◎第02話・レナス発見
◎第02話・レナス発見
彼はとりあえず、自分の小さな家で一休みする……ことすらせず、気持ちを切り替えて、冒険者ギルドへ向かった。
仲間募集。
天性【司令】を有する彼は、自分がリーダーとして仲間を募集するのに、ある程度の優位性を有しているといえよう。
しかし。
「『仲間募集。当方が頭首』というやり方では、なかなか人が集まらないと思いますよ……すでに名が売れているか、条件がよいか、頭首が圧倒的に有能でないと」
受付から諭された。
「そうですか……【司令】や【主動頭首】でもなかなか難しいですか?」
「決して易しくはない、とはいえると思います」
「元勇者一党でも?」
「そうです」
受付はため息。
「いっそ伝手か何かをたどって、仲間にしたい冒険者に自ら勧誘のお話を持って行かれるのがよろしいかと思われます。ギルドを通す場合、求人費用もそこそこに掛かりますし」
「伝手、伝手ですか……」
「私としては、それを強くお勧めします」
カイルは知り合いを何人か思い浮かべたが、上手くいくかどうか。
「とりあえず求人は出してください。並行して進めます」
じゃぶじゃぶ使えるほどでもないとはいえ、勇者からの手切れ金もある。広く人材を集めるに越したことはない。
「分かりました。あまり期待できませんが、それがカイル様のご意向なら」
「お願いします。あと頭首と仲間の指輪を買います」
彼は頭を下げた。
とはいえ。
仲間集めの目途は立っていない。
もともと勇者パーティからの追放は、ある程度予期していたとはいえ、それがいまこの時期に行われることまでは予想していなかった。
また、追放前の彼はあくまで「勇者パーティの一員」であり、冒険者ではなかったため、いまの彼と同じ冒険者の知り合いはそんなに多くない。
冒険者の目標は四大魔道具の入手であり、一方、勇者パーティの使命はあくまでも魔王の打倒。二者の趣旨が違うゆえ、必然的に人脈の重なりも限られる。
求められる能力は似ているが、分野が根本的に異なるのだ。
悩んだ彼は。
……とりあえず酒場にでも行くか。
決して酒におぼれるためではない。酒場なら、自由な状態の知り合いもいるかもしれないという淡い期待である。
彼は決めると、酒場目指して、酒を飲むためではないことがはっきりとわかるほどしっかりとした足取りで、目的地へ向かった。
幸運か不幸か、彼の行った酒場ではひと悶着の最中であった。
「なあレナス。そのでっかいおっぱいを揉ませてくれよ」
「おれたちと一緒にいいことしようぜ。どうせ身を持て余してるんだろ?」
「天性も実力も中途半端、器用貧乏なんだ、取り柄は顔と胸しかないだろう?」
レナスという旧知の仲の冒険者が、酔客に絡まれていた。
かなり悪質である。
助けるか?
当然。しかし純粋な正義感のためでもなく、レナスと色恋にしけこむためでもない。
カイルの知る限り、レナスは冒険者として器用貧乏である。いくつかの天性を持っているが、いずれも彼の【剣客】のように下級のもので、とがった長所がない。
しかし、彼の天性があれば、レナスは器用貧乏を脱して万能型へと羽ばたくことができるだろう。
前にも述べた通り、カイルの天性のうち【司令】は仲間の全ての力を大きく底上げするというもの。全ての力というところが肝要で、幅広い素質がある人間に対しては、それだけ有効性が大きく、万能型の人間になれる。
彼は揉め事に割って入り、酔客たちに飛び蹴りを浴びせた。
「せいっ!」
吹っ飛ぶ酔客。そして。
「レナス、この仲間の指輪をつけて!」
「え、え?」
「早く、そうでないとあの酔っ払いたちは倒せない!」
カイルは仲間の指輪を渡す。頭首の指輪はすでに装着済みである。
彼女が言われるがままに指輪をつける。
するとカイルは、急に世界が鮮明になり、物事の意味付けがはっきりと視え、理解でき、身体は羽のごとく軽くなったように感じられた。
これが【司令】と【主動頭首】の力か。
生まれて初めて感じる、自身のリーダー系の天性の凄まじさ。
勝てる。
ふと見ると、レナスも【司令】による感覚に若干戸惑っているようだった。
しかし、その感覚を味わっている暇はない。
「なんだあ、こいつ」
「邪魔すんな、おれたちはレナスに用があるんだ」
「おいお前ら、こいつを畳んじまうぞ!」
酔客が一斉に襲い掛かる……も。
動きが遅すぎる。弱点はいまのカイルからみれば無防備で、技術も未熟。
頭首になる前の彼なら、それでも手も足も出なかったことだろう。
しかしいまなら、死なないように手加減しつつ酔客たちを戦闘不能に追い込むことは容易に思えた。
「いくぞ酔っ払いども、それっ!」
回し蹴り。正拳。関節技。投げ技。
カイルには格闘系の天性がないが、【司令】と【主動頭首】の効果だけでも、余裕で圧倒できるようだ。きっと中級から上級の格闘系の天性持ちにも対抗できるだろう。
レナスも多数の酔客相手に有利な戦いをした。
「お前が最後の一人か」
あらかた片付けた彼は、残った酔客へ技を撃とうとする。
「待って、待ってくれ!」
酔客はあわてて止める。
「もうレナスには手を出さないから、見逃してくれ!」
命乞いである。
もっとも、カイルの目的はレナスを仲間に引き入れることである。それさえ果たせれば、極論、酔客の状態はどうでもいい。
「陳謝のお金が欲しいところだね」
「わかった出す! これで勘弁してくれ! じゃあな!」
酔客は少しの金を出すと、受け取った隙にその場を逃げ去った。
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