第138話 ギルドで聞いてみた

お昼過ぎのギルドは空いている。


いつものように出入口の小部屋のカウンターにゴルダは座っていた。

以前のようにまったりしているところを見ると、ゴブリン氾濫の処理はひと段落したのだろう。


 

「おう、どした? 弁当屋がいよいよか?」


俺に気がついたゴルダの方から声をかけてきた。


「ども。弁当屋はもう少しだな。ちょっと相談…というか聞きたい事があって」


「ん?2階に行くか」


人目を気にした話になるとゴルダは察したようだ。



二階のギルド長の執務室に入ると長椅子を薦めてきた。

俺はそこに座り、前にゴルダが座るのを待ってから話し始めた。

教会の中庭にある女神像の話だ。

女神像の倉庫はゴルダも初耳だったようで驚愕していた。



「この街以外にも稀人はいるんだよな?他の街の神殿とかはどうなんだ?」


「王都はもちろん神殿や教会がある街は多いが、そんな話は聞いた事がないな。像などどこにでも立っていると思うが」


銅像にそんな仕掛けがあると思うやつがいなかったのか、それとも今回俺らが地球から転移した事に関連して発症した事例なのか。

例えば…、稀人が落ちた街の女神像のみとか。

どちらにしてもゴルダは知らなかったようだ。



「ふぅむ。割と最近の事なのか」


「うむ、まだ知らせが届かぬだけか…もしくは、それぞれの街が秘匿しているのか」


ゴルダは今すぐ教会へ行きたがった。

が、その前に他にも相談したい事があり引き止めた。



「で、その女神像から前の世界で預けておいた物を色々と取り出す事が出来たんだけどな、前いた世界とここはちょっと違っているから教えてほしい事がいくつかある」


“前いた世界”というか正しくは“前いた世界でやっていたゲーム”なのだがな。

それを説明するとややこしくなりそうなのでそこは言わないでおいた。



「いいぞ。わかる事なら答える」


「魔法書、魔石、ポーション、スクロールはこの世界ではどうやって入手するんだ?」


「ふむ。ポーション…回復薬はこの街にもある。取り扱っているのは中央通りに2軒、魔道具屋だ」


「おっ、魔道具屋か!そこに魔石や魔法書も?」


「魔石、魔法書、スクロールはこの街にはない。もっと大きな街か王都だな」


そうなのか?

なら冒険者はどうしているんだ?


「この街じゃ狩りでドロップした物を買い取ったりはしないのか?」


「そんな高価な物を落とす高レベルの魔物はこの辺にはいない。いたら逆に困る」


「ポーションを落とす魔物はいるんだ?」


「ポーションは魔物からではなく薬草から作成する。作成するのは薬師だが魔道具屋がそれを買い取って売っている」


「ふぅむ、POTは作成か。作成方法とか材料は開示しているのか?」


「基本だけだな、開示されてるのは。あとは薬師の腕によってデキが違う」



ポーション作成の女神像の話をした途端に、ゴルダに引きずられて結局教会まで来るはめになった。

ゴルダは神殿長や司祭と何やら親密に話し込んでいた。

俺を連れてくる必要はなかったんじゃないか?

そう思い、ゴルダにひと声かけて俺は家に戻ることにした。



POTの在庫はだいぶあるし、作れる事もわかった。

あと売ってる店もわかった。

うん、安心だ。


問題は、この近辺に魔石をドロップする魔物がいないと言う事だ。

魔石はWIZにとって命にかかわる問題だ。

もちろん魔石を必要としない魔法もある。

が、魔石を切らして魔法が発動しなかったら笑い話にもならない。

いや、ゲームでは笑い話だよ?

「気がついたら魔石切れててヤバかったよ」

なんてよく聞いた。(俺もやった。)



カンタマ…カウンターマジックという魔法がある。

どんな強大な魔法でも一度だけ跳ね返す事が出来る、という魔法だ。

各街で500人以上が一度に参加した大型レイドイベントで、古代龍がすごかった。

こいつが放つファイアブレスは高レベルの前衛プレイヤーでさえも瞬殺された。

500人からのプレイヤーが一瞬で殺される中、カンタマをかけたWIZ達だけが生き残った。

フハハハハ。


………ただ、魔法は一回は弾くが、物理攻撃には対応しない。

古代龍のブレスで生き残っても、その後、龍のシッポでプチっと潰されてENDだった。

ワハハハ。


おっと話が逸れた。

その、俺の大好きカンタマは魔石が必須の魔法だ。

俺は敵の強い弱いに関係なく、狩り中は常にカンタマをかけていた。

なので魔石の消費量が半端なくて、常に在庫を気にしていた。


今回、女神倉庫に魔石が5千ちょっとあった。

5千なんてすぐ無くなるよなー。

ゲームではしょっちゅう魔石を取りに蟻穴に潜ってたっけ。

蟻穴、そこにいるジャイアントアントが魔石をぼろぼろと落とす。

WIZにとってはウマウマな狩場だった。

それと血盟内でも魔石を買い取らせてもらってた。

それくらい俺にとって魔石は必要な物だったのだ。


ゴルダがヒマになったらまた尋ねよう。

魔石を出す魔物情報を他の街から取り寄せてほしい。

一度行ってブックさえしてしまえば、いつでも魔石を取りに行けるからな。

そう。馬車を買ったからちょっとぐらい遠くてもオッケーさ。



「カンタマぁぁ」


ブィィィン

淡い光の輪が俺を囲んで消えた。

うん、ゲームの時のエフェクトに似てる。


俺はこの世界に来て初めて、カンタマをかけた。

手持ちの魔石がほとんどなかったのでかけてなかったのだ。



カンタマ掛かってると安心するわぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る