第5話


 細い路地をまっすぐ進み、川を挟んだ反対側の住宅地に向かって歩いた。


 普段は歩かない道だ。


 女はすらっとした見た目とは裏腹に、ずいぶん男らしい歩き方をする。


 断ってはおくが、別に悪い意味じゃない。


 後ろ姿はいかにも女子高生って感じなんだが、ズンズン進んでいくその姿は、まるでウチの母親みたいだ。


 あ、ということまあ…、あまりいい意味ではないか。


 少なくとも、「可愛い」っていう表現からはほど遠い。


 顔は別に悪くはなかったけど。



 住宅地を進んだ先にある水路沿いの橋を渡り、広い場所に出た。


 バスケットコートのある公園と、グラウンド。


 ほんとにあったと思いながら、立ち止まる。


 女は振り向いて、「この場所、知らない?」と聞いてきた。



 「知らない」



 この地区のことはよく知らない。


 家に帰るときは海沿いを歩く。


 その方が近いからだ。



 「桜木町。この近くに私の家がある」



 …だから?


 突っぱねる言い方をして悪いが、だからなんだと言いたい。


 一体なんの用があるんだ?


 こんな所に連れてきて。



 「ボール、持ってるやろ?」


 「は?」


 「そのバックの中に」



 女はバックを指差すなり、ボールを出せと言ってきた。


 …ボール?


 意味がわからなかったわけじゃない。


 もちろん意味はわかる。


 ボールといえば1つしかない。


 硬式野球ボールだ。


 でも、なんで?

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