第4話 ひとつのDMで
『はじめまして、いつも楽しく小説を拝見してます。わたし、ソアと申します。新作、読みました。とても面白かったです。いつもと雰囲気違いますね。いつもはもっとファンタジー要素が多くて、それはそれで好きですが、今回の恋愛小説の方が、私は好きでした。
偉そうなこと言って、ごめんなさい。怪しいものじゃありません。私も、高校一年生です。同い年なのに、凄いですね。こんなのかけるなんて。
これからも、応援してます。頑張ってください。』
こんなの、送っていいのだろうか。
送った後におもったが、もう遅い。とっさの行動をとってしまって今になって後悔しても意味が無い。もう読んだかな。返信とか来ちゃうのかな。
心臓がドキドキした。自分から動いたのは初めてだった。今までなら、絶対にこんなのとしなかったのに。
とりあえず、なにか反応があるまで考えないようにしよう。私は、いつものように洗濯機から乾燥をかけた服を取り出し、アイロンをかけ始めた。
一人暮らしは大変なことが多い。家事はもちろん自分でやらないといけないし、家の事だけじゃなく学校のことも考えなくてはいけない。でも、親と暮らすことはしない。
私の両親は、毎日仕事で忙しい。それに、2人とも遠くにいる。お父さんは、北海道に単身赴任。お母さんは、海外にいる。お父さんは時々様子を見に来るけど、お母さんは会えるわけがない。だから、家族が揃うことはここ数年1度もない。
お母さんは、色んな国の子供たちにピアノの素晴らしさを伝える仕事に出かけている。私はお母さんと3年ほどあっていない。仕送りのために連絡が入るのと、誕生日の日に電話をくれるだけだ。それも、もう慣れた。一人でいることも、楽しみ始めている。でも。少しでいいから。また、お母さんのピアノが聴きたい。
――ピロリン
スマホが鳴った。画面を除くと、なんとDMの返信が2件も来ていた。考えないようにしていたから、気づかなかったようだ。案外早く読まれてしまった。どうしよう。迷惑です、とかって返ってきてたら。
アイロンの手を止め、おそるおそるSNSを開く。
『ありがとうございます。
そう言ってもらえてとても嬉しいです。』
良かった。嫌われていない。もうひとつはなんだろうか。
『ソアさんがおすすめのボカロ曲、良ければ教えてください』
思っていた返信と違った。まさかの質問。なんで、ボカロを聞いてきたんだろう。あっ、そうか、プロフィール。ボカロが好きって書いたっけ。読んでくれたんだ、わざわざ。
おすすめか。好きな曲はたくさんある。初音ミクちゃんが歌う曲はもちろん、可不ちゃんが歌っていたり、ルカやKAITOが歌っているのも好き。
でも、今の私は。私には、これしかない。
『「ロストワンの号哭」、おすすめですよ。』
普及する形になってしまった。そんなつもりはなかったのに。ただの私の心の中の曲だったのに。でも、顔も姿もホントの名前も知らない人だし、私のことを教えても、私のことを知られても、何にもならない。それなのに。少し怖い自分がいる。こんなことなら、ロストワンを紹介するんじゃなかった。
――ピロリン
また返信が来た。
『ありがとうございます。聴いてみますね』
まずい。あの曲を聞いたら、彼女は何を思うだろうか。きっと、彼女には必要のない曲。出会うことのなかった曲。
あの曲が必要なのは、私みたいに一人で生きていくしか道がなくて、誰からも愛されなくて
、誰からも認知されようともしない、生きていて意味の無い人間だけ。そういう人間が、あの曲を聞いて、同情と怒りをぶつけて、また自分を塞ぎ込む。
だから、たとえ知らない人でも、教えるはべきではなかったんだ。きっと、あの曲を教えることは、私を教えることにもなるから。
どんな時でも、私は私を隠してきた。隠しきれなくなったら、1人になって逃げてきた。それが、私の生き方だった。
でも。このDMひとつで、変わってしまうのなら。誰かに、私を話すことになるのなら。
私は今すぐにでも逃げ出したい。
Our Voices 竹内こぴん @coco21
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