たった一人の戦い~私は仲間を失っても戦い続けなければならない~

黒金 影輝

たった一人の戦い~私は仲間を失っても戦い続けなければならない~

 私は、今軍用車両に乗ってとある所に向かっている。

 車の中は、緊張感と男の臭さのみが漂う。

 それもそのはず、私以外は男性ばかりでむさい雰囲気、だけど私にとっては何だか居心地がいい。

 物心付いた頃から、このような軍服を着ながら現場に行って、銃を持って戦いに勤しんでいたのだから、当然の出来事。

 他の女性から見れば、このような状況は異常そのものであろう、でもこれが私の日常であり何でもないこと。



 そうしてると、先ほどまで大揺れな車は止まり皆、それぞれ使い慣れた銃を持ち外へと出る。

 そして、隊長の前で横並びに整列し自分の担当の番号を叫び、それが終わると隊長が任務を告げる。


「今回の任務は、生物研究所から逃げたした。最強生物、超指名手配犯 公卿くぎょうキョウジだ! この町は、奴が崩壊させ今は危険区域となった! 諸君には、地球自衛防衛隊の危険生物駆除部隊略して。チセイとして、命がけで働いてもらう!!」


 そう隊長が言うように、私は普通の女性として安全な生き方はできない。

 それどころか、まともな人としての権利はこの職業になった時点でない。


 元々、捨て子として軍事施設に捨てられていた、それを男しかいない場所で育てられて、毎日戦いに明け暮れる。

 ある日、受け付けで自分と同じような年の女性が、声をかけてきて何故こんなキツイ仕事をやっているのか、普通は男に混じってしないでしょと言われたが、意味がこの時は分からなかった。

 後々、隊長に聞いても『女性はこんな華やかさもない、キツイことはしないからね』と言っていたが全く理解出来ない。

 私にとっては、そんなことはどうでも良くて、生きて行くのに必死に働かなくてはならない。



 それから、任務は終わって受付嬢に誰か異性に好きな人は居ないのかと聞いてくる。

 私は、尊敬する人は居るが好きな人は居ないと答える。

 何故か、彼女達は私の事を可哀想な人をみるかのような目で見つめてくる。

 しかも、その後呆れたようにタメ息をつき、もういいと言いこれ以上何も言わなくなった。



 後々、食事中に軍の同僚が言っていた話だが、兵隊の誰かと付き合う為に私に男を紹介してもらおうと言う算段だったとか。

 確かに、女性から就いていて欲しい男の職業だと聞いたことはあったが、だったら自分でやればいいだけではと思っていた。

 それから、受け付けの方から何だか内密な話が聞こえてきたような感じがしたため。

 息を殺して、気配を消して反対側の壁に背中をくっ付けて、聞く耳を立てる。


「私ね……気付いたのよ……」


「何よ……」


「軍隊の男って……魅力的なのよ」


「何でよ」


「だって、体は引き締まっていて。筋肉がムキムキだし。それに、給料もいいのよ……」


「でも、仕事で死ぬ確率が高いのよ。死んじゃったら、意味ないじゃないの……」


「それは、実はね……殉職した場合、高額な報酬が毎月、その妻や夫や恋人が貰えるんだって……」


「うそー!!」


「声が大きい! 聞かれていたら、どうするの……失敗するじゃない」


 明らかに、どうでもいい雑談だった。

 私には、一切関係のない話だ。

 むしろ、無駄な時間を過ごしてしまい、貴重な休憩時間が失われた。

 彼女達は、国を守ろうとする気はないのかと思うと、情けなく感じる。

 この国の、民としての誇りとかがないのかと、自分が何も出来ない無力な人間であることは恥でしかないのに。



 そうこの時を考えながら、私達は公卿に銃口を向けて一切に軍の仲間と一緒に、銃を撃つが全く当たらず姿さえ眩ます。

 そして、公卿が現れたと思ったら私と隊長以外倒れていた。


伊賀いが隊員は、やらさせない! うおおおおお!!」


「無駄だ!! 俺は、最強の生命体だ!!」


 隊長は、銃を撃ちながら決死な覚悟で突っ込んでいく、私も隊長に気を取られている公卿の後ろへと回り挟み撃ちにする。

 


 だが、公卿の体は傷が付くこともなく、放たれた弾丸は貫通することはなく、公卿の足下に落ちていた。

 隊長は、公卿に殴られた衝撃をくらってしまったのか、銃を落としてそのまま地面を転がり、建物の残った壁に激突して漸く止まる。

 よく周りを見ると、ビルは半壊していてほとんど原型はなく、つい前まで栄えていた町だと思えないほど酷い有り様。



 公卿が、隊長の服の襟を掴み持ち上げておもいっきり腹を殴り、手を放して隊長は地面に仰向けで倒れる。


「あはははは! 俺に、勝てるわけないだろ! 俺は、最強の生物だからな!!」


 公卿が、油断して何もしてこない隙に、私は肩を貸して隊長を持ち上げようとした時。


「もういい……それより、目の前の敵に集中しろ……」


 そう言うと、隊長は作戦を言い渡した。

 私は、その提案に乗って公卿に近付いていく、いよいよ頭に銃口を当てて撃つがやはり効いてない。



 公卿は、私の襟を掴み隊長のように持ち上げる、殴られて吹き飛ばされて死ぬかと思ったら、公卿の顔は不思議そうに私を見ていた。


「お前……女か……」


「だったら、何だ……」


 公卿は、そう言うと先程の態度と変わって、顔はニヤつきいやらしそうな目で笑う。


「だったら、殺すのはよそう……お前は、顔がいいから俺の女にする。有りがたく思え」


 そんな、身勝手な理由で公卿は私を殺すのを止めた。

 この男は、本当に最低でワガママな奴だ。

 

「断る……軍人として、死にたいんだよ。そんな、屈辱を味わうなら今すぐここで殺せ」


「余計に、気に入ったぞ! 俺は、お前みたいな冷静で無感情な女が好きなんだ!」


「ふん! 下らん……」


 私は、公卿の口に銃口を入れてそのまま撃ち、公卿は体の内側が弱点なのか、仰向けになって倒れてしまう。


「うぅ……何故、体の中が弱いと知っていた……」


「隊長が、教えてくれたんだ……」


 本当に、この男は銃で弱点の喉を撃ったのにまだ話せるとは、化け物だなと公卿の体の強さに感心すら覚える。

 その後、それだけを言い残して目を閉じて公卿は亡くなった。



 私は、隊長の方へと近付いて任務をやり遂げたことを告げると、まだ生きているのかか細い声で何かを言っている。


「しのぶ……はぁ……はぁ……お前が、俺の殉職の報酬を受け取れ……」


「隊長……私は……そのような物は、要りません……」


「お前を……家族として……愛していたぞ……」


 隊長は、そう言いながら息を引き取った。

 私は、目から何故か涙が出てきた。

 人の死に、慣れていた筈なのに……どうして。

 私も、まだまだ訓練が足りないのか……。



 それから、数日が経ち皆の墓に訪れる。

 私は、手を合わせて目を瞑り心の声で素晴らしい人達だったと、伝えて墓地を去る。

 あれから、色んな人から軍人を辞めろと言われたが、私はこの生き方しか知らないと拒否した。

 そして、車の中に入り任務へと向かう。

 失った仲間への伴いと、正義の為に今日もわたしは戦い続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たった一人の戦い~私は仲間を失っても戦い続けなければならない~ 黒金 影輝 @voltage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ