第5話

大輝は中学校を卒業した後、父親の仕事の関係で東京に引っ越すことになったのだが、人が集まる、ということはこういうことなのだと周囲の人達は思ったに違いない。


クラスメイトは勿論だが、近隣の中学校からも卒業式が終わった後の大事な時間帯に大輝の元へガキんちょ達が集まって来るのだ。


中には野坂のように、ケンカしたヤンチャくれ坊主たちもいた。


「行っちゃうんだなぁ」

「あぁ、行っちゃうよ」

「あっち行ったらケンカするなよ」

「それは約束できないなぁ」


みんな笑った。


大輝は見かけは粗野な感じなのだが、人と話すのが好きだった。野球の試合に行っても大輝のプレイに驚き、試合後に近づいてくる相手チームの選手と談笑することが常だったのだ。


そこでの大輝はまるで演説者のようで、野球というよりも、中学生のクセに、生き方、を冗談混じりに話しては信者を増やしているようだった。


当時は悠一も理屈っぽいのには定評があったが、「人とは、男とは」を語らせたら、大人にも負けない人生観を大輝はもっていた。


それが魅力だったのかどうかは不明だが、とにかく卒業式が終わった後の群れ方は尋常ではなかった。



4月、田舎に別れを告げ、東京暮らしが始まった。


大輝は高校でも勿論大好きな野球部へ入部したのだが、入部早々にチャンスが訪れた。


高校に入学して初めての野球部体験入部の時だった。


「上川、良い肩しているじゃないか」

「あ、はい」

「いつからやってるんだ野球は」

「小学4年生」

「先輩と一緒に外野でノック受けてみろ」

「わかりました」


野球部監督の小柴の目に止まったのだ。


早速、センターの守備位置でノックを受けることになった。


先輩達と違いユニフォームが未だなく黒のジャージだった為に新入部員だと直ぐに分かる格好で順番を待った。


「チッ、ワンバンかよ」


先にノックを受けた先輩の返球を見て、つい口に出てしまった。


大輝の番がやってきた。

カキーン、


大輝はなかなか動かない。


そして、突然走り出しマックススピードで落下点で捕球すると、その走るスピードに強肩を乗せてホームベースへ向かって返球した。


矢のような投球はそのままダイレクトに先輩のミットの中に収まったのだった。


「ふぉー」


どこからともなく、ため息混じりの感歎の声が大輝にも聞こえた。

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