第2話 大好きな音楽
「彩莉、またね」
「ばいばい、彩莉ちゃん」
帰る時間。
まなとミウミウがうちに言った。
……2人並んで。
「うん。ばいばい」
軽く手も振った。
自分でも声が硬く聞こえた気がする。
(……何で、何だろう)
何か、嫌だったのかな。
別に何も感じなかったのに。
まあ、いいか。
リュックを背負って、教室を出る。
廊下と階段はがやがやしていた。
……すごく、賑やか。
帰る方向が同じ友達がうちにはまだいない。
部活に入る気もない。
うちは、これで良いんだ。
ムリに人と絡みたくない。
それが本心。
上履きからいつもの白い靴に履き替える。
校庭は部活をする先輩たちがいた。
校舎側は野球部とサッカー部がストレッチ、その横のプールサイドでは水泳部が筋トレ、校庭の奥には陸上部、ハンドボール部、テニス部がアップ。
そういえば、明日から部活の見学ができるんだっけ。
(……行きたくないな)
中学の時、うちは文化部だった。
普通にそれは楽しかった。
部員のほとんどが小学校が同じだったとか、幼馴染みだったから。
けど、高校で中学の時みたいに楽しめる自信がない。
そもそもみんな知らない人ばかりだし、同じ中学校だった子が全然いない。
まともに参加できないと思う。
だから入らない。
「……はあ」
心が、重い。
何でなんだろう。
(……あ、そうだ)
スカートのポケットからイヤホンを取り出す。
春休みに買ってもらったばかりの新品。
スマホと接続して音楽アプリを開く。
お気に入りのK-POPグループのプレイリストをシャッフル再生。
テンポは速め、けど何となく明るい曲。
推しパートは特に真剣に聴いてしまう。
重かった足取りが軽くなってきた。
心も、軽くなってきた。
(……やっぱり、好きだな)
――音楽。
音楽は大好き。
ジャンル問わず何でも好き。
聴いたら何だかあたたかくなる。
気分を上げられる。
だから……好き。
ピアノを習っている、ってのもある。
自然と、笑っていられる気がする。
その時に視界の端に白い何かが落ちた。
(……えっ)
それを見ると、何かの紙だった。
それが何枚か道に落ちていた。
その持ち主らしい人が慌てて取る。
風で飛ばされそう。
……拾わなきゃ。
近くにあったものからサッと取っていく。
紙はただの紙ではなく、楽譜だった。
(……うわ、難しそう……)
たぶんピアノかな。
連符とか16分音符が多いし、指がもつれそうな旋律。
何の曲だろう。
曲名、知りたい。
うちに近くにあったのは全部取れた。
視線を走らせる。
あともう一枚。
それにうちは腕をのばす。
けど、うちより先に一緒に拾っていた持ち主らしい人が取った。
一瞬の出来事だった。
そこに一枚目の楽譜で曲名が書かれていた。
(……ロ、ストワン、の号、)
サッとその楽譜はその人が集めた楽譜の上に置かれる。
まるで、見られたくないかのように。
最後の文字だけ読めなかった。
あんな字、見たことないと思う。
曲名も聴いたこともなかった。
その人の視線が私にうつったと同時にうちもその人を見た。
思い切り、視線が交わる。
(……あっ……)
その人は、鋭い瞳でうちを見ていた。
そうだ、早く渡さなきゃ。
うちはサッと視線をそらし、無言で差し出す。
気づいたときはもう遅かった。
どうして……どうして、こんな態度になったんだろう。
「……と」
ぼそっと聞き取れるか分からない、低い声。
またサッとうちから楽譜を取った。
……うちが、変な態度を取ってしまったから。
早歩きで行ってしまった。
今更気づいたけど、うちと同じ年くらいの子だった。
ウルフカットがとても似合っていて、カッコいい雰囲気。
声も低めだった。
セーラー服だから中学生なのかな。
けど、近所の中学の制服って、あんな感じだっけ。
そのあたりは分からない。
何より印象的だったのはあの子の瞳。
鋭くて、けどどこか寂しそうっていうか悲しそうだった。
新学期になったばかりだし、何か不安なのことがあるのかな。
(……いやでも……)
――何かを諦めた、みたいだった気がする。
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