第1話 偽りの「うち」
静かな朝。
春らしい澄み渡る空にあたたかい空気。
ちゅんちゅん、と何匹かの雀たちが飛んでいる。
(……可愛いな)
高校の校庭のすぐ真横の通学路。
雀って本当に癒される。
鳴き声も見た目も小さくて愛くるしい。
空を飛ぶ雀達を見ながらちょっと早めに歩くうちの横を誰かが颯爽と通り過ぎた。
うちと同じ制服を着た自転車の女子生徒。
白いシャツに細いリボン、ブレザー、ひだスカート、紺の靴下。
もちろん、あの人は全然知らない人。
……つい一昨日、高校に入学したばかりだから。
校門を通り、下駄箱に向かう。
上の段は体育館シューズ、下の段は上靴。
うちは上靴に履き替え、階段を上る。
(……高校生、か)
うち、
一応併願で私立も受けたけど、はっきり言ってうちの道は公立しかなかった。
どうしてそうなったのかはわからない。
けど、絶対公立に受からなきゃって謎に思っていた。
教室のドアは開けっぱなしだった。
(……うう、入るの緊張する……)
ここで立ち止まるのも嫌だからえいっと教室に入る。
まだクラスの半分も来ていなかった。
何人かうちを見たけど興味なさそうにすぐにそらされた。
……正直、それで全然良い。
机の上の椅子を下ろすと、うちの席の後ろの子が顔を上げた。
メガネをかけている、真面目そうな子。
「おはよ、彩莉」
軽く手も振ってくれた。
無意識に唇が持ち上げられるのに、目は動かない。
「はよ、
自分でもびっくりするくらい、自分じゃない声。
うちが真奈と呼ぶ子は嬉しそうに少し微笑んでくれた。
カバンを机の横に掛け、椅子に座る。
体ごと後ろに向く。
「今日も来るの早いね」
またこの声、だ。
「うん。早起きできたから」
「何時に起きたの?」
「6時」
「めっちゃ早起きじゃん」
マナは高校で最初の友達。
いや、友達、なのかな。
そう言い切って良いのかわからない。
けど、入学式の前に教科書を買ったりする準備する日があったんだけど、その時に話しかけてくれた。
「真奈ちゃん、彩莉ちゃんおはよー」
あ、
「おはよ」
「はよ」
ミウミウはすごく女子力が高くて、流行に詳しい。
実は、中学が同じだったけどほとんど話したことがなかった。
だからなんか複雑というか、変な感じというか。
うちは勝手にミウミウって呼んでる。
何人かにあだ名を作ることは何となくクセになっていた。
それほどうちはその人たちを信用してる、ってことなのかな。
(……友達って、何だっけ……)
毎回わからなくなる。
休み時間はいつも一緒に話して、移動教室も一緒……そんなんで良いのかな。
胸の奥がなぜか苦しくなる。
「おはよー、みんな」
このちょっと明るい声は
その横に
「はよ」
「おはよ」
「おはよう」
この2人は席が隣ということもあってすごく仲が良い。
うちはハルルンとマナの間。
ミウミウはナナちゃんと同じ列でまなの斜め後ろ。
みんな席が近いからすぐに仲良くなった、んだと思う。
これが、友達なのかな。
だって、
今ここにいる「うち」は偽りの「うち」。
本当の「うち」じゃない。
「うち」は、ずっと前に失ったんだ。
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