第1話 旅たち①

火の国の外れ小さな村から離れた海の見える丘にぽつりとレンガ作りの家が建っていた。

  また日が昇らない早朝にその家の一角に灯りがともしていた、そこに旅の支度を急ぐ少年の姿があった。

  大きなリュックを背負い部屋の灯りを消し、音を立てないように忍び足で玄関へ向け廊下を歩く。

  その途中、リビングを通り過ぎる際こっそり中を覗く。 

  そこにはソファーで仰向けで寝ている30代後半の女性の姿があった。

  イビキをかいて起きる様子もなくその姿に少し安堵し

  「よし、このまま行けば・・・」と心の中で呟く少年。

  玄関に着き壁にもたれかけていた少年の身長ほどある大きな大剣を音を立たないように身長に握りしめ持ち上げる。

  「親父をぶっ飛ばして連れて帰るから…それまで待ってて」

  そう、心に思いゆっくりとドアノブ回し慎重に扉を開く。

  扉が開くにつれ向こう側に一人の少女の姿があった。

  少女は少しうつむき まだかなまだかなとソワソワしててゆっくりと開く扉に気付き表情がパァーと明るくなり言葉を抑えきれず。

  「あっ!おはよリョウガ!」

  その瞬間、リョウガと呼ばれた少年は背筋が凍るような感覚に襲われ咄嗟に握り締めていた大剣を放し少女の二言目を必死に抑え込み、もう一方ので人差し指を立たせ自分の唇に寄せて小声で。

  「シー、大きな声を出すな!ローザ、母さんはまだ寝ているんだから。」

  声を抑えた行為も虚しく、手放した大剣は地面に落ち大きな音が鳴り響く。

  再びリョウガ背筋が凍りつく。

  さっきまでリビングで寝ていた女性が物凄く機嫌が悪そうに少年の背後に現れる。

  「こんな時間に・・・盗みに来るとは…いい度胸だな…ヒック」

  どうやらまだ酔っ払っているせいか二人をただの泥棒と勘違いしているみたいだ。

  振り向くやいなや女性はリョウガを掴もうと手を伸ばす、即座に反応しその腕を振り払うリョウガ。

  しかし、今度は反対の手で掴みに掛かりまたもリョウガは振り払う。

  その攻防はまるで無数の腕が少年を襲う様に素早く、そしてそれに反応する少年もまただたものではない様子を物語る。

  「ヒック、なかなかやるな〜」

  数秒にも満たない攻防の中、女性はリョウガのリュックを掴む。

  それに驚くリョウガ、どうやらその女性は一枚上手だった。

  驚く間も無くリョウガは投げ飛ばされ、未だ玄関の近くに佇んでいた少女もまた掴まれ投げ飛ばされる。

  地面を転がりながらも素早く体勢を整えたリョウガは前を向いたその瞬間。

  ローザが自分の方に飛んできた、驚きながらも咄嗟に腕を広げ受け止める…が流石の勢いに負け一緒に飛ばされる。

  「大丈夫かローザ?」

  ローザを気遣うリョウガ。

  「ありがとう、私は大丈夫」

  と見つめ合う二人だがいいムードにはならない、なぜなら前方おっかない顔をした酔っぱらいの女性がゆっくりと迫って来ていたからだ。

  素早く立ち上がる二人。

  「どうする?」

  心配そうに聞くローザに。

  「大丈夫だ!作戦Bだ!」

  そう自信満々に言い放ちポケットに手を入れる。

  しかし、その自信と裏腹にローザの顔に。

  「ん?作戦B?そんなのあったけ?」

  と状況を理解できずにいた、そんなのお構いなしにリョウガは行動をし続けた。

  ポケットから複雑な形をしたガラスの様なものを取り出し高く振り上げてから地面へと叩きるける。

  地面へと叩きつけられたそれは眩い光を放ち周囲を一瞬照らし出す。

  その一連の動作を見ていた女性はその眩さに目が眩む。

  そして、未だ作戦Bの事に頭を抱えていた少女も同様に突如走る閃光に目をやられる…。

  「走るぞ!」

  リョウガのその言葉に腕を掴まれおぼつかない足取りでこの場を離れる

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