第39話 異世界の不動産事情
朝、外が明るくなってきて目が覚めた。
昨日は部屋に入ってベッドに横になった途端スイッチが切れたように爆睡してしまった。
やはりなんだかんだとあってかなり疲れていたようだ。
宿屋の一階に降りて外にあるトイレを使い、そのあと井戸で顔を洗って二階に戻った。
隣の中松さんの部屋のドアをノックするとすぐに返事があった。
中松さんも起きていたようだ。
「おはよう 中松さん よく眠れた?」
「おはようございます。鹿野さん。いろいろ考えて眠れないかと思ったけど、横になったらグッスリでした〜。宿に泊めてもらってよかった〜。鹿野さんありがとございます」
「うん、洗面の井戸は一階の外ね。洗面とトイレ済ませたら食堂においで。先に行ってるね」
タオルとトイレットペーパーを渡した。
「おおおおお!」
目を輝かせながらトイレットペーパーを受け取った中松さんが部屋を出て行った。
こちらの世界のトイレ事情はボットン式である。
一見洋式に見える座れる便座があるが、便座の中は深い穴があり、定期的に汲み取りをするそうだ。
もちろんトイレットペーパーはなく、布の切れ端か葉っぱで拭くのが主流らしい。
昨日寝る前にトイレに行く中松さんにトイレットペーパーを渡したら大喜びしていた。
どうも初日は大変だったらしい。
食堂で中松さんを待ち、一緒に朝食にした。
朝食のパンとスープを食べながら、今日の予定を打ち合わせた。
食べ終わったあとに一緒に宿を出たが午前中は別行動になる。
大通りを中央までは一緒に歩いた。
中松さんはそのまま東へ進み神殿へ、俺は大通りを北へ曲がりギルドへ向かった。
ギルドは日が昇った2時間程と日が暮れる前の2時間くらいが混み合うそうだ。
今日はゆっくり朝食をとってからきたので、朝の混雑からやや過ぎた頃だろう。
依頼の貼られたボードを見ていると、薬草やケモノの肉は常時受付可能とあった。
ヘタレの俺はしばらくはこの依頼で地道に金を稼ぐつもりだ。
だが今日は依頼は受けない。
これからまた街の中を散策する予定だ。
ギルドへは聞きたいことがあり寄ったのだった。
ちょうど受付にゴルダがいたので話しかけた。
「ゴルダさん、おはようございます」
「おう。昨日の」
「はい。カオです。ちょっと聞きたいんですが、家を借りたり買ったりするのもこのギルドの受付でやってもらえますか?」
「ん? ああ 家の斡旋もやってるが」
ゴルダ、野太くて良い声してるなぁ。
同じ男としてちょっと羨ましく思った。
「家を買うのか?」
「まだお金がないから無理だけど、もしかしたらいずれはこの街で借りるか買うかするかもしれないから、聞いておこうと思って」
「そうか。まあ、ピンからキリまでだが、借家だと7〜8人用でひと月銀貨5枚程度からある、場所によるがな。売家は‥‥今ある物だと最低が4人用の小さい家で大金貨1枚、場所もスラム近くだな」
スラムの近くってことはギルドから遠いな。
「大通りの中央やギルドの近くはありますか?」
「この近くか。一軒あるにはあるが、王都に引越し予定の大店で家と店を合わせた結構大きな物件だ。金額もデカイぞ、白金貨1枚だ」
「白…金貨?‥‥白金貨1枚っていくら?いや、いくらは変か、どのくらい、いや、えと、」
通貨がわからず俺がアワアワしているとゴルダが笑いながら説明をしてくれた。
「白金貨は大金貨100枚、金貨だと1000枚だから、家の売値は 金貨1000枚だな」
「ぎ、銀貨だと?」
「1金貨が100銀貨だから…100,000銀貨か」
「ぐはっ」
「負からんぞ」
「はぁ、まぁ聞いてみただけです」
町へ向かう途中にイッヌがイノシシとか狩って銀貨14枚だったか。
白金貨1枚を銀貨に換算すると100,000枚だから、
家を買うには狩りを10,000日間くらいする必要があるな。
1年に300日狩りをするとして……33年狩れば、家が買える?
いや、生活費やらそれまでの家賃やらを考えると40年くらいか?
40年間毎日猪を20頭以上………。
………猪、全滅するな、それ。
住宅ローンとかあれば……。
いや、もっと手頃な賃貸物件でいいんじゃないか?
賃貸ならひと月銀貨5枚からって言ってたな、さっき。
まずは賃貸で生活を安定させよう。
ちょっと遠い目をしながらギルドを出て町の散策を始めた。
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