第5話 正体と契約
「ん……う、うーん……」
ここは……どこだ?
目を覚ますと、私は薄暗い場所で椅子に座らされ、後ろで手を固定されていた、たしか誰かに殴られたはずだが、不思議とどこも痛む所はない。
「声が、反響するな、洞窟か何かか……?」
すると薄暗い向こうから2人の人が歩いて来る音が聞こえた、やけに騒がしいな。
「あー!目ェ覚めたみたいだよ!にーちゃん!」
声高く喋るその者は、見た目10歳くらいの少年で、天真爛漫な、口には牙、頭にはツノを生やしていて、明らかに人間ではないことがすぐに分かった。
「カイ、うるさいぞ、もう少し静かにしろ」
にーちゃんと呼ばれた者は、見た目15歳くらいの少年で、こちらも同様に牙と角が生えており、腰には細身の剣を携えていた。
「気分はどうだ、ニンゲン」
と、兄の方が私に聞いてきた。
「気分ですか、良いとは言えませんね、あなた達は何者なんですか?」
私がそう答えると、カイと呼ばれた方が心配そうにこちらを見て言った。
「イケメンのおじちゃん気分悪いのかー?大丈夫かー?頭殴ったとこはにーちゃんが魔法で治したハズだぞー?」
「カイ、余計な事は言わなくていい」
ふんっと鼻を鳴らすと兄はこちらに向いてこう言った。
「俺達は魔族だ、見ての通りな、お前が天使の花を探せると街で耳にしたからここに連れてきた」
「そうだぞー!オレがここまで運んだんだぞー!」
この子達が魔族なのか、カリファに聞いてはいたがイメージ通りだな、まさかこんな早く出会う事になることは思いもしなかったが。
「天使の花……ですか、私が見つけられるとどこで知ったのですか?」
「俺達魔族は耳が良いからな、聞こうと集中すれば遠くの音もハッキリと聞くことができる」
「すっごい遠くまで聞こえるんだぞ!だから街の中はうるさくて耳が取れるー!ってなるからにーちゃんに魔法で弱めてもらってるんだー!」
とても楽しそうに身振り手振りで話す弟はこんな状況ながら、少し微笑ましかった。
それはともかく、なぜそれを知って私をこんな場所に連れてきたのかを聞き出さなければ。
「それで私は、これから何をされるのでしょう?」
「別に何もしない、天使の花を探すのを手伝ってくれればなんでもいい、連れてくる時に殴った事で怒っているのなら謝る、それ以外方法が思いつかなかった、すまない」
「オレたち魔族だもんなー……」
そう弱々しく言う弟を撫でてやる兄、この子達実はそんなに悪い人(?)ではないのか?しかし気になる事が多すぎる。
何故この魔族達は天使の花を探しているのか、ルトは今どうしているのか、とりあえず今はこの子達に従うしかないか。
「分かりました、天使の花は一緒に探しましょう、とりあえずこの縄を解いて貰えますか?このままだと魔法が使えないので」
そう、私が捕まっていた縄なのだが、魔道具で恐らく魔法を封じる物だと思う、これは天敵だな。
「その前に、俺達はお前を信用したい、だからこの契約書にお前の血を1滴垂らせ、これは魔族との契約書で、契約が結ばれた同士は、お互いに助け合う事を誓う物だ」
「イケメンのおじさんお友達になろー!」
前の世界を知っていると、こういう契約書はちゃんと目を通してからじゃないと危ないが、もう前の世界とは違うし、この子達は大丈夫だと私の直感が告げているので、私はすぐに了承した。
契約書に血を一滴垂らすと、青白く光り、青い炎に包まれて消えた、これで契約完了なのだろうか。
「よし、契約は完了した、これで俺達は互いに危害を加えられない」
なるほど、そういう契約の仕方なのか、それはこちらもありがたいところだ。
縄をほどいてもらい、自由になった私は腕を回したりして体に異常がないかを確かめた。
兄の方がそれでは、と話し始めた。
「改めて自己紹介といこう、俺はオスカー・ロッド、こいつは俺の弟、カイ・ロッドだ。」
「カイだよー!よろしくおじさん!」
胸に手を当て丁寧にお辞儀するオスカーと、手を振ってニコニコと笑顔を見せるカイ、兄弟ながら真逆の性格ようだな。
「私はサカキです、よろしくお願いします。もう1つ聞きたいことがあるのですが、私と一緒にいた仲間の事は何か知っていますか?」
私がそう言うとオスカーが、あぁ、と声を上げた。
「あの女なら、もうそろそろでここに来るはずだ、お前を捕らえた後、あの女に2時間後にここに来いと言っておいたからな」
「おねーちゃんすごい慌ててたー!もう来る来るよ〜!」
そう言うと、出口と思われる方から、ドタドタと忙しない足音が聞こえ、同時に声も聞こえてきた。
「サカキー!!どこにいるのー!?」
ルトの声だ、オスカーの言う通り私を助けに来たようだ、早く安心させてあげなければ。
「ルトー!私はここですー!」
歳の割に頑張って大きな声を出したな、ふぅ。
するとルトの足がもう一段階ギアをあげ、こちらに走って来た。
ルトは来るなり、兄弟目掛けてナイフで攻撃しようとしたので、焦って止めようとしたところ、兄の方に静止された。
「ふっ」
ルトは小さく息を吐きナイフを振り抜く、正直見えなかった、それぐらい素早い動きで攻撃していたのだ、あの森で出会った時とは何か違う、あんなに強かったのか?だとしたらなぜ森では反撃しなかったのか、疑問が残るな。
しかし、それよりも凄いのはオスカーの方だ、ルトの攻撃を完全に読んでいて指でナイフを掴みルトの動きを封じていた。
「くっ、サカキを攫った目的は何!?あんた達サカキに何をしたの!?」
ルトが怒った表情でそう聞くと、オスカーはこう答えた。
「安心しろ、何もしていない、ただ俺達は協力して欲しいだけだ、天使の花を見つけるためにな」
「そーだぞー!にーちゃんをいじめるなー!」
慌てて私もルトに説明するために二人の間に入って説明を始めた。
「すみませんルト、この子達は魔族故にこういうやり方しか出来ないらしいのです、そしてこの子達も天使の花が欲しくて、私を攫ったみたいなのです」
「えぇ!?なんでまた魔族が天使の花を!?」
驚きつつもナイフをしまったルトは、兄弟2人の前に立ちはだかるように立った。
確かにルトの言うことに一理ある、魔族と天使は対になるような存在では無いのか?そういえば理由はまだ聞いてなかったな。
私たちの様子から察したオスカーが、はぁ、とため息をついたかと思うと、話し出した。
「俺達が天使の花を欲しがる理由か、そうだな、話して信用して貰えるならそれが一番か……」
「聞かせてください、私もあなた達の事もっと知っておきたいです」
そう言うとオスカーは分かったと言い、話してくれた。
「俺達は魔族の中でもランクの高い家柄でな、父も母も魔王様に忠誠を誓っていて、魔王様も俺たち家族に良くしてくれていた」
「そーなのー!魔王サマいい人ー!」
ま、魔王!?なんか話が大きくなってきたな……もしかしたら私は、とんでもない人物と契約を交わしてしまったのかもしれない。
「だが残念ながら、それをよく思わない奴らが内部にいてな、俺達の両親は毒を盛られて、動けなくなってしまった。それを治すのにいるのが天使の花なのだが、魔族の俺達ではどうしても見つけることが出来なかった!」
オスカーは自分が感情的になっているのが分かったのか、コホンと咳払いをして続けた。
「いつ死ぬかも分からない、早く助けてあげたい、そんな気持ちが焦りを生み、こんな手段しか選べなかった俺達を許して欲しい。そしてもう一度お願いする、一緒に天使の花を見つけて欲しい。頼む、サカキ」
「お願いおじちゃん!助けて!」
そう深々と頭を下げる兄弟を見た後、ルトは黙って私の後ろに下がった、これはルトも協力するということだろう。
私は兄弟の前に行き、手を差し伸べた。
「ええ、必ず両親を救いましょう、私達はもう仲間です、共に行きましょう」
「ありがとうサカキ、この恩は絶対に返す、ロッド家の名にかけて」
「ありがとー!おじちゃん!」
「あたしも精一杯協力する!絶対見つけるわよ!天使の花!」
こうして2人の魔族を仲間に加え、天使の花を探しに行くことになった私達は、2人には魔族だとバレてはいけないのでフードを深く被ってもらい、博物館へと向かうのであった。
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