男性怖い

若葉結実(わかば ゆいみ)

第1話

「わたし実は、男性が怖いんだよね」


 俺の部屋に遊びに来ていた幼馴染の亜里沙ありさは、読んでいた漫画を閉じると、そう言った。


「──ほぅ……それは意外だな……」


 亜里沙は容姿端麗で愛想も良い方だから、クラスメイトにも好かれている。そんな言葉が出るとは思ってもみなかった。


 悪戯心をくすぐられた俺は本棚に漫画をしまうと、亜里沙の横に立つ。亜里沙は眉を顰めて怪訝な表情で「なに?」


「いやぁ……それは幼馴染として見逃せないから、克服の手伝いをしてあげようと思って」

「手伝い?」


 俺は亜里沙の横に座ると「どう? 怖い?」


「──ちょっと怖い。でも少し距離があるから大丈夫かな」

「なるほど!」


 俺は腕が触れそうなぐらいグッと近づく。


「これなら?」

「怖いかな……」

「そう。じゃあ、これは?」


 俺は亜里沙の手の上に、ソッと自分の手を重ねる。


「怖い怖い」

「安心するじゃなくて?」

「怖いよ」

「そう……じゃあこれよりもっと怖い事ってある?」

「あるよ。告白されるの怖い!」

「嬉しいじゃないんだ?」

「うぅん、怖いよ」


 告白ねぇ……幼馴染相手とはいえ、何だか恥ずかしいな。


「どうしたの?」

「何でもないよ──亜里沙、前から好きだよ」


 俺が恥ずかしくて顔を火照らせているのに、亜里沙はそれを聞いて無表情な顔で俺を見つめている。


「あんまり怖くない」

「どうして?」

「真剣さが足りないし、その後、どうして欲しいかも無いんじゃ怖くないよ」

「マジかぁ……じゃあ、体をこっちに向けて」


 俺達は向かうように座り直す。そして──。


「前から亜里沙の事が好きだよ。俺と付き合ってください」


 俺が渾身の告白を繰り出すと、亜里沙は口を開け「──怖いなぁ……やっぱり告白、怖い」


「そうか、そうか怖いか」

「──でもね。後ろから抱き締められて、告白された方がもっともっと怖いかな……」

「なるほど、じゃあ立ってよ」

「うん」


 亜里沙は素直に立ち上がる。俺も立ち上がると、亜里沙の後ろに回った。そしてソッと抱きしめると、耳元で「亜里沙、好きだよ。俺と付き合ってくれないか?」


「──凄く怖い……怖くて震え上がりそうだから、今度はギュッと抱きしめて好きだよって言ってみてよ」

「分かった──大好きだよ、亜里沙」

「もう……怖過ぎて、ガタガタしちゃう」


 そこで会話が途切れ、沈黙が続く──。


「ねぇ、克服のためって言ってたけどさ、本当は意地悪のためにやってたんでしょ?」

「はは、バレた?」

「そりゃバレよ」

「そういうお前もこれ、古典落語のやつだろ?」

「バレた?」

「バレバレだよ」


 俺達はお互いクスクスと笑う。


「──あなたのそういう面倒くさい所……結構、好きだよ」

「俺も……俺もこういう面倒臭い事を仕掛けてくる所、好きだよ」

「ふふ、嬉しい──小さい頃から一緒で、お互いの事を知り過ぎているから、恋愛関係に発展するかなんて分からないけど……これからも宜しくお願いしますね」


 亜里沙はそう言って、俺の手に上に自分の手を重ねた。


「うん、宜しく」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男性怖い 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ