第85話 反省会

話は少し巻き戻る。

カオが神殿へテレポートで飛んだ直後の市場にて

あっちゃん視点

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「あのさ、第16回やまと会議、開かねぇ?」


「どしたの? ヨッシー」

「どうしました?」

「今ここで会議ですか? カオさんいないのに?」


ユイちゃんがちょっと不安気な表情で問いかけた。

いつもと違う様子にダン達も不安そうにヨッシーを見つめてる。



「うん…あのさ。俺たち…って言うかほぼ俺、かな…。カオるんに頼り過ぎかなって」


ヨッシーは下を向いて足下の石をグリグリと踏んで言葉に詰まっていた。


「………なんか突然変な場所に来て、街に連れてこられて、1ヶ月で自立しろとか言われて」


「うん」


「あっちゃんらがカオるんと暮らすって話聞いて、俺ドサクサに紛れて厚かましく混ざっちゃってさぁ。カオるんなら断らないって思ったんだよ、あの時」


「いや、それを言ったら僕もですよ。僕なんかヨッシーが言ってくれた言葉に乗っちゃいましたから、もっと図々しいですよ」


「でもさ、今回土屋さんらが押しかけて来てカオるんに横暴な態度とかとってさ、何かさ、自分も土屋さんらと変わらないんじゃないかって、思った」


「それは…」


「カオるんが土屋さんらにキレてたのを聞いて、本当は俺の事も迷惑だったんかなぁって」


「確かにあのやり取りで僕もやまと社員として頭を下げたくなりましたね」


「そ、そしたら私だって…」


ユイちゃんも下を向いてしまった。

どうしよう…子供達にも不安が移っちゃう、何とかしなくちゃ…。

こんな時カオっちならどうするかな。

カオっちはジメジメするの嫌いだった、うん!



「違うからね!カオっちはそんな風に思ってない!」


「でもさ、俺らってカオるんにとって足手まといじゃないか。俺ら…俺、完全にぶら下がってるよな。家の家賃も、日常雑貨とか他にもテレポート魔法とかさ。

カオるんひとりなら余裕の生活出来たし、家だって出なくて済んだじゃん。土屋達だって俺らのせいで来たようなもんだし」


「バカ! バカ者!日本なら上司にバカなんて言えないけど、ここはもうやまと商事はない世界だから、あえて言わせてもらうわ。ヨッシー!バカですよ 怒りますよ!」


「あっちゃん、もう怒ってますよ」


ユイちゃんが私の服をツンツンと引っ張る。


「カオっちはぁ、嫌だったら最初から一緒に住まないよ。私達1ヶ月以上一緒に生活してきたじゃん。家賃だってカオっちだけじゃなくて、ヨッシーもユースケさんもダンもユイちゃんも皆んなでお金貯めたでしょ!」


「トイレットペーパーだって他の雑貨だって防災グッズだって、カオッチは、アイテムボックスがあったから入れてきただけだって言ってた。自分の物を皆んなに使わせているとか思ってないって」


「でも、スウェットとかお菓子はカオるん個人のだよな?」


「うん、でも、もし日本で大地震が起きて職場に篭る事になっても、カオッチは持ってる個人の防災グッズやお菓子を皆んなに配ると思う」


「そうですね…カオさんってそんな人でしたね。自分の損とかを考えずに周りの為に走り回る…」


ユイちゃんが俯いていた顔を上げると、さっきの自信なさげな顔ではなく何かを決意したような顔つきになってた。


「あの…私、あの部署に異動して来たばかりの時、仕事を全くもらえなかったんです。後で知ったんですけど、体調を崩して異動してきたから仕事をさせるなって。島係長が皆んなに言ったみたいで、気をつかってもらってるんですけど、一日中、何も仕事がないって凄く辛かったんです」


「うん、島に言われてた。また体調壊したらお前らのせいだからなって」


「はい。自分だけ仕事ないと周りの目も気になるし、勤務時間の間ジッとしているのって拷問みたいで、1週間が長くて辛くてもう会社辞めようかなって思いました」


「うわ、それは確かにキツイ」

「ええ、昔どこかの会社の話ですけど、リストラ部屋というのがあって辞めさせたい社員をその部屋に入れて仕事をいっさい与えないとか」

「うわ、エグっ 土バア達は逆に喜びそうだけど」



「で、そしたら次の週の月曜日にカオさんから仕事を頼まれて。6係が使う共有マニュアルが古くなったのでインデックスとか破れたとこの補強を頼まれて、期限のある作業じゃないから好きな時にゆっくりやって欲しいって。それに机の上にそれがあると周りの目も気にならないし、うちの係の業務のだから暇な時は読んでみたらいいって。お陰で時間を持て余す事もなくなったし、それに目を通していたら業務もわかるようになって嬉しかったです」


「うわぁ、さすがカオさんですね」

「カオっちグッジョブ」


「でもですね、実はその数日後に5係の大倉さん達が廊下でカオさんを囲んでるとこ見ちゃって…。派遣が社員に仕事を振るとか図々しいにも程があるとか、彼女の病気が復活したらアンタのせいとか…。私のせいでカオさんが責められているのに、怖くてその場に入っていけなくて」


「大倉さんか…それは、入っていけなくてもしょうがない」

「すまん、うちの大倉が」

「ヨッシー、もうやまとはないんだから5係とか関係ないよ」

「いや、その時はまだ俺が係長だったから…」


「あ、ごめんなさい。ヨッシーさんを責めるつもりで言ったんじゃなくて、あの、その日の夕方カオさんに謝ろうと声かけたんです。そしたら、この職場は妖怪が多いから近寄ったらだめだよって」


「ブッ、カオっちてば、大倉さんを妖怪呼ばわり」


「はい。で、俺は妖怪の言葉はわからないから神妙なふりで聞き流してるって笑ってくれて。あと、嫌じゃなかったらマニュアルの修正も続けてほしいって言ってくれてホッとしました。でも私が何もやらない方が鹿野さんに迷惑はかからないんじゃないですか?って聞いたら、妖怪の言葉はハエが飛んでるのと同じで煩わしいけど放っておくし、それよりも大森さんが仕事に興味持ってくれる方が良いって言ってくれたので甘える事にしました」


くそう、カオッチ、マジいいヤツ。



「……俺は、どっちだろう」


「ヨッシーは人間に決まってるじゃん。いつまでグジグジしてるの」

「そうですよ、ヨッシーが妖怪ならとっくに追い出されてますよ」


「よっし、この際みんな吐き出してしまえ!ヨッシー、他にもある?気になってる事」


ヨッシーはやっと顔を上げた。


「ある。こっちに来てからだけじゃなく、俺、元のとこでもおんぶに抱っこだった」


「うんうん、どの辺が?」


「俺がアウォード貰ったの知ってる?」


「ああ、ペーパーレス化で会社に貢献したやつですよね?」

「え、凄い!ヨッシー、アウォード貰った事あるんだ」

「凄いですね」


「……それ、アイデアはカオるん…なんだ」


「カオるんから紙の資料を無くせないかって相談されてふたりであれこれ考えた。申請する時にカオるんの名前も入れたのに、アウォード貰ったのは俺だけだった」


「社員じゃないからですか?」


「あとでわかったんだが、申請が副部長に上がったときに副部長が島係長に聞きに行ったらしい。5係と6係の合体案件なのかって。そしたら島がカオるんの名前を削ったって」


うわぁ、島ぁ…そこでもかー。


「島係長にそんな権限はないはずですが」

「うん。でも、鹿野は派遣ですしシステム関係には関わっていないですって副部長に言ったって。石原さんと鹿野のふたりには僕が確認しますって島が言ったらしい。確認になんて来なかったけどな」


「それは…」

「でもカオっちは別に怒ってなかったでしょ?」


「うん そうなんだよ。システムを構築したのは石原さんですよって笑って返された。でも俺、誰かにアウォードを褒められる度に、カオるんの案を横取りしたって嫌な気持ちになる」


「あの…私、カオさんが資料整理している時に聞いたんですけど、以前はこの千倍くらい紙の資料があって保管や整理が大変だったけど、石原さんがペーパーレスのシステムを組んでくれたお陰で今の量になったんだよ。助かったーって言ってました」


「え……」


「ほら!ヨッシー、カオっちは恨んでないし、喜んでるじゃん」


「俺…お、おれ」


「男が泣くな」


「だってさ、うちの係の大倉とか中谷とか、いつもカオるんの陰口ばっか言うし、注意すればするほどヒステリー起こしてカオるんの悪口がグレードアップするんだよ。そしたら注意できないよ。俺、どうすればよかったんだ」


「ヨッシー、仕方ないですよ。大倉、中谷、小島の三人は誰にも御せませんよ。前の副部長が病んで退職したのもあの三人が原因ですし」


「前の副部長?私やユイちゃんが来る前かな?」


「ええ、そうです。新人さんや転勤して来た子に対するイジメが酷くて、前の副部長があの三人をどうにかしようとかなり強く注意をしたんです。そしたら今度は副部長がターゲットになってしまって、ありもしない不倫の噂を流されて、人事部や副部長の奥さんにまで嘘のメールや手紙を送りつけたりでかなり大事になりましたね。

ヨッシーの前に5係の係長だった布施さんって人も、あの三人と色々あって結局退職しましたし…。ヨッシーは5係の係長になってよくやってると思いますよ」


「こわぁい……」

「うわぁ あの大中小トリオってそんな前科持ちだったんだー」

「大中小トリオ…大倉、中谷、小島……プッ あっちゃんナイス」


ようやくヨッシーに笑顔が戻った。


「まぁその、ふふ、大中小トリオ?をうまく転がしてたのはヨッシーとカオさんのおふたりくらいですよ。そういう意味ではヨッシーとカオさんは良いコンビでしたよ」


「カオっちは毎日忙しく走り回ってたから大中小を転がしてるつもりはないんだろうなー」


「あ、僕も懺悔いいですか?」


「ユースケさんもあるの?」


「ありますよ

あの職場にいたらカオさんに懺悔する材料はぼろぼろ出て来ますね。僕もうちの、4係の係長としてカオさんに懺悔したいです」


「4係と言うと三好さんあたり?」


「いえ、水戸さん達です。彼女たちは仕事のミスをカオさんになすりつけてまして…」


「え?カオっちは6係だから関係なくない?」


「それが毎度毎度ミスするたびに、水戸さん達は三好さんに聞いた、三好さんは鹿野さんに聞いた。だから鹿野さんが間違えて教えたと」


「なんじゃ、そりゃあ」


ヨッシーが奇声を上げたが、気持ちはわかる。

うん、まさに、何じゃそりゃあだ。


「三好さんはいちいちカオっちに聞きに行くの?」


「いえ、それが、三好さんは鹿野さんが言ったと言い張るんですけど、嘘ですね。毎回大嘘。水戸さん達も三好さんに聞かずに他の人に聞くか自分で調べればいいのに、どうしてか毎回同じミスを繰り返すんです。しかも苦情の電話をしてくる営業所には鹿野さんの名前を告げるので苦情が毎回鹿野さんへ」


「うわぁ、カオっち、迷惑千万?」


「水戸さん達には何度仕事の説明をしても理解してもらえなくて、その仕事を西野さん達に回すと私達に全部押し付けないでくださいと言われますし」


「青山さん達は?4係は男性もいましたよね?」


「ええ、彼らは『事務は自分の仕事ではない』と」


「え、いやいやいや、うちの部は事務統括本部ですから〜事務を〜取りまとめてる〜大元! 事務の総本山!」


「そうなんですけど、システムが得意、システムしかやらないとか言っていて。はぁぁぁ」


「なんか、長が付く人って大変なんですね…」


「島は別だけどね!」


そこはハッキリ言っておく。

アイツは長が付くけど人としてアカンやつだから。


「それで、カオさんに謝るついでに相談もしたんですよ。そしたら、ふふふ、やっぱりカオさんは凄いですね」


「え、何?何?」


「いえ、操作マニュアルを作ってくれたんですけど、そのタイトルが、『通りがかりの小学1年生でも出来る操作方法』」


ユイちゃんもヨッシーも吹き出した。


「何だ、それぇ。わはははは」

「それって大倉さん達が小学生って事ですか?」

「ただの小学生より酷いw 通りがかりだよ? カオっちサイコー」


「あ、もちろん、彼女らに渡すマニュアルのタイトルは普通に『操作マニュアル』でしたけど」


「すげぇな。うちの係にも作って欲しかったぜ」


「それで本当に水戸さん達のミスがパタっと止んだんですよ。カオさんの凄いとこはそれだけじゃなくて、苦情電話をかけてきた営業所への対応処理も良かったらしくて、営業所からわかりやすくて助かったとお褒めの言葉も結構いただきました。懺悔したい1番は、本当はそれらの事を自分がやらなければならなかったのに鹿野さんにおんぶに抱っこって僕もずっと思ってたんです。何かでお返ししたいけど、係が違うと接点も少ないですし、でも、鹿野さんが困った時は絶対手を貸したいと思ってました」


ユースケさんとヨッシーは見つめ合ってうんうんと頷いていた。

ヨッシーもユースケさんもユイちゃんも吐き出せたかな?

自分も吐き出そう。


「あのさ、私も出していい?」


なるべく暗くならないようにしようと心に決めて話し始める。


「皆んなと一緒に住み始めて、皆んなはギルドで働き始めたけど私は妊娠してるからって大目に見てもらってたじゃん?妊婦だから無理しないで、妊婦だから家でゆっくりしてって。凄くありがたかったけどやっぱり負い目みたいのがあった。

で、カオっちにギルドで働きたいって相談した事があって。そしたら家事嫌い系?って聞かれて、嫌いじゃないけど皆んなと同じくお金稼ぎたいって言ったの。そしたら、部屋から毛布持ってきて、これ、クリーニングに出したら1300円、8人分だと1万円超える。マルたんの面倒見てくれてるけど、ベビーシッターだってそれなりにするだろ?毎日8人分3食の食事作りも外で食べたらかなりの出費。それをあっちゃんとアリサが毎日頑張ってくれるから俺らは外で働けるんだよ?主婦が1番偉いと思うよ、俺は。って言われた」


「そうです。あっちゃんが家で頑張ってくれてるから私達稼ぎに出られてます!」

「そうだよ、あっちゃんいつもありがとうな!」

「本当です!ありがとうございます。アリサもありがとう」

「アリサちゃん、ありがとうね」


「あ、いえ、そそそんな」


「ふふふ そうでしょお?うちら頑張ってるもんねー」


アリサの肩を抱いてちょっと胸を張った。


「まぁ、カオっちに言ってもらえたので毎日楽しく卑屈にならずに頑張れるの。だからヨッシーも、皆んなも、毎日普通に頑張ればいいと思うよ。カオっちはさー、ちゃんとわかってくれてるから!」


そんな感じで私達の反省会は終了した。

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