第14話 やまと商事事務統括本部第六係中松あつ子視点①
仕事を始めて1時間もしない頃、
突然気絶した!!
気絶して、目が覚めたら職場の電気が消えていて薄暗かった。
そんで窓から見えた景色が変だったのよ!
うちの会社は40階建てのビルで、目の前の道路を渡ると日比谷公園なのだけど。
今、窓ガラスのすぐそこに木々が鬱蒼と茂っているのが見える。
近い。
近すぎる。
日比谷公園ってこんなに目の前じゃなかったよね。
あと、ここ22階だから。
木が長すぎない?
普段は窓から国会議事堂とか、あと遠くに富士山とか見えてた。
今はもうもうと茂げる木の幹しか見えないよー。
「中松さん」
呼ばれて振り返ったら、後ろの方に鹿野(かの)さんがいた。
鹿野さんは同じチームで働く派遣さんで男性の事務派遣さんだ。
私が勤める会社はやまと商事といい、日本でも結構名前の知れた大企業なのだ。
日比谷にある40階建てのビルまるごとがうちの会社の本社だ。
そのビルの22階に事務統括本部があり、私はそこの第六係で働いていた。
事務統括本部は第一係から第六係の6つチームに分かれて業務を行なっている。
第一係はデータ入力等の契約社員さん50名のチーム(結構年配の方が多い)
第二係は総合職の女性社員10名のチームで主に1係の契約社員さんの仕事の補佐というか取りまとめをしている。
第三係は部内の総務的な仕事で、係長と男性1名と女性3名の正社員、契約社員5名の合計10人。
第四係はやまと商事の北東方面の支社の取りまとめ事務で、係長と男性3名、女性6名の10人。
第五係は南西方面支社の取りまとめで、係長含む男性5人女性5人の10名。
で、うち、第六係は本部事務全般で、係長と男性2名と女性6名と唯一の派遣である鹿野さんを含めての10人。
1〜6係で100名と部長副部長で総勢102名。
私は2年ほど前にこの部署に異動してきた。
入社したのは自宅から近い横浜支社だったのだけど、まあ、いろいろあって本部のこの部署へ異動になったのだ。
本部に転勤という話を受けたときはちょっと期待もあったのだけど、
実際来てみたら、ね。
うん。本部って言ってもいろんな部署があるんだね〜〜。
バリバリと最前線の本部もあれば、
のんびりと、「毎日出勤さえしていれば給料貰える〜〜」なんてとこもね。
うちは後者、別名リハビリ部……。
あとで知ったよ、このあだ名。
身体、心、性格のいずれかに病を抱えた人たちが毎日のんび〜〜り過ごしている部署なのだって。
だ、け、ど。
「事務統括本部」という名を背負っている以上仕事はそれなりにあるはず。
何故業務が破綻しないのか不思議だったんだけど、異動して半年もたつ頃に謎は解けた。
ほんのひと握りの人たちがこの部の柱として日々業務を回していた。
その中でも真ん中の大黒柱が鹿野(かの)さんという人だった。
だけど鹿野さんは社員ではなかった。
鹿野さんは派遣であり男性でもある事から、雑用や力仕事を一手に引き受けていた。
引き受けて?というか、押し付けられていた。
にもかかわらず、うち六係の業務をもサクサクこなし、かつ他の係から押し付…頼まれた業務も全てこなすという、何?この人、必殺仕事人???
すげええええええって、感心した!
周りの人達(主に性格が病んでるババア、あ、失礼。性格のおよろしくないご年配の方々)は鹿野さんへの陰口がひどかった。
けれど、部長や副部長、部を回している数名の人たちからの鹿野さんの評判はすこぶるよかった。
もちろん私も鹿野さんの信頼度はMAX!
「中松さん」と名前を呼ばれて手招きをされたので、事務室の後方にいた鹿野さんのとこまで机や人を避けながら歩いていった。
鹿野さんから突然、
「ステータスと言って」
と言われた。
意味がわからなかったが、鹿野さんの発言はいつもちゃんと意味がある。
そして必ずなんらかの成果に繋がるのでそのときもすぐに従った。
「ステータス」
ビックリした!
目の前に変な画面が出現した。
自分の名前が出ている。
何だこれ?
てか、〔職業:騎士〕って何よー
私の職業はOLだよ!
近くにいた大森ちゃんもステータスな画面が出たみたい。
私達が驚いている間に鹿野さんから次の指示が出た。
さすが仕事速い人だなー。
フレンド登録?
メール?
鹿野さんと大森ちゃんと3人でメールやら念話をしているとまわりに人が集まってきた。
「中松さんフレンド申請するねー」
「中松さんフレンド申請したから承認してぇ」
次から次にフレンド登録を申請されたりテストメールが飛んできたりで人混みに埋もれていると、
いつの間にか鹿野さんはいなくなっていた。
あのスーパー派遣の鹿野さんの事だ。
何か次の発見に動いているのかな?
職場は電気が切れて薄暗いし、窓の外は樹しか見えないし、
電話は繋がらないし、スマホも圏外で家族、夫に連絡も取れない。
職場の人達は不平不満や陰口しか言わない信用出来ない人ばかり。
今は鹿野さんがいてくれる事がたったひとつの安心。
ふと、半パニックでぎゃーぎゃー騒がしかったフロアが波が引くように急に静かになった。
え?
南の非常口から変な集団が入ってきた?
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