薬師調香
金森 怜香
第1話 再会
―――ねぇ、聞いた?
――噂の森のこと?
―――そうそう! あそこの小屋にはね……
どこでもあるような、女たちの話し声。
「魔女が住んでいる、かい?」
一人の青年、レントが言う。
「まあ、立ち聞き? あなた、旅人さん?」
「まあそんなところかな。楽しそうなお話が聞こえてきたからね。邪魔をしてごめんね」
レントはそう言ってコートを翻し、歩き続ける。
周りを見ると、様々なものが立ち並んでいる。
薬草、それに飲食物。
骨董品に、古書。
ここは森の前の街とはいえ、栄えている方だ。
「……この森に来るのも懐かしい」
レントは風景を見てしみじみと思う。
「アイツも元気にしていれば良いな……」
一歩一歩、踏みしめるように森へと足を進める。
清々しい香りが鼻をくすぐる。
「森は良いな……」
レントは思い切って、のびーっと腕を伸ばす。
コツン、と頭に衝撃が来る。
「あいったた……。ああ、これは……」
レントは衝撃の正体を知る。
そう、大好きな木の実だ。
「早く来い、ってことなのかな」
レントは移動する足を少し早めた。
「確かに、早く会いたいもんなぁ……」
早く会いたい、というのは。
昔、この森で出会った少女。
だが、今はどうしているか……。
連絡も何もしていない。
彼女が覚えているかもわからないが、どうしてもここへ立ち寄りたくて仕方なかったのである。
「よしっ……、着いた……!」
息を整えてから、見覚えのある扉をノックする。
「またお客さんかしら……」
女の子の声がして、足音がどんどんと近づいてくる。
「や、やぁ」
「あなたは……」
彼女は、子どもの頃出会った姿をそのまま成長させたかのような可愛らしさだ。
レントは思わず赤面するが、声をかける。
「久しぶりだね、ミスト」
「あなた……、レントなの……?」
「覚えていてくれたんだね!」
レントは思わず笑顔で言う。
「ええ……。元気そうね」
「うん、まあね」
レントは照れ笑いする。
「ミスト、元気だった?」
「うん、まあね……」
「今、何か仕事してるの?」
「ええ……」
ミストはあまり自分の話をしようとしない。
「ミスト……、もし良かったら、またお茶しに行かないかい?」
「ごめんなさい……、私は……」
「忙しいの?」
「……うん」
「そっか……」
「ごめんなさい」
「ああ、気にしないで」
レントは慌てたように苦笑いした。
「でも、ミストって頑張ってるんだよね。僕も頑張らなきゃ」
「無理はしないでね」
「うん、ありがとう。僕、しばらくこの森の手前にある街にいるんだ」
「そう……」
「また会いに来るよ」
「うん、待ってる。でも、この森も暗くなっては危ないから……」
「ありがとう。じゃあ、僕は日没前に戻るよ」
「そうして」
ミストはそう言うと席を立った。
レントは約束の通り、日没に森を出て街へと戻った。
ミストは少し寂し気に、レントの後ろ姿を見送った。
「私も仕事に戻らないと……」
ミストはそう言うと、長い髪を結っていたリボンを解いた。
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