだった。一応あとで念話するけど、その前にみんなに相談したい件がある」
「ん?」
「今日、倉庫で見つけたPOTとテレスクだけど、開拓村に少し分けてもいいだろうか?何か問題になるかな?」
「問題? どんな?」
「んん…例えば、盗賊とか悪い冒険者に村が狙われるとか?」
「狙われるの?」
「いや、わからん」
「この世界では貴重なんですか?」
「ゴルダに聞いたんだけど、POTはこの街でも売ってるらしい。けど、スクロールはここでは入手不可って言ってたな」
「ここではって、他の街では買えるんですか?」
「うん。王都とか、他の街でも取り扱ってる店はあるらしい。あ、金額は聞いてない」
「ゴルダくんに相談してみてはどうかな」
「そうだな。明日、女神像に行った足でゴルダんとこ行くか」
「俺も女神像行くからな!俺も女神像に触る」
「あ、僕も触ってみたいな」
「あたしもー!旦那が何か入れてるかもしんない!」
「いいなぁ わ、私もさわってみたい」
「しゃわるぅ」
マルクが途中から起きてたようだ。
ああ、癒される。
明日は大人組で女神像経由でゴルダのとこにいく事になった。
キックへの連絡はゴルダへの相談後にする事にした。
今夜の会議はこの辺でお開きにした。
自分の部屋へ引き上げる人、このままリビングで寛ぐ人と、マチマチだ。
俺はマルクを部屋で寝かそうと立ち上がると、リビングのマットに寝そべっていたペルペルがムクリとおきあがった。
今夜はペルペルが俺の部屋担当か。
越してきた当初、土屋襲来の危険に晒されていた頃は、うちの3イッヌを夜間警備として裏庭に出して警戒してもらってた。
が、土屋達が、その、あれしてからは、夜間の裏庭警備は1イッヌで、残りの2イッヌは室内になった。
クラ、ペル、エンカがローテーションで「裏庭警備」「マルたん付き」「フリー」と回っている。
「マルたん付き」というのは、俺の部屋で寝るという意味だ。
いや、俺付きじゃないんかい。
マルクが犬を、イヤ、犬がマルクを可愛がっているようで、3人…じゃなかった、ふたりと1イッヌで寝ている。
「フリー」と言うのは一緒に寝たい人らがくじ引きやらジャンケンやらで決めているようだ。
あ、ちなみに、裏庭にも、室内にも専用のイッヌ寝室はある。
1階に3つある倉庫のうちのひとつをイッヌ専用の寝室にした。
たまにそこで昼寝をしているのを見かけるが、夜は大概誰かの部屋で寝ている。
今夜、俺の部屋では、ペルペルと俺の真ん中にマルクがいる。
ペルペルのモフモフに埋もれて幸せそうな顔で寝ていた。
翌日。
ゴルダに相談したところ、問題ないだろうとの事だった。
この街ではもう“稀人”はかなりオープンに知れ渡っているので、手を出す輩がいるとしたら外から流れてくる盗賊系くらいだろうと。
なので逆にPOTやスクロールを渡しておいた方が開拓村の安全に繋がるとの事だった。
ちなみにどのくらい持っているのかと聞かれたので正直に答えた。
POTが一万、テレポートスクロールが三千と。
ゲームだとPOTがぶ飲みなので倉庫に一万あっても数日で使い切ってたからなぁ。
テレスクは自分は使わんし、ドロップ品を突っ込んでいたらいつの間にか貯まってた分だし。
というわけで、山さんと一緒に開拓村へテレポートして、長谷川さん(副部長)とキックとナオリンの3人に話した。
とりあえずPOTを1,000個とテレスクを500枚渡した。
POTは初級回復薬だ。
高級回復薬が3万ある事は話していない。
渡した物をどう使用するかは長谷川さんらが決めればいい。
俺は口を出さない。
キックとナオリンはさっそく神殿へ行くと言った。
長谷川さんはふたりほど興奮はしていなかった。
中庭の女神像に案内をした。
長谷川さんとナオリンは倉庫がカラだったらしい。
キックはゲームのほんの序盤にドロップした物が少量ではあるが入っていたので喜んでいた。
ちなみにヨッシー達も朝イチにここに来て女神像に触っては落ち込んだり、拾った石を入れては一喜一憂していた。
マルたんも石と花を入れていた。
司祭達も使えていたし、マルたんも使えると言うことは、信仰云々、冒険者云々って話じゃなくて、街の人、この世界の人、全員使えちゃう感じか?
女神像の倉庫…。
し、知らん知らん。俺は知らんぞ。
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