番外編5.小野寺 幸
おれの一番古い記憶は、たくさん泣いているお母さん。
後から聞いた話だと、その時はおれが迷子になっちゃったみたい。
お母さんは心配して、見つけたらたくさん泣いてたんだって。
『さっちゃん』
お母さんが『カホゴ』だって気付いたのは、小6んとき。
お母さんと一緒にお風呂に入ってる事とか、一人で出掛た事がないとか、それが『変』だって知った。
おれは途端に恥ずかしくなって、必死に周りに合わせるようにウソをつき始めた。
ウソをつくのは辛かった。
だって、ウソって、ほんとはついちゃダメなものだから。
みんな本当の事を言ってるのに、僕だけウソついて。
……って、いけない。また頭の中で僕って言っちゃった。
おれは、少しでも普通に見える様に、おれって言うことにしている。
当然最初はお母さん、誰かに影響されたのって言って凄く焦ってたけど、お兄ちゃんが普通の事だよって言ってくれた。
……そう。
お兄ちゃんと言えば、おれはお兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんは凄く優しい。
僕も、お兄ちゃんみたいにかっこよく誰かを助けてあげられる人になりたい!
……おれ、も。
ダメだ、熱くなっちゃうと、いつも僕ってなっちゃう。
『お兄ちゃん』
『……』
『……お兄ちゃん?』
『え?あ……何?』
……でも、お兄ちゃんは段々違くなっていった。
いつもはすぐ家に帰ってくるのに、2、3日に一回、遅くに帰ってくる様になった。
……ケガをいっぱいつけて。
でも僕は、どこかでかっこよく誰かを助けてるんだと思ってた。
『お兄ちゃん、またどこか連れてってよ』
『あー……また今度ね』
『お兄ちゃん、最近……』
『……何?』
その日から何となく、僕のこと、見てくれてない気がした。
『何でもない……』
『……』
そんなお兄ちゃんは、ちょっと怖かった。
まるで僕の事なんて……もう見ていないように感じた。
いつもなら、「じゃあ明日、映画でも行く?」なんて、言ってくれるのに。
でも僕はわがままは言えなかった。
言えなかったというか……僕の言葉なんて聞いて貰えない気がした。
僕は……あっ、おれは……気づけなかった。
あんな事になるなんて。
『しきは……出ていったよ。……今は叔父さんの所に居る』
その時から、おれの家は変わってしまった。
お父さんは、よく話すようになった。
お母さんは、何故かおれをそんなに気にかけなくなった。
おれは……そんな、急に変わった家がどうしても怖くて、遅くまで遊べる友達と一緒に居るようになった。
お母さんはそんな俺に、『気をつけなさい』とだけ言って、もう何も言わなかった。
……ねぇ、お兄ちゃん、早く帰ってきてよ。
このままじゃ、おれまで変になっちゃうよ。
おれ、お母さんが『カホゴ』で良いからさ、……お願い。
お兄ちゃんが居ないと、この家は……ダメみたいなんだ。
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