第77話 血塗れ魔法使い

押しかけ居候のパート達とのバトルの後、自分の部屋に入った。

あ、“元”自分の部屋な。

今は田畑さんら4人の部屋になったんだっけか?

4人は部屋の前で待たせて荷物を取りに入った。


部屋に入ると、日々使っていた雑多な物が床に散らばっていた。

もちろん俺が散らかしたんじゃない。

どうやらあいつらが俺の部屋に入って、あちこちほじくり物色したようだ。


大事なものはアイテムボックスにしまっておいたので、持っていかれたのはたいして差し障りがないものだ。

洗濯してあった作業着や手ぬぐいなどだ。

下着は床に落とされてさらに踏まれた靴跡があった。

ため息というか長い息が口から漏れた。


「もう…人としてどうなんだ、あいつら」


気持ち悪さで脱力感が半端ない。

よくもまぁ、あんな人間が多数あの部署に集まったもんだと、ある意味感心するぜ。


とりあえず回収できる物は回収してこの日はリビングで寝た。




翌朝、

日が昇りきらないうちに家を出て西門へと向かった。

竜の慟哭のみんなと西門前で待ち合わせていた。


「おはよ」


「「「おはようございます」」」


3人は俺より先に来ていて門で待っていた。


「ごめん 遅かったか?」


「そんな事ないです」


「みんな忘れ物はないか? なければ出掛けようか」


昨日イノシシを担いで街に戻りギルドで買い取って貰った。

そのお金でゴブリン討伐依頼を受けるための買物をした。

今日はちょっと遠出をしてゴブリンを狩ってみる予定だ。


まずは西門から北西の草原へと歩きだした。


今日はゴブリン討伐がメインなので、荷物になるケモノは極力狩らないように決めた。

林の手前でいったん休憩をとった。

軽い食事と男女に分かれてのトイレタイム(野っぱら)だ。


草原の草は街に近いほど草の背丈は低く、街から離れ林に近づくほど草の背が高くなっていた。

林手前のこのあたりだと草の高さは1メートル半は軽く超え、身長がそれほど高くない俺は顔のほとんどが草に埋もれてしまう。


マップを展開しながら行動しているのでゴブリンなどのモンスターには気がつくが、獣は確実に踏みそうだな。

踏むというか、草むらに潜む猪や狼がいても気がつかずに蹴っ飛ばしてしまいそうだ。

うん。絶対。

メリーの弓もこの草むらでは役に立ちそうもない。

とりあえず4人で固まりながら林方面へとゆっくり進んでいった。

そう、昨日も今日もイッヌを出していない。

イッヌに頼らず自分達の力を試すつもりだ。


マップに赤い点が映し出された。

俺が青い点、ヒューゴ達が黄色い点3つ、その少し前方、草原と林の境あたりに赤い点が3つ。


ゴブリンだろうか?

この草むらで視認は難しいな。


「前方に、何かいるっぽい」


とりあえず小声で曖昧に注意を促した。


「このまま走って林に突入した方が戦いやすくないか?ここは草の背が高くて邪魔すぎる」


ヒューゴたちに聞いてみると


「そうですね、ここだと飛びかかられるまで気がつかないです」

「何が襲ってくるかもわからねえ」

「私の弓は全く使えないわ」


「とりあえず草原を出よう。林の前まで行くぞ」


赤い点を避けるようにみんなをさりげなく右側へ誘導して走り始めた。


「わああーーーっ!」

走りながら大声をあげた。


「カオさん!何してるんですか!敵に気がつかれますよ!」

すぐ隣を走っていたメリーが驚いたように私をとめた


「どうせ走る音がするんだから逆に大声で威嚇だ!草原から出て視界が開けたら即戦闘に入るぞ」



「うおおおおおお」

「ワアーーーー」

バルトロ達も走りながら叫び始めた


マップに映っていた赤い点が心なしか慌てたように右往左往と動いた。

思いがけないこちらの行動に動揺しているようだ。


ザザザザ

背の高い草原地帯から抜けた

草原と林の間の広場は小さい石がゴロついていたが草がない分戦いやすそうだ。

俺を含め4人は林を背にして背の高い草を警戒しながらモンスターを待った。


背丈の高い草を掻き分けて魔物が出てきた。

緑の肌で身長が1メートルにも満たない、二足歩行の小人。

やはり、ゴブリンだ。

牙をむき出しにして威嚇しながら腰を曲げたままジリジリと近寄ってくる。


ゲームやファンタジー小説に登場するイメージまんまのゴブリンだな。

けれど実物大でしかも動いてる(生きてる)ゴブリンを目の前にすると、ちょっとなんて言うか、異世界なんだなってしみじみ思った。

ちなみに前回街に向かっている時に踏んじゃったゴブリンは、草に隠れてよく見えなかったし、ハッキリ見たのはイッヌ乱入後の死体だったから、あまり実物感がなかった。


出てきた最初の一匹をメリーがすかさず矢で射った。

そこにバルトロとヒューゴが飛び込んでトドメを刺しに行った。


マップには赤い点が3つ出ていたはず。


「第2、第3 くるぞ! メリー!矢を構えて!」


俺は杖を握り直し、殴りかかる準備をした。

(注:魔法使いの杖は殴り専用ではありません)


「来た!射ちます!」


メリーが矢を2体に向けて連射した。

しかし矢は2体のゴブリンの肩あたりにそれぞれ刺さったが、ゴブリンは勢いを止めずに俺に向かって突っ込んできた。


パコーン!ボカーン!バコ!


まず手前の一匹を三発殴って沈めた。

いや、一発目で沈んでいたが緊張で力んでいて止まらなかった。


「オラァ!もーいっぴきー!」


バシンバシンバシンバシン!!!!


四発お見舞いしながら


「そっちのやつにとどめさして!」


バコンバコンバコンバコン!!!!


八発目・・・あ、完全に死んでた。

てか、たぶん一発目で死んでたかも。



ゴブリンの血は青かった。

杖も自分も青まみれになった。

やはり近接戦は嫌だな。

だからゲームでは補助や回復重視の魔法使いといった後衛キャラを好んで選んでいたし。

いや、ゲームは血塗れにならなかったけどね。

まぁソロプレイヤーだと前も後ろもないから、やる時はやらないとなんだけど。


1匹目、2匹目が完全に死んでる事を確認したバルトロ達が戻ってきた。

青い血しぶきを被りまくった俺をボーゼンと見つめて呟いた。


「カオさん・・・」

「魔法使い・・・・後衛って」


「念には念をだな。死んだ振りかもしれないし・・・な?」


だってだってだって、接近戦って近いし怖いしやられる前にやらないと!

しっかりとどめを刺さないとだぞ。



「耳を切りましょう」


バルトロが小さいナイフを出して、ゴブリン討伐部位の右耳を切り落とした。

その間にアイテムボックスから布を出して杖をふきふきしておいた。

それにしてもこの杖、頑丈で助かるなぁ。


ゲームでは剣などの武器の損傷はあっても杖の損傷はなかった。

まぁ、杖は魔法を飛ばす媒介の様なもの、のはずなのでシステム上「損傷」の対象ではなかったのだろう。

ゲーム内のウィズは杖で殴るやつ多かったよな?

アンデッドは別として、剣を持って戦うウィズなんて見たことない。


この世界ではどうなんだろう。

この世界ではもしかすると杖の損傷もありそうだな。

杖が壊れたら困る。

あまり殴るのはやめておいた方がよいか?

ゲームと違って替えの杖を入手出来るかわからないからな。

ん?杖って武器屋とかで売ってるのか?

街に帰ったらゴルダに聞いてみるか。


予備と予備予備くらいは持っておきたい。

いや、その前にお金を貯めて引っ越しをせねば。



あのパート達とバイバイして、可愛いマルたんで癒される日々を送りたい。

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