プロローグ




 街の坂道を駆ける音。


 自転車に2人。


 前方には須磨の海。


 真っ青な、陽だまりの午後。



 いったいいつからだろう。


 俺たちが、同じ時間に立てていたのは。


 そのことを今まで1度だって、考えたことはなかった。


 いつだって、一緒に歩いていけると思っていたから。



 交差点の前で立ち止まる。


 その時に見た信号はまだ、どの色でもなかった。


 だけどふと、アイツに伝えなきゃいけないと思った。


 1つの交差点の上で、1つの「世界」が交わっているうちに。


 「偶然」という飛行機が、空に飛び立つ前に…。



 なあ、千冬。



 俺たちはもう、同じ時間にはいられないと思う。


 こうして同じグラウンドの上で、たった1つのボールを追えるのは、——きっと。


 最初からわかってたんだ。


 霞むほどに青い空の先に見えていた未来が、俺たちの「今」を連れてこないこと。


 キャッチャーミットの下で出したストレートのサイン。


 その指の先で、あの夏の岬にはもう、立てないこと。



 約束してたんだ。


 晴れた空の下で、史上最強のバッテリーになろう。


 それは決して、大袈裟なんかじゃなかった。


 千冬となら、どんなバッターだって打ち取れる気がしてた。


 だからただじっと、構えてた。


 使い古したキャッチャーミットを。


 彼女の渾身のストレートを、ただ、取りこぼさないように。



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