第26話 試験

「実技試験はお前達には学園の地下にある疑似ダンジョンに挑んでもらう」

「疑似……ダンジョン?」

「そうだ。一応は聞いておくがダンジョンの事は知っているな?要は魔物の巣窟の事だ」



この世界では魔物が大量出没する危険区域を「ダンジョン」と称する。そして今回の試験では魔法学園側が用意した「疑似ダンジョン」なる場所に入学希望者を送り込む事を伝える。



「疑似ダンジョンは文字通りにダンジョンを人の手で再現した場所だ。お前達のためにお強い先生方が魔物を捕縛し、とある遺跡に送り込んだ。魔物は遺跡の外に出られないように細工を施してあるから安心しろ、そこにお前達を送り込む」

「ちょ、ちょっと待ってください!!それじゃあ、魔物と戦う事が試験内容なんですか!?」

「そうだ。ここにいるお前等全員が戦闘職なのは確認済みだ、魔物程度に怯えるような臆病者はいないよな?」



ゴルドの言葉に全員が黙り込み、リトはここにいる全員が戦闘職だと知る。どうやら試験の前に全員の職業を調べて分配していたらしく、恐らくはレノ達は合格すれば騎士科の生徒に配属されるはずだった。



(この中の何人が生き残れるのか……今の所、見た限りではゲームに出てきた登場人物はいないみたいだけど)



勇者であるレノを除けば今回の入学希望者の中にはゲームに出演する登場人物は一人も見当たらなかった。だが、ゲームの登場人物ではないという点はリトも彼等と同じ立場である。



(何としても合格しないと)



自分のためだけではなく、大切な母親アンや世話になったドルトンや神父の期待に応えるためにもリトは必ず合格しなければならなかった。一方で隣の席のレノも緊張した様子で語り掛けた。



「……お互い、頑張ろうね」

「うん……できれば一緒に合格したいね」

「う、うん……」

「よし、なら明日の試験会場と試験開始時刻を発表する。一度しか言わないからちゃんと聞いておけよ!!」



ゴルドは明日の試験の開始時刻と場所を報告すると、入学希望者は帰された――






――説明会が終わるとリトはレノと共に学園を出た。試験前に彼女と接触できた事は喜ばしく、この機会にリトはレノと親交を深める事にした。ゲームの主人公が味方となればこれ以上に心強い存在はおらず、レノの方もリトと仲良くなりたいのか気軽に話しかけてくれた。



「へえ、リト君はイチノから来たんだ。結構遠いところから来たんだね」

「うん、まあ……レノは王都に住んでるの?」

「そうだよ、僕は王都の孤児院で暮らしてるんだ」



ゲームの設定通りにレノは幼い頃に孤児院に預けられ、それ以来孤児院で暮らしていた。彼女は魔法学園に入学する理由は世話になった孤児院の人たちに恩返しするため、魔法学園に入学して立派な騎士になるためだという。



「魔法学園の騎士科の生徒は卒業すれば王国騎士になるための試験を受けられるって聞いたんだ。僕が騎士になればお金もたくさん貰えるし、それに僕は小さい頃から騎士になるのが夢だったんだ」

「王国騎士か……」



王国騎士になる事がレノの夢らしく、彼女は幼い頃から騎士になる事を夢みて鍛えてきたらしい。その夢は立派だが、リトは彼女が王国騎士以上の存在になる事を知っていた。


後に勇者と呼ばれる存在になるレノは王国騎士には決してなれず、世界を救うための過酷な運命を迎える。しかし、彼女以外に世界を救える存在はおらず、リトはレノのために影から支える事を決意する。



「大丈夫だよ、レノなら絶対合格できるよ」

「え?どうしてそんな事が分かるの?」

「それは……何となくかな」

「何それ……変なの」



リトの言葉にレノは首を傾げるが、ゲーム通りならばレノは絶対に合格するはずだった。実はゲームのチュートリアルではレノはどうあっても試験に合格する仕組みになっている。


試験中にレノが仮に魔物に敗北して戦闘不能に陥ったとしても、補欠合格という名目で彼女は無事に試験を合格して魔法学園の生徒になれる。これはゲームが苦手なプレイヤーの救済措置であり、とりあえずは彼女が試験に落ちる事は有り得ない。



(問題なのは僕の方だな……試験ではへまをしないようにしないと)



話を聞く限りではレノが知っているゲーム通りの試験が行われようとしているが、それでもレノは合格できるかどうか不安はあった。この日に備えて鍛えてきたが、もしも試験に落ちればレノは災厄の未来から一人で大切な人たちを守らなければならない。



「絶対に合格しないと……」

「リト君?」

「いや、何でもない……それじゃあ、僕は宿屋を探すから」

「え?まだ宿を取ってなかったの!?」



リトは宿屋を探す事を伝えるとレノは驚いた声を上げ、どうして彼女がそんなに驚くのかと不思議に思うと、レノは言いにくそうな表情で伝える。



「えっと……多分だけど、もう殆どの宿屋が泊まれないと思うよ?」

「えっ!?なんで!?」

「もうすぐ王国祭が行われるからだよ。半年に一度のお祭りだから、毎回凄い数の観光客が訪れて何処の宿屋も満員だよ」

「王国祭……あっ!?」



王国祭という言葉を聞いてレノは思い出し、ゲームでも「王国祭」なるイベントはあった。ゲームの場合だと入学から約半年後に開催されるイベントであり、リトのいう通りに観光客が訪れていた。


ゲームでは王国祭に参加できるのは半年後に開催された時だけであり、まさかゲームの開始前にも王国祭が行われていた事はレノも知らなかった。そもそも王国祭が一年に一度ではなく、半年に一度である事も初めて知った。



(王国祭がもう開催直前だったなんて聞いてないぞ……試験を受けているから主人公は参加できなかったのか?じゃあ、宿屋は借りれないのか!?)



王国祭の開催中は何処の宿屋も満員であり、宿泊は認められていない。尤も魔法学園の生徒は学生寮を利用すれば無料で宿泊できるので王都の宿屋が泊まれなくても問題にはならない。しかし、まだ学生ではないリトは当然ながら学生寮には宿泊できない。



「どうしよう……野宿するしかないのかな」

「だ、駄目だよ!!王都は他の街より警備が凄く厳しいから、野宿してる所を見られたら連行されちゃうよ!?」

「そ、そんな……なら、外で野宿するよ」

「それも駄目だって!!最近は魔物の数も増えてるみたいだし、外で野宿なんかしたら危ないよ!?」

「じゃあ、どうすれば……」



リトは一晩過ごす方法が思いつかずに困っていると、レノはそんな彼を見て考え込み、ある事を思いつく。



「そうだ!!それなら僕の孤児院に来なよ、事情を話したらきっと一晩ぐらいなら泊めてくれるよ!!」

「えっ……孤児院に?」

「うん、優しい人ばっかりだから安心していいよ。ほら、早く行こう!!」

「うわっ!?」



レノはリトの腕を掴むと自分が世話になっている孤児院まで連れて行こうとする。リトはレノの行動に驚き、同時に懐かしく思う。



(そうだった、ゲームの中のレノも他の人間が困っている所を見ると放っておけない優しい性格だったな……)



ゲームの主人公と同じく現実のレノも困った人間を見過ごせない優しい性格の持ち主である事が判明し、その事にリトは懐かしさと嬉しさを感じた。そして彼女に連れられるままにリトは孤児院へ連れてこられた。

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