第3話 帰り道
「今日もご苦労さん。アンタは明日もシフトあるからよろしくね」
「はい、というか梅さんこそですよ。本当に誰よりも働いて」
「店長が誰よりも働かなくてどうするんだい。それにここ1年はあの子が私よりよっぽど……っと、お邪魔だったかね」
「違いますからね?」
店内の方も最後の1人のお客さんが帰っていったのか、梅バァと何人かの先輩達がこの部屋の中へと入ってくる。
が、何故か俺と町田さんを見るなりニヤリと笑って戻ろうとする。
「冗談だよ、でどうだった? ウチの
「とても親切で仕事もテキパキしてて凄いと思いました」
「そうかい」
梅バァは普段はあまり見せない穏やかな笑みを浮かべていた。気がつけば周りの先輩達もなんかニコニコとしている。
「色々と凄くて……とにかく目標ですよ。赤田先輩みたいになるのが……」
「そうかい」
なんだろう、同じ「そうかい」なのになんでさっきとは違って不気味な笑みを浮かべるんだ梅バァっ! というか、先輩達もニヤニヤしてないでなんとか言ってくれっ。
俺はとても町田さんの目標になれるような人物じゃないんだよぉーー! 絶対逆だから。
「まぁ、アンタはまだ新人なんだ。そんなに気負いすぎずにね。順一はトップレベルだから」
「だから勝手にハードル上げるな、梅バァ!」
「誰が梅バァだっ。梅店長だろうさね」
思わず梅バァを呼びをしてしまったがこれは仕方ないだろう。完全に町田さんに嘘情報を流し、俺にそれを応えさせようとハードルを上げてようとしてたからな。
「はい、それは分かってます。でも、だからこそ目指したいんです」
「うおいっ、って違いますからね? 全然トップレベルじゃないですからっ。先輩達のがもっとちゃんとしてますから」
完全に梅バァによって洗脳されてしまっている町田さんに慌ててツッコミを入れてみるが、完全に視線が梅バァの方を向いており話を聞いてもらえているかが不安だ。
「いい覚悟だね。でも、それには沢山の困難が待ち受けるだろう。それでもやれるのかい?」
「いい覚悟だね、じゃないですよっ。これ以上の洗脳はやめて下さい。というか、先輩達もそろそろ止めてくださいよ」
真面目な顔(演技)をしながらそんなことを言う梅バァを止めることが出来ず、周りで立っている先輩達に助けを求めるが……。
「いやぁ、
返ってきたのはまるで梅バァを肯定するかのようなものばかり。というか、完全に先輩達この状況を楽しんでやがる。そして、特に最後の市川さん……バレバレな嘘をつかないで欲しい。
「5時間前に!? これはメモが必要ですね」
「いらない、そんなメモいりませんから。嘘ですからね。大体、学校行ってるのにそんなわけないじゃないですか」
ふと、メモを取り出し始めた町田さんを俺は慌てて止める。素直で純粋なのはこの1日で少しは理解したつもりだったがここまでだったとは……ある種恐ろしい。
こういうところが人気な1つの理由なのかもしれない。
「まぁ、今日は新しいことだらけで疲れたろうから早く眠るといいよ。アンタは明日もあるんだからよろしくね」
「はいっ」
「順一とは違っていい返事さね」
「いや、その件に関しては俺もいい返事でしょう?」
確かに今日は歯切れが悪かったが明らかに状況が悪かった。まぁ、町田さんの返事がハッキリしていて気持ちがいいのは確かだけど。
「じゃあ、順一も……明日も頼むさね」
「はいっ」
「声が可愛くないね」
「それはどうしようもないですよっ」
理不尽だ。というか、町田さんと俺で比べないで欲しい。いや、冗談で言ってるのはわかるけど。
「じゃあ、俺は上がりますね」
「は、はい。赤田先輩お疲れ様です」
「いえ、町田さんこそですよ。では」
「ちょいと待ちな」
俺は荷物をまとめてあがろうとするがそこを梅バァに止められる。まだ、なにかあったのだろうか?
「町田ちゃんは確か電車だったね?」
「はい、そうですけど……」
すると梅バァは突然町田さんにそんなことを問いかけ始めた。町田さんも何故そんなことをと少し驚いた様子を見せながらも頷く。
「そして、順一も同じ方面を自転車で行く……と。ふむふむ」
おいおい、流石にそれは。俺は嫌な予感が頭をよぎり内心かなり動揺する。
「時間は9時、女の子を1人で帰すには不安だね。順一駅まで送っててやりな」
「なっ」
やはりそう来たか。
「それは悪いですよ。私、1人で帰れますし」
「ほ、ほら町田さんもこう言ってますし、町田さんはこんなにも可愛いんですから俺が襲いかからない保障もありませんから」
「いや、順一はそんなことしないね。私が保障する。それに新人と仲を深めるのも先輩として大事な仕事さね」
「ぐっ」
なんて卑怯なことを。仕事とというワードに俺が弱いことを知っていてわざわざ使いやがったな。
「で、でも、町田さんが不快かもしれませんし」
「いや、不快ではないですよ。申し訳ない気持ちにはなりますが」
「決定さね、今日は送っててやんな。町田さんは初バイトで疲れてるんだ。それを支えるのは先輩の仕事」
「わ、分かりましたよ」
こう言われては俺に断るなどということが出来るわけなく、町田さんを駅まで送っていくことになったのだった。
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次回「意外と……」
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