第4話 一緒に買い物

スッと手が差し伸べられた。

その手の主は、少し慌てているようだ。


「ご、ごめんなさい! けがは……」

声はそこで一旦切れる。

「レント……」

「あ、ミスト……、ごめん、大丈夫だったかい?」

「う、うん……、尻もちをついただけだったから」

ミストはレントの手を握って立ち上がる。


「買い物かい?」

「ええ……、パンは買ったから、あとはお茶と珈琲、薬の材料を……」

「そっか」

レントは、あまり深く聞いてはいけない気がした。


「えっと、その……、もし良かったら荷物持ちしようか……?」

「良いの?」

「うん、もちろん。ぶつかっちゃったお詫びってわけでもないんだけど……」

「じゃあ……お願い」

ミストの言葉に、レントは頷く。


「ところで、パンは大丈夫?」

ミストはそう言われて、ハッとしてパンを見る。

だが、特段潰れてはいないようだ。

「ええ、大丈夫……」

「そっか、良かった」

レントは安堵した声を漏らす。


「えっとさ、もし良かったらもう少し市場をゆっくり見ていかない?」

レントは笑顔で提案をする。

「良いけど……、日没には帰らないと……」

ミストは少し困ったように言う。

「うん、もちろんだよ。ちゃんと送るから」

「じゃあ、今日はよろしく……」

「うん、こちらこそ!」

レントは機嫌よく返す。


「へぇえ……、これって、薬になるんだ?」

「ええ。自然の力は甘く見ちゃいけないから……」

ミストはいくつか薬の材料を買い足していた。


「そういえば、そろそろ忙しくなるんじゃない?」

「ええ……。予防の薬の予約を何個か受けてる」

「そもそも、何の薬なんだい?」

「そろそろこの町でアレルギーが流行するから、その薬……」

「アレルギーが流行?」

「うん……。山に生えているシダーが花粉をまき散らしちゃうから……」

「ああ、あれのアレルギーか……。僕も聞いたことがあるよ……。根本的に直すことはできないのかな?」

「できなくはないけど、色々大変だし、診察料も余計にかかっちゃうの……」

「そうなのか……。ミストは安く薬を売ってくれると評判だもんな……」

「私だからできるの」

ミストは困ったように肩をすくめながら言う。


レントはその様子に違和感を覚えた。

「ミストだから……?」

「私は自分で薬を作る仕事をしていて、値段は自分で決めて良いから……」

「そうなんだ……。僕がいたところとはシステムが違うんだね……」

「多分そう……」

ミストはあまり仕事の話をしようとしない。


「そうだ、普段休みの日って何してる?」

レントはとにかく話題を変えようとありきたりな話を振った。

「休みの日……?」

「うん、休みの日。ゆっくり過ごしてるの?」

「大体本を読んでるかな……」

「本かぁ……。どんな本?」

「小説とか、薬学の本とか……」

「勉強熱心なんだね……」

「……そう?」

ミストは恥ずかしそうに言った。

「うん!」

レントは笑顔で頷いた。

「じゃあ、レントはどうしてるの?」

「僕は散歩してることが多いよ」

レントは嬉しそうに答える。

話をするのが好きなレントは変わっていない。

ミストは仕事のプレッシャーから穏やかな気分になっていた。

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