ミラーレス 個撮の神様達と出会うまで
ミカ
序章
信号を待つ。だるさに時々白目を剥く。待ちたくもなければ、進みたくもなかった。
向かい側の歩行者たちが、全員私の敵に見えた。踝から下にかけて、重力がずん、と落ちれば、鈍い痛みに襲われる。不定期にやってくる尿意に焦り、途中で見つけた公衆トイレへ駆け込めば、便座をアルコールで拭いた後に座り込んだ。
蛇口をティッシュの上から捻っては持参した紙石鹸を手で強く擦る。チロチロ、と弱く出る水で長めに手を洗い、外へ向かう。
街を歩く。とにかく歩く。少し視線を下ろせば小さい子どもと、その子の手を引く大人の手首に目が行った。その瞬間に顔を見上げれば目が合うから、気まずくて視線を隣の定食屋に逸らす。定食屋が仕切るテナントの角が、初めてアルバイトをした時のパン屋と少し似ていて、しばらくぼうっと立ち尽くしていると、中にいる店員が不思議そうに此方を見ていた。
私はどうしよう、と必要以上にたじろぐと、丁度タイミング良く定食屋から出てきたスーツ姿の男二人組は、ぎちぎちの薬指に指輪をしていて、スマートフォンで自分の子どもと思われる赤ん坊を写した画像を見せ合う。片方だけならまだしも、もう傍らもスマートフォンを出しては同じ動作をしている。
何とも思わない。
「ありがとうございました」
若い女性店員の可愛らしい声が出口まで聞こえると、すぐに新規の客が中へ入っていったから、私はそのまま店を通り過ぎた。
散らかった自宅のマンションへ帰るまで、とにかく前だけを向いた。
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