追放の狂想曲――勇者パーティ離脱から始まる本当のリーダーシップ

牛盛空蔵

◎第01話・新たな門出

◎第01話・新たな門出


 ついにカイルの覚悟していた時が来た。

「カイル、あんたはこの勇者一党から出ていってもらう」

 予期はしていた。いつになるかという疑問がずっと離れなかった。

 しかし決して、女勇者ミレディは本当の理由を口にはしないだろう。

 なぜなら、その理由は、ある種のミレディの欠点をも意味するものだからだ。

 だからカイルはその理由を聞かない。

「そうか。そうだね、僕は出て行ったほうがいいね」

「へえ、ゴネないの。あんたにしちゃ素直じゃない」

 もしミレディが正直に理由を言う気性だったら、きっとこう説明していただろう。

 カイルはリーダーに据えたほうが圧倒的に有利な「天性」を持っている。しかし勇者パーティのリーダーは通例、勇者であり、これは慣習的にも、またミレディの意地としてもリーダーを譲れない。

 カイルの「天性」……すなわち特技、スキルのうち、ミレディの障害となるものは二つ。

 一つは【司令】、もう一つは【主動頭首】。

 まず【司令】とは、自分がパーティの頭首、すなわちリーダーであるとき、自分を含むパーティーメンバーの全ての力を大きく底上げするというもの。

 そして【主動頭首】とは、自分がパーティの頭首であるとき、自分自身の全ての力を格段に強くするものである。これは【司令】とも重複する。

 この二つの天性は、カイルが頭首のときにしか効果を発揮しない。

 つまりミレディが頭首である限り、カイルはほぼ標準的な、とがったところや専門的な能力のないお荷物と化す。

 厳密には、カイルは【剣客】という天性も持っている。しかしそれは「剣の扱いがそれなりに上手くなる」といった程度のもので、勇者パーティにぜひとも必要なほどかというと、決してそうではない。

「あんたは幼馴染だから、腐れ縁で組んでいたけど、これ以上はさすがにきついのよ」

 ミレディは追撃のような言葉をかける。

「この日が……」

「なに?」

「この日がいずれ来るのを、僕は強く感じていた」

 カイルは深くうなずく。

「僕は勇者一党にはふさわしくない。噛み合わない天性なのは充分に知っていたからね」

「なら話は早いわ。『仲間の指輪』を返して」

 彼は彼女の言葉に応じて、指輪を外し、彼女に渡した。

 これで、パーティとしてのつながりは断たれた。

 勇者パーティは邪魔者を排除し、彼はただのソロの人間になった。

 ――【司令】や【主動頭首】は発揮されない。頭首の地位は仲間ができて初めて認められる。

「さすがに素寒貧は可哀想だから、路銀を分けるわ。鎧とか武器とかも没収まではしない」

 装備を没収はしない。しかしそもそもカイルの身につけているものは、革の軽鎧だの、ごく普通の剣だの、標準的な水薬数個だの、値打ちのあるような代物ではない。彼の気性で手入れは万全だが、逆にいえばそれだけだった。

「さあ、出て行ってちょうだい。長い間邪魔になったわね」

「そうだね。長きにわたってご迷惑をおかけしました」

 彼は一礼し、弱々しい足取りで去った。


 後にミレディは、この一手が、考えうる限り最悪のやり方だったことを知ることになる。


 勇者の本拠たる屋敷を後にしたカイル。

 これからどうするか。

 それなりの間、勇者パーティで冒険をしてきた彼には、いまさら奉公人が務まるとは思えない。商売系の天性は無く、リーダー系の天性も平の奉公人では発動しない。新しい事業を立ち上げて商売する気もない。

 彼の天性を最大限活かす道は、やはり「冒険者」であろう。

 この世界における冒険者には、明確な定義がある。

 それは、「四大魔道具」という、四つの特殊な魔道具を取得するため冒険をする者、というものである。

 この世界には人の使う魔法が存在しないかわり、魔道具という、魔法にも似た力を持つ道具が活用されている。

 その中でも伝説になるほどのものが「四大魔道具」である。

 代々の勇者の中にも使った者が多いといわれ、最終目的である魔王の討伐とは別に、収集していたとされるものである。

 歴代勇者の中には、四大魔道具を使わずに魔王を退治した者もいるといわれているが、少なくとも現在の勇者ミレディは、魔王の討伐と別個に存在を追っている。

 なお四大魔道具は、新しい魔王が生まれる際に、いつの間にか、どこへともなく消えるようだ。世界のどこかへひとりでに安置されるらしい。もっとも、この仕組みの詳細はいまだよく分かっていない。

 ともあれ。

 四大魔道具を目指して冒険者をするという目的は、彼にとって最適であると彼自身は感じた。

 勇者の仲間から冒険者への転職。

 いままでとやることはそれほど変わらないが、ひとまず冒険者ギルド――冒険者たちを支援する互助機関に足を向けた。

 ひっそりと新たな門出。第一歩を彼は踏み出した。

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