おそい

雪桜

第1話 おそい

「よぉ。久しぶり。」

「もぉ~。おそい~。」

「詩織は連絡してくるのが急なんだよ。」

今日は学校もバイトも休みだったので積に積まれていた漫画たちを一気に消化しようと家でずっと漫画を読んでいたのだが、気づいたらラインに「これから飲みに行くから付き合って」と送られていた。詩織とは幼馴染でもう十年以上の付き合いになる。小学校から高校までずっと一緒で、昔から一緒に遊ぶ機会が多かったが、俺は大学に進学、詩織は県内の役所に就職し、それぞれ別の進路に進んでも今日みたいにたまに連絡を取り合っては顔を合わしている。

「雄二がラインに反応してくれるのずっと待ってたんだよ。何してたのさぁ~。」

「すまん。漫画に集中しすぎて気づくのが遅くなった。これでも急いできたんだぞ。」

「だいたいねぇ~雄二はいつもラインの返信が遅い!スマホを机にでもしまってるのかってくらい遅い!」

「そんなわけないだろ…。ほかのことに集中して気づくのが遅くなるだけだよ。」

「雄二の悪いところだよ。自分のことにしか興味持たないから友達ができないんだよ。」

「余計なお世話だ。」

昔から一つのことにしか目が向けられず、要領が悪かったため、自分にそのつもりがなくても周りを蔑ろにしてしまうことが多く、そのせいで反感を買うことも少なくなかった。

「もう少し周りにも目を向けたほうがいいよ。大学生になったんだし、新しいことに目を向けないと。」

「それなら心配ない。今週もしっかりと新刊と新連載のチェックは欠かさなかったしな。」

「いや、そういうことじゃなくてね…。」

「まぁ、冗談はさておき、別にいいだろ。自分のことは自分で考える。当然のことをしてるだけなんだから。」

「でも、自分一人だけで生きていくだけなんて出来っこないんだから。大学生なんだし、気になる子でもいないの?」

「なんでそんな心配されないといかないんだよ。気になる子なんていないよ。」

「えぇ~うそだぁ~。一人くらいいるでしょ。あの子可愛いなぁ~とかあの子好きだなぁ~とか。」

「仮にいたとしてもなんでいちいち教えなきゃならないんだ。」

「おっ、その反応…おぬし好きな人がいるな?だれだれ?どんな娘?写真ないの?ねえねえ!」

「うざっ、酔っぱらのからみ方うざっ。俺には俺の考えがあるんだよ。」

「えぇ~。うかうかしてるとほかの子におくれをとっちゃうぞ。どんどんいかなきゃ!」

「もう俺のことはいいだろ。そういう自分はどうなんだよ。詩織も俺と一緒で彼氏なんかできたこと無かったろ。いい人見つけたのか?」

俺と詩織は昔っからそういった類の話は全くなかった。別に興味がなかったわけではなく、ただ純粋に出会いみたいなものが全くなかったのだ。今にして思えば、お互いに友達として異性がそばにいたから、彼氏彼女がいなくても事足りてしまっていたからだと思う。

 食事に行ったり、映画を観たり、旅行に行ったりなど、大抵のことは一緒にやっていた気がする。だからわざわざ恋人を作ろうなんて気も起らなかったんだろう。

 だって、横に詩織がいれば十分だったんだから。

「そうそう、今日はその話もしたくて呼んだんだよね。」

「えっ、まさか…。」

「そう!そのまさかです!なんと私、彼氏ができちゃいましたぁ~!」

「…マジでか。どんな人なん?」

「相手は職場の先輩。いつも仕事でお世話になってる人で、いつもめっちゃ親切にしてくれるの。で、この前食事に誘われて、そこで『好きです。』って。」

「それで詩織は返事をしたと。」

「うん。断る理由もなかったしね。」

「…そっか。やっと詩織さんにも春が訪れたかぁ~。とりあえずおめでとう。」

「ありがとう!ほら、私ですら彼氏作ったんだから、雄二も早く彼女作らないと。いつまでもこうやって一緒にいられるかわかんないんだから。」

「…そうだよな。おくれを取る前に頑張って踏み出すべきだったよな。」

「『だった』じゃなくてこれから頑張るんでしょ!好きな人いるんでしょ!私もちゃんと応援してるから!。…もし、ダメだったとしても今度は私がこうやって付き合ってあげるかさ。」

「…そうだな。…じゃあ今日は詩織のお祝いだな!今日は俺のおごりだ!好きなだけ飲め!」

「やったね!今日は飲むぞぉー!」

「おぉー!」



今がどんなに楽しくても永遠なんてものは存在しない。

どんなに願っても変化の時は来る。

仮に変化を望んでも変化を起こす者はいない。

その変化が自分で起こせたら…なんて思ったりするけど。

そう思ったときにはもう「遅れている」ものだ。

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おそい 雪桜 @YUKISAKURA0923

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