第87話 閑話 マルたん物語

マルク視点話なので、最初はひらがなで書いたのですが、あまりに読み辛くて漢字にしました。


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僕はマルク たぶん2歳。


「マルクは2歳くらいかな」

姉たんがそう言ったの。


「んー 小さいけどたぶん2歳くらいだろう。スラムのガキはみんなちっさいからな」

兄たんもそう言ってた。



よくわからないけど僕はスラムの子なの。

スラムの子ってなになのかな?


僕がまだ小さくて、歩くことも喋る事も出来ない頃

痛くて寒くて辛くて悲しかった時に、姉たんが僕を拾ったのだって。

姉たんのおうちの近くに僕は落ちていたんだって。


姉たんはアリサなの。

兄たんはダンて言うの。

僕はマルクなんだって、姉たんが付けたんだ。


姉たんと兄たんと一緒のおうちに居るようになって、僕に痛い事をする人はいなくなったの。

姉たんも兄たんも僕をぶったり投げたりしないの。

あと、ごはんもくれるの。

僕はふたりが大好き。


姉たんと兄たんがお外に行く時は僕はおうちでジッとしてるの。

外は痛い事をする人がいるから、だからおうちに居ろって兄たんが言うの。


時々姉たんが僕を抱っこして人がいっぱいいる所に行く。

市場って言うんだって。

市場はいい匂いがする。

そしたらお腹がぐぅってなるの。


いっぱいの人を見てると、僕と同じくらいの子がいるの。


「母たんー抱っこしてー」

「もう、しょうがないわねえ」

「ほら、父さんが抱っこしてやるぞ」

「やぁ 母たんがいいの!母たん、抱っこー」


姉たんに聞いてみた。

「姉たんは 母たん?」


姉たんはちょっと悲しいお顔になった。

「私はマルクのお姉ちゃんだよ」


兄たんに聞いてみた。

「兄たんは 父たん?」

「俺は兄ちゃんだよ」


僕の母たんと父たんはどこにいるんだろう。


ある日、兄たんと姉たんと僕はいつもと違うおうちに行ったの。

そしたらそこには大っきい人がいっぱいいたの。

今日からここに住むんだって。

怖いな、ぶたれるかしら。


大っきい人が僕に手を伸ばしてきた。

きっとぶたれる。

姉たんにギュっとしがみついたら、大っきなお手てでナデナデされた。


もう1人の大っきな人が姉たんから僕を取って、僕を高く上げてグルグルした!


「ほぉ〜ら、高い高い」


投げられちゃう。

いつもそうだったもん。

僕を投げて痛くて泣くともっともっとやられるの。

痛くても我慢なの。


「石原さん!マルク、怖がってるんじゃないか?」

「え?あれ?そっか。わりぃわりぃ、うちの子、これが好きだったからつい…」

「かして、俺が抱っこする。え?ずいぶん軽いな。ガリガリだ」


今度は大っきい兄たんに抱っこされた。

揺すられながら背中をポンポンされて、頭にチュってされた。


ポンポンされながらユラユラされるとなんだか眠くなってきた。

大っきくてあったかくて何か安心する。

もしかして父たんかしら。


でも聞かないの。

違うって言われたら悲しいから。

でもきっと僕の父たんなの


それから僕はこのおうちに住んでいるの。

いつもごはんの時は父たんか大っきい兄たんに抱っこされる。

抱っこされてごはんがお口に運ばれてくる。


「いっぱい食べて大っきくなれよー」


僕をグルグルした大っきい兄たんは怖い人じゃなかった。


「マルクー、これも食べなー」


父たんも僕のお口においしいごはんを入れる。

父たんは時々僕のお口のまわりを拭いてくれる。

僕が上手に食べれなくてお口のとこについちゃうから。

でもなんかとっても嬉しくなるの。

父たんが大好き。


「カオさん、今日は仕事どうする?街中?」

「カオさん、明日、市場行きます?」


みんなが父たんを母たんって言う。

あれ?

父たんじゃなくて母たんだったの?

そっか母たんだったんだ。



ある日大っきい人がいっぱい来たの。

怒鳴ったり怒ったり怖い人達。

母たんに怒ってるの。

どうしよう、母たんがぶたれちゃう。


母たんがお仕事に行った後、また怖い人がいっぱい来た。


「何で浮浪児がここに住んでるのよぉ。ほら!出てって」


怖いよ。


「ねえねえ、あんた達、ここ使いなよ」

「え、でも、この子達の部屋じゃないの?」

「浮浪児でしょ?この子ら 外でいいじゃん」


「ちょっと!何勝手な事やってるんですか!土屋さん!」

「うるさいなぁ 転勤してきて1、2年の新顔のくせに生意気なのよ」

「転勤とこの家は関係ないでしょ!」

「関係あるの。ここはー、今後はー、うちら3係が仕切るんだから」


怖い。

大っきい姉たんと怖い人がケンカしてる。

怖いよ、母たん助けて。


「大丈夫だよ、マルク」

姉たんが僕に言った。

けど姉たんも泣きそうなの。


「アリサ、マルク連れて二階においで」


姉たんが僕を抱っこしてお二階に行った。


それからも何度か怖い人が怒鳴ったりして、僕らはおうちを出る事になった。

教会に行くんだって。

教会ってよくわからないけど、子供がいっぱいいるんだって。

僕より小さい子もいるみたい。


教会でいっぱいの子達とごはんを食べていたら、大っきい兄たんや姉たんを皆んなが狙っているの。

僕のように抱っこされてごはんをあーんってしてもらってる。

僕を抱っこしてる母たんのとこにもひとり来た!

母たんの手を引っ張って抱っこしてもらおうとする。


だめなの!


母たんは僕の母たんなんだから!

誰にもあげないの。

僕の母たんはずっと僕の母たんなんだから!



う、う……うわぁぁあん とっちゃだめぇぇぇ



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「どうしたんだ?今まで泣いた事なんかなかったのに」


教会で40人の子供達に混ざって食事をしていた。

いつもは大人しく抱っこされて食事をしているマルクが、今日は途中からしがみついて泣き始めた。

こんなにわんわん泣くマルクは初めて見た。


「最近、土屋さんらのせいで家が荒れていたし、子供ってそういうの敏感に感じ取るから、マルクもかなりストレスだったと思いますよ」


ユースケがマルクの頭を撫でながら言った。


「そっかぁ。飯は食べていたし体調も悪くはなさそうだけどなぁ。寝ぐずりか?」


ヨッシーがマルクのおでこに手を当てて熱を見ていた。

そのヨッシーの背中には子供が3人くらいへばりついていた。


見るとユースケにも部長にも子供が群がっていた。

あっちゃんやユイちゃんは女の子に囲まれて食事をしていた。


みんな親が恋しい年齢だよな。


「ちょっと散歩しながら寝かしつけてくるわ」


そう言うと立ち上がり、ぐずるマルクを抱っこして教会の中庭へ向かった。



俺、子守唄なんて知らんけど、ま、なんとかなるっしょ。

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