2.伝説の巨神の力
『♪~ソッと手を差し伸べてくるねいつも』
アメノウズメの<クラスメイト>をBGMに巨神はある程度高度を取ったところで水平飛行に入った。
『♪~そんなところが大好きなの』
首を縦に振りにリズムに乗りながら、悠斗はレイに聞いた。
「遺跡の様子は写せるか?」
『可能です』
左手にフロートウインドウが開き、遺跡の様子が映し出される。
その画面で、悠斗は巨神の視界も遺跡にフロートウインドウで表示されているのに気付いた。
それから悠斗は地図が表示されているフロートウインドウを見た。
出発場所の遺跡や目的地のギズミの町の他に、今、どこを飛んでいるかも表示されている。
巨神の飛行速度は思っていたよりも速く、どんどんギズミへと近づいていく。
「あれか……」
遠くに円状の城塞都市が見えてきた。
町は高い壁に覆われているが、上空からだと中の様子も見えた。
「町を拡大してくれ」
『了解』
悠斗の指示でまたフロートウインドウが開き、町が大写しになった。
「ゲッ……」
悠斗は思わず呻いた。
大量の魔物が、次々に住民を襲っていたからだ。
魔物は緑色の肌に、尖った耳と長い鼻をしており、赤い目はギョロッと出て牙をむき出しにしている。
手には剣を持っており、それで住民達を切り裂いていた。
「ゴブリン?」
悠斗は直ぐに思った。
『ジャマインが、こんな町中まで……』
しかし、グイルソンは別の名を口にする。
戦況は明らかに王国が不利だった。
騎士団が抵抗しているが、数が違いすぎる。
真っ赤な血を吹きながら住民が一人、また一人と倒れていく。
それは地獄図と言って良かった。
『……』
そのあまりに悲惨な光景を見てアメノウズメのメンバーは歌うのを忘れた。
途端、エナジーゲージが急速に減り始める。
『警告』
レイが報告した。
『エナジー不足』
そして、ゼロ近くまで落ちる。
『飛行困難です』
巨神の背中のスラスターから光の粒が消える。
そのまま巨神は落下し始めた。
「歌!」
悠斗は慌てて叫んだ。
『歌!!』
それを聞いて夕梨花はハッとなった。
「♪~いつも見ているあなただけ」
そして、歌うのを再開する。
だが、エナジーは直ぐには回復しない。
『♪~いつか伝えたいこの想い』
その間、巨神は落下を続けた。
「クッ!」
あわや地面に墜落するという直前、スラスターが再び光を灯した。
地上すれすれを掠めて、巨神は上昇する。
「フーッ……」
悠斗は額の汗を拭った。
高度が下がったので、もう城壁の中を見ることは出来ない。
しかし、あの惨状を目の当たりにして、悠斗はカッとなった。
「急いでくれ、レイ」
『今のエナジーですと、この速度が限界です』
焦る気持ちを抑えながら、悠斗は徐々に近付く城壁をジッと睨みつけた。
城壁が迫る。
悠斗は高度を上げて、城壁をフライパスした。
そして、ジャマインと応戦する騎士団の間に着陸する。
「なんだ!?」
「新手の魔物か!?」
突如、空から現れた巨神に、住民や騎士達は戸惑った。
同じように、ジャマインの群れも攻撃の手を止めた。
明らかに戸惑っている。
「俺は味方です!」
悠斗は背中を見ながら言った。
『ここは任せて、早く奥へ!』
巨神の発する言葉に、住民達が町の奥へと走り出した。
騎士団の者達は、逃げずに巨神の後ろで剣を構えている。
それを見たジャマインの群れも剣を構え、巨神の足を打つ。
カキンッ! と金属音がして剣は弾かれた。
「損傷は?」
『ありません』
念のため聞いた悠斗に、レイは無機質に答えた。
「よし、攻撃を……」
そこまで思って悠斗は気づいた。
(あれ?)
武装の事はなにも聞いてないことを。
「武器は無いのか?」
少し焦って、レイに聞く。
『対人用
「照準は?」
『目標を探知します』
レイが言うと、スクリーンに映るジャマインの群れに六角形のマークが無数に表示された。
この一つ一つが、ジャマインを指しているらしい。
「ん?」
よく見ると六角形の横には、
それを不審に思いながらも、悠斗はまず足に取りついたジャマインを蹴散らすために巨神に蹴りを入れさせた。
「ギィギギギッ!」
ジャマイン達が奇声を上げて吹っ飛ぶ。
「フォトン・マシンガン、発射!」
『了解』
悠斗の命令に六角形の左右を包むように赤いロックオンマークが表示される。
それに合わせるように巨神は両手を挙げると、ジャマインの群れへと向けた。
手首の所からか、
「ギギャ!」
光の矢を喰らったジャマインが緑色の血を吹き出しながら、次々に倒れていく。
ファンタジー物だと魔物は死ぬと光になって四散するものだが、この世界では人と同じように屍になるようだった。
フォトン・マシンガンの斉射で、ジャマインの群れが一掃されていく。
「よし!」
巨神の力に確かな手応えを感じた悠斗は、心の中でガッツポーズをした。
『警告』
すると、レイが不意に告げた。
『エナジーが残り三十パーセントを切っています』
『♪~いつも見ていたあなただけ』
アメノウズメの歌はまだ鳴り響いている。
それでもエナジーが減ると言うことは、
「光学兵器だから、エナジーを使うのか……」
恐怖に慄いたのか、ジャマイン達は赤かった目を白くして、逃げだそうとしていた。
「射撃中止」
なので、悠斗は攻撃を止めた。
『了解』
減っていたエナジーがまた徐々に増え始める。
それを確認してから、悠斗は敗走するジャマインを追って、巨神を前進させた。
町の南から北へと通る大通りを歩いて行く。
「あれは……?」
と、北の城門前の広場に立つ巨人の姿が目に入った。
大きさは巨神と同じぐらい。
薄汚れた緑色の肌をして、手には棍棒を持っていた。
「ギガース?」
悠斗は口にしたが、直ぐに六角形のマーカーが正面スクリーンに表示される。
そこには、ミガヒストン、と書かれていた。
「あれが……」
グイルソンの予想通り、帝国軍はギズミ攻略戦にミガヒストを投入していたのだ。
ミガヒストの背中にある石の城門は、無残に崩れ、今は敗走してきたジャマインが我先にと城壁の外に出ようとしている。
「グルル……」
赤い目をしたミガヒストが、巨神を発見した。
棍棒を振り上げて、ドシドシと向かってくる。
悠斗はエナジー残をチラッと確認してから、レイに命じた。
「フォトン・マシンガン!」
狙い澄まされた巨神の腕からフォトン弾が乱射され、ミガヒストの全身を貫く。
「グハッ!」
ドス緑色の血を吐きながら、ミガヒストンはドスン! という音と共に広場に倒れた。
「おーっ!」
それを遺跡でフロートウインドウ越しに見ていたアネマス、ガイム、エンペリ、グイルソンから歓声があがった。
歌を止めたアメノウズメのメンバーの顔にも笑顔が零れる。
「フーーーーーーッ」
その光景をコクピットに浮かぶフロートウインドウで見ながら、悠斗はシートの背もたれに体重をかけると長い息を吐いた。
「終わった……かな?」
大量に発生したジャマインの死骸とミガヒストの死骸を常駐していた騎士団に任せて、再びアメノウズメに歌ってもらい、悠斗は帰路についた。
出撃した時は気付かなかったが、遺跡は大きな城塞都市の中にあった。
町には大きな城もあり、そこで悠斗はガイムが、遺跡が王都の南にある、と言っていたのを思い出した。
巨神を遺跡に着陸させると、悠斗は片膝立ちにした。
それから右手を胸の少し下辺りに持っていく。
「レイ、待機状態に出来るか?」
『可能です』
「なら、このまま待機状態に」
『了解』
そして、コクピットから手の平を経由してステージへと飛び降りた。
「悠斗殿」
すると直ぐにアネマスが近づいてきた。
「魔物討伐、大義であった」
「いえ……巨神の力です」
破顔するアネマスに悠斗は謙遜した。
事実、魔物達をいとも簡単に倒せたのは、巨神の性能のおかげと言って良い。
それとアメノウズメの力も大きい。
「今日は疲れたであろう」
だが、アネマスは気にしない様子で、悠斗を労った。
「城で休むといい」
それから、アメノウズメのメンバーの方を向く。
「もちろん、歌姫様も一緒だ」
そして、控えていた衛兵に命じた。
「至急、城に戻り、馬車の手配を」
「はっ!」
衛兵は一礼して、足早に遺跡を出て行った。
「疲れたぁ~」
それで緊張の糸が切れた希美がステージ上にへたり込んだ。
「本当に……」
続いて聡子もフラフラと座り込む。
「座るなら、そこのイスにしなよ!」
まだまだ元気一杯の木乃実が観客席を指さす。
「……」
無言で観客席へと降りた葵が、新品同様になったイスに座った。
「確かに疲れたね」
夕梨花も観客席に降りると、クッションの効いたイスにドサッと座る。
「国王陛下」
しかし、悠斗は休まず、アネマスへと近づく。
「なんだね?」
国を救った英雄に対して、アネマスは気さくに応える。
「お願いがあります」
悠斗は少し緊張した面持ちで、伺うように言った。
「なにかね?」
「巨神用の武器を作って欲しいんです」
その申し出にアネマスは首を捻った。
「あの光の矢では駄目なのかね?」
「
問題点がきちんと伝わるように祈りながら、悠斗は説明した。
「なので、エナジーを使わなくてもいい武器……例えば巨神用の剣を作って頂けることは出来ないでしょうか?」
それを聞いたアネマスは少し考え込んだ。
「どうかね?」
そして、エンペリに尋ねる。
改めて巨神を見たエンペリは、思わず唸った。
「そのような巨大な剣は打ったことがないので、なんとも言えません」
「そちの父上でも無理かね?」
「いえ、父ならきっと引き受けてくれでしょう」
「彼女の父君は王国でも名の知れた鍛冶師なんですよ」
と、いつもの間にか近づいてきていたガイムが、悠斗に耳打ちする。
「なら、頼もう」
「わかりました」
「悠斗殿」
「はい」
「聞いた通りだ」
アネマスは改めて悠斗を見た。
「巨神の剣は早急に準備させよう」
「ありがとうございます」
その言葉に、悠斗は深々と頭を下げた。
そうしているうちに衛兵が戻ってきた。
馬車の準備が出来たらしい。
「では、参ろう」
アネマスの声で、アメノウズメのメンバーと悠斗は、遺跡を出た。
「うっ……!」
悠斗は思わず呻いた。
大勢の人々が遺跡の周りを取り囲んでいたからだ。
「いきなり遺跡が輝きだしたと思ったら、まるで新品のような姿に変わった」
「なんでも遺跡の巨神像が動き出して空を飛んだらしい」
と、口々に言っていてる。
(大騒ぎになってるな)
悠斗は心の中で冷や汗笑いをした。
「国王陛下だ!」
「おーっ!」
アネマスの姿を見つけた人たちが歓声を上げる。
それに手を上げて応えてから、アネマスは衛兵が切り開いた民衆の真ん中の道を馬車へと歩いて行く。
それにガイムとエンペリ、グイルソンが続き、さらにアメノウズメと悠斗が続く。
「あの女の子たちは誰なんだ?」
「可愛いね」
「変わった服、着てるね」
すると、アメノウズメのメンバーを見た人々が、口々に言い合っている。
こういう雰囲気は既に慣れっこなので、アメノウズメのメンバーは臆せずに歩いて行く。
しかし、注目されるのに慣れていない悠斗は、躊躇しながら付いていった。
馬車は二台あり、豪華そうな装飾を飾った馬車にはアネマス達が乗り込み、もう一台の馬車にアメノウズメのメンバーと悠斗が乗り込んだ。
馬車の中は席が向かい合った形で配置されていた。
一席に三人づつ座る計算だが、それにはやや狭かった。
悠斗はアメノウズメのメンバーが座った後に、空いた席に座った。
そこは聡子の隣だった。
(わぁーっ……さとみんの隣だ)
自分の推しが直ぐ間近にいることに、悠斗は緊張した。
「朝霧君……だったからしら?」
そこで、夕梨花が声をかけた。
「自己紹介がまだだったわね」
「知ってます」
口を開きかけた夕梨花を、悠斗は遮った。
「ファンですから」
「あっ、そっか」
当たり前のことに気付いて、夕梨花は照れ笑いした。
「俺の方こそ、自己紹介がまだでしたね」
悠斗は席の上で姿勢を正した。
「朝霧悠斗、十五歳、高校一年生、ファンクラブナンバー、六一三九二、です」
「さとみんと同い年なんだ」
それを聞いた希美がへぇー、言う。
「うん」
頷きながら悠斗は横目で聡子を見た。
すると、ちょうど聡子も悠斗を見ていて視線が合う。
聡子は顔を真っ赤にして、慌てて視線を外した。
悠斗も、泡を食いながら目を反らす。
「さっきは大活躍だったわね」
そんな様子にニマニマしながら、夕梨花は巨神を動かしたことを褒めた。
「アレぐらいはアニメの知識があれば……」
悠斗は照れながら謙遜した。
「アニメの知識なんだ……」
感心しながら夕梨花は聡子を見た。
「わたしも最初から、異世界召喚物だと思ってましたよ」
聡子はテンパりながら言った。
聡子が生粋のオタクである事は、ファンの間では有名な話だった。
「それにしては、結構不安そうな顔してたよね?」
と、希美が意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そ、それは……」
恥ずかしそうに俯いて、聡子は口籠もった。
そんな推しの姿に悠斗は黙ってはいられなかった。
「まぁ、オタクだからって、いきなり異世界に放り込まれたら戸惑うのが普通だよ」
なので、助け船を出す。
「それに、ノゾだって不安がってじゃないか」
「そ、そんなこと!」
悠斗の指摘に希美はムキになって反論した。
「一番動揺してたかもね」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、夕梨花が駄目を押す。
「もう、ユリまで!!」
場がドッと沸いた。
そうしている間に馬車は城へと到着した。
「立派なお城!」
馬車を降りるなり、木乃実はわぁーっ、となった。
「本当だねぇ!」
希美も目を輝かせている。
そんな
「お帰りなさいませ、国王陛下」
そこでは大勢の侍女が出迎えていた。
「ふむ」
アネマスは頷いてから、一番年配と見られる侍女に聞いた。
「話は?」
「伺っております」
「では、客人を部屋に」
「かしこまりました」
会話の後、六名の侍女がアメノウズメのメンバーと悠斗に近付く。
「朝霧悠斗様ですね?」
悠斗に付いたのは、二十代後半の茶色い髪を白い帽子に纏めた物腰の柔らかそうな女性だった。
「ゲルヌ・ゴズゲゼスと申します」
自己紹介をした後、ゲルヌは機微を返した。
「お部屋にご案内します」
ゲルヌに付いていき、階段で三階まで上がる。
アメノウズメのメンバーもそれぞれ一ずつに侍女が付き、同じように三階まで上がっていた。
そして、横並びで部屋へと入る。
「こちらです」
案内された悠斗の部屋は、夕梨花の隣だった。
中は八畳ほどとかなり広く、豪華な装飾が施された家具やベッドが置かれていた。
(なんか、緊張するな……)
部屋の格調の高さに悠斗は尻込みした。
「朝霧様」
すると、ゲルヌが声をかけてきた。
「ちょっと両手を水平に上げてください」
「?」
疑問に思いだながらも、悠斗は言う通りにした。
ゲルヌは観察するように、悠斗の周りをグルッと一周回る。
「もう結構です」
それから、部屋の外へと向かう。
「少々、お待ちください」
ゲルヌが部屋を出て数分。
「お待たせしました」
ゲルヌは籠を抱えて帰ってきた。
中には、衣服が入っていた。
「こちらにお着替えください」
そう言ってからゲルヌは籠を床に置くと、悠斗のアメノウズメアリーナライブ記念Tシャツの裾に手を伸ばした。
「お手伝いします」
「!?」
真顔で言われて悠斗は目を見開いた。
「着替えぐらい一人で出来ます!」
それから慌てて手から逃げる。
「そうですか……」
ゲルヌは残念そうに後ろに下がった。
ホッとした悠斗は、着替えようとTシャツの裾に手を掛ける。
「……」
だが、そこで扉の前に控えるゲルヌの視線が気になった。
「あの……」
「はい? 何でしょう」
「着替えるので……」
悠斗は控えめにお願いしたが、ゲルヌは気にしない様子で当然のように言った。
「お待ちしております」
その反応に悠斗は慌てた。
「いやいや、部屋の外に出てくださいよ!」
「わたしのことは気にせずにお着替えください」
「いや、気になりますから!」
平然と言うゲルヌに悠斗は盛大に突っ込んだ。
「外で持っていてください!」
「そうですか……?」
切れ気味の悠斗に、ゲルヌは渋々といった顔で、扉のノブに手を掛けた。
「脱いだものは洗濯しますので、籠に入れておいてください」
そう言ってから部屋を出る。
「やれやれ……」
悠斗は肩をすくめた。
そして、籠の中身を確認した。
ワイシャツにズボンにベスト、それに
ライブの熱気と戦闘中の緊張でTシャツはおろか、ボクサーパンツまで汗まみれだったのでこれは助かった。
服が自分達の世界とほぼ同じなのを訝しく思いながらも着替える。
服のサイズはぴったりだった。
一度観察しただけでサイズの合った服を用意してきたゲルヌの
着替えが終わり、部屋の外に控えていたゲルヌを呼ぶ。
「服はどうですか?」
入ってくるなり、ゲルヌは尋ねた。
「どこかキツいところはありませんか?」
「大丈夫です」
改めて腕や腰を動かしながら、悠斗は答えた。
それを聞いたゲルヌは安心したような顔をして、脱いだ服が入った籠を手に取る。
「もう直ぐ晩餐の時間ですので、しばらくお休みください」
そう言われて悠斗は腕にはめた時計を見た。
時刻は六時前を示していた。
もっとも、この自分達の世界とこの世界が同じ時間で動いているとは限らないので、鵜呑みには出来ないのだが。
それでも、窓の外の暮れ具合から、だいたい夕方ぐらいだということは予想が付いた。
すると、グ~ッと悠斗のお腹が鳴った。
それを聞いたゲルヌがクスクスと笑った。
「わたしは外に控えてますので、なにかご用があったらお呼びください」
バツの悪そうな顔をしている悠斗に優しく声を掛けてから、ゲルヌは部屋を後にした。
一人になった悠斗は、取り敢えずベッドにダイブした。
「疲れた……」
今日一日の事を思い出すと、自然とそんな言葉が出た。
「しかし、まさか異世界召喚とは……」
悠斗は思った。
「しかも、アメノウズメと一緒に……」
憧れの存在と共に異世界にやって来たという事が、未だに信じられない。
でも、現実に巨神を動かし、魔物の群れを退治したのだ。
「こんな夢みたいな事があるんだな……」
そんな事を考えながら、悠斗は眠りに落ちた。
ナルーガ魔導帝国。
ゲジヌグス大陸の北にあるグラシオム王国と勢力を二分する巨大国家だ。
その帝都にあるナルーガ城の王座の間での豪華に装飾されたイスには皇帝カザネ・グワシチメント三世が足を組み、アームレストに肩肘を置いて座っていた。
漆黒の髪に何もかも見透かしたような鋭い目つきをした
歳は十九歳。
前皇帝の急死で、若干十四歳で皇帝の座に付き、直ぐに領土拡張戦争を始めた張本人である。
「伝説の巨神が現れた、だと?」
その言葉に、カザネは眉を跳ね上げさせた。
「ハイ」
その目の前には、王国侵攻の総指揮を執るガルーナ・サジドウスが控えていた。
年の頃なら三十代半ば。
亜麻色の髪を刈り上げ、つり目に厳つい顔をした男性だ。
「それで魔導大隊は敗走した、と?」
「ハイ」
カザネの鋭い口調に、ガルーナは頭を垂れたまま答える。
「申し訳ありません」
「馬鹿な!」
すると、王座の間の赤いカーペットの横に控えていたジオグライス・ステハが、吐き捨てた。
赤髪を炎のように逆上げて、つり目に角張った顔をした男性で、歳は四十ぐらいだ。
「王国が伝説の巨神を復活させたとでも言うのか!?」
「俄に信じがたいね」
驚嘆するジオグライスに、隣に立っていたヤガノギ・ゴラズミスが同意した。
サラサラの緑色の髪に、整った顔つきをした
「大方、魔物の使役に失敗したのでは?」
そう指摘したのは、四つある方面軍の一つを任されているアイスホム・チダベロズムだ。
白髪を無造作に伸ばし、落ちくぼんだ目に痩けた頬をした三十ぐらいの男性だ。
方面軍総司令官は誰も魔導師の証であるローブを羽織っているが、アイスホムがフードも被り、どことなく陰湿な雰囲気を発している。
「いえ……そのような事は決して……」
ガルーナはそう答えたが、頭は上げられないままだった。
戦闘中に恐怖に怯えたジャマインが、使役を外れ敗走したとの報告を受けていたからだ。
「もし、それが事実ならば……」
カザネは考え込んだ。
魔導研究家でもあるカザネとしては、興味深い案件だったからだ。
「こやつの戯言を信じるのですか?」
そんな主を見て、アイスホムが異議を申し立てる。
「それを決めるのは、私だ」
片眉を跳ね上げ、ピシャッと言い放ったカザネに、アイスホムは黙るしか無かった。
「グワッシャとミナギャインの使用を許可する」
そして、ガルーナに言った。
「今度こそギズミを落として見せよ」
「ハッ!」
カゼネの命にガルーナは、さらに頭を下げた。
その答えに満足してから、カザネは付け加えた。
「戦闘の様子は、魔導水晶でこちらに送るように」
魔導水晶とは、魔力を注ぎ込む事で発動する魔道具の一種で、魔導師が見たものを念波で送り、映し出す事が出来る。
「わかりました」
それには魔導技師としての顔も持つアイスホムが応じた。
「では、解散だ」
カザネの宣言で、今日の軍事会議は終了した。
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