第8話 ハハッ、御冗談ヲ……
「い、いや、よく考えてみてください町田さん。ここから東京までは新幹線でも2時間くらいかかります。徒歩の移動も含めたら行って帰って来るだけで5時間くらいの見積もりです。そんな長時間俺といることになるんですよ?」
少し固まって言葉が出なかった俺だが、町田さんが事態を正しく認識出来ていないのではと考えそんなことを口にする。
「? 別に嫌じゃないですよ?」
「嘘だっっっ!!!」
そんなわけないじゃないかっ。
「そもそも、俺と行っても俺上手く話せませんし……」
「いや、今普通に会話出来てます」
「いや、そういうことじゃなくて面白くないでしょう? それに男と2人で行くとか不安でしょう?」
「赤田さんは変なことしないの知ってますから」
「お、親御さん! 親御さんが許さないでしょう?」
「私の家は放任主義です」
ダメだっ! とりつく島もない。というか、なんでそんな頑な!?
「そうだ、梅バァ! 町田さんが勉強に行くのはいいと思う……けど、俺が行くのはおかしだろっ! 他にも行きたい人いるだろうし、俺だけ行くのは不公平だ」
最後の悪あがきとして梅バァにそう声を上げるが、
「……口調が乱れてるよ。それに他のメンバーは全員この土曜日は予定があるんだ。この私もね」
返って来たのはそんな無慈悲なものだった。
「あの、もしかして私と行くのが嫌……なんですか?」
「ち、違います。そういう意味じゃないんです」
町田さんが少し切なげに顔を伏せそんなことを言うので俺は慌てて、首を横に振る。
「でも、嫌だから行きたくないんですよね」
「い、嫌じゃないですよ。でも、そうだ。予定です、予定があるんですよ」
「そ、そういうことでしたか……なら、仕方ないですね」
俺がそう言うと少し哀しそうな表情を見せながらも、どこか納得したような顔をする町田さん。
よしっ、なんとか乗り切れた。
「……順一は元々土曜日フルでシフト入れてたんだから他の予定はなかったはずだがね」
「……」
「……」
俺と町田さんはお互いに黙り込む。
「……あのー、赤田さん?」
やがて声を出しコチラを見つめてくる町田さんの顔を俺は見ることが出来ない。
「どういうことですか?」
「あっあぁ、いや……その〜」
上手い返しや誤魔化しが思いつかず俺は再び固まってしまう。
「順一……アンタつくならもう少しマシな嘘をつきな」
そして梅バァからも冷たい視線が送られる。
「やっぱり嫌……なんですよね? 隠さなくていいですから。それなら納得ですから」
「順一、アンタ嘘ついた上こんな可愛い子を泣かせるのかい?」
「……」
そもそも、俺が危惧したのは町田さんと行って色々と気まずい気分にさせてしまうことだ。そもそも会話するのが精一杯な俺では楽しませることは難しい。
それに男女で行くとなるとデートと思われてしまう可能性だってある。
俺みたいなのとデートをしてるなんて勘違いされたら町田さんが可哀想である。
いや、行きたいは行きたいけどな。東京のカフェ屋なんてそうそう行けるもんじゃないし。
しかし、実際拒否し続けるとコッチの方が町田さんが哀しそうだという不思議。一体、どうすればっ。どうすればいいんだジョニー!?
「普通に行ってやりなっ、というかジョニーって誰さね」
「イタっ、ってもしかして……」
そんなことを考えているお梅バァから頭をはたかれ、俺は頭を押さえる。というか、この感じ……。
「あのー、思いっきりダダ漏れでした」
「……」
町田さんが気まずそうに俺にそう申告してくれる。目を、目を合わせられないよっ。今、俺どんな顔して町田さんと話せばいいんだ。
町田さん視点からすると勝手にデートに見えるとか考えてた痛い奴じゃないかっ。
「あのー、私のことは気にしなくていいので行きませんか? というか、その私は赤田さんと行きたいんです。だからっ」
「わ、分かりました。行きます、行きますからそれ以上は言わなでくださいっ」
町田さんのことだからそんなわけないのは分かってる、でもそれでも俺の心臓が保ちそうにないので俺はついにそれを口にした。
「本当!? 絶対、絶対だからねっ!? ね? ね?」
「わ、分かってますよ、一度口に出したことはやりますよ」
すると町田さんは余程嬉しかったのか後輩口調すら崩し、今日1番の笑顔を見せ俺の手を自然と握ってくる。
当然、こんなことをされた経験などない俺はキョドってしまう……が、落ち着け俺っ!
町田さんはただ嬉しくて無意識にやってるだけだ。邪な気持ちなんて抱くんじゃないっ!
「フフッ、楽しみ……です」
しかし、手を握ったまま間近で心底嬉しそうに顔を綻ばせている、町田さんをみて俺の意識は飛びかけるのだった。こ、こんなんで当日保つのだろうか?
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次回「待ち合わせ……」
次回、デート(?)編スタート! 甘々でお送りする予定。良かったら星や応援お願いします。投稿頻度上げるかもです。
では!
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