首吊りメーカー

影神

幸せ



『死にたい』



#死にたい

 


恵まれていると言われているこの国では。


同時に死にたいと思い。 


自らの命を犠牲にする者も、少なくは無い。



だが。人は死のうとする時に。


身体が、それを阻止する。


それは躊躇とも呼ばれる。 



頭が心が。


それを拒否し。


涙を流させ、惑わさせる。



『どうして、??』 



その問いに、返答は無い。



愛されもしない。


それどころか。



否定ばかり。



順番を待つサイクルに歪みが生じる様に。


幸福は、一向にやって来ない。



だから。


私が。


介助してやろう。。



「お願いします。。」



今回は女性だった。


「本当に。良いんですね??」


女性「ええ。」


「やり残した事は在りませんか??」


女性「はい。」



私は確認する。。


最後の、



この世界での時間の使い途を。



「シャワーを浴びてきて下さい。」



人は涙を流す。


それは、その事に対して。


否定があるからなのだろうか。。


いや。その言動に対して、


感情が揺れているからなのか。



依頼者。介助を必要とする者には、


2週間。食事の摂取を控えて貰い。


3日前からは水分も取らない様にして貰った。



それは死んでしまった後の依頼者の周りが。


出来るだけ、汚れない様にする為である。



旅行先で撮った楽しそうな写真。


それはまるで、今も生きているかの様に写す。


依頼者の文章の癖。使用しているスタンプや人の呼び名。


そのパターンの全てを理解し。


親族や友達には絶対に悟られない様にする。



「じゃあ。」


依頼者「ありがとうございます、、」


「お幸せに。」


依頼者「はい。。」



ガタン、。



ギィイイ、、


ギィ。



私は見届ける。


人生の"中途退出"を。



「どうして、、


どうして。死んでしまったのか、



分からないです。」



メディアは不謹慎な程に。


誰かの死で金を稼ごうとする。。



「どうしてって、、


それはあんたらが。」


チン、、



「出来た出来た。」


ピッ、



スクランブル化さえしないで。


見たくもないのに。見もしないのに。


不自由で半、宗教的姿勢な理由を含め。



嘗ては『三種の神器』とうたわれた。



何もしていないのに、今は嫌われてしまった、


"可哀想"な電気の通った家電。


通称。テレビ、を消し。


出来たての冷凍ピザを眺める。


「うわぁ。旨そっ、


いだきます。



っふ、


アッチ、、」



「はあ。」


「嫌になりますね。」


部下は、入ったばかりで。こんな事件を受け持っていた。


それが仕事だから仕方の無い事だが。


一応。心配ではある。



「まあ、誰かが介入してるのは分かってるんだがな。」


部下「携帯は無くて、おまけに死亡時間の特定すらも。


分からない様に、してますからねっ。。」


「世も末だよ。全く、、」



最近。自殺の事件が多発している。


部屋は寒過ぎる程にとても冷えていて。


仏さんの携帯は、何故か何処にもない。



普通。首吊りの仏さんは汚物で周りが汚れているのだが。


基本的に、そんなには汚れていない。 


寧ろ。綺麗すぎる、くらいなんだ。。



親族や友人には傷心旅行に行っていると伝え。


現地の写真までもが、送られている。



本当に、今そこに。


被害者がその場所に行っているかの様に、、



文章や絵文字等までもが。


まるで、本人が送ったかの様に偽造してある。。



「誰が。


何で。


こんな事をしているのか、、」



「チーズ。



ウマッ。」



依頼者側には、ある程度決まりがある。


先ずは、支払い等が引き落としになっている事。


それが、3ヶ月以上。滞らない事。


更に、親族や友人等が万が一でも訪ねて来ない事。


ペット等を飼っていない事。


仕事を辞めている事。


そして最後に。死ぬ事に対して。



"後悔"



が。無い事だ。



それは、絶対的な条件でもある。



理由を述べるのであれば、


支払いが遅れた場合。他者の介入が起こるからである。


同様に、万が一でも訪問されれば。


不信がられ、依頼者の"死"が。


バレてしまうからである。


会社も同じ事だ。



ペットは、単純に。 


死んでしまうからである。



私は、殺める事はしない。



あくまでも介助するだけである。



そして最後の後悔に対しては。


契約に。反するからである。



もう一度言うが。私は、人殺しではない。



依頼者が私に頼み。


自害し。


それを、円滑にする為に。


あくまで、介助として。


私は、サポートをするに限らない。



「お姉、、ちゃん」


お姉ちゃんが殺された。


お姉ちゃんが自殺するなんて有り得ない。。



あんなに優しかったのに、、


本当に。大好きだったのに、、



「自殺なんて、、してない。。」



絶対。


犯人を掴まえる。



私が。


お姉ちゃんを殺した奴を。


「殺してやる、、」



「んったく。


本当に嫌んなるよ、」


部下「本当に。


日本はどうなっちゃったんですかねえ。」


誰かの遺体を見た後でも。


不思議と、腹は減る。


部下「何にしようかなぁ。」


どうやら部下も同じ様だ。



きっと職業病なんだろう。。


部下「先輩は、何にしたんですか??」


「焼き肉定食。」


部下「いいっすねえ、」



自分の身内の者が死んだら。


こうは出来ない。


人間は、思ったよりも冷酷で。


残忍。なのかもしれない、


「お待たせしましたぁ。」


部下「旨そう」


「先。食べてるぞ??」


部下「はいっ。」



お姉ちゃんの携帯は無い。


パソコンも。


記録出来る物は何も、、



あ。。



お姉ちゃんは、日記を書いていた。


だから、あるハズだったが、、



部屋の何処を探しても。


見付からなかった。



葬儀の日。


お姉ちゃんは、まるで。



眠っているかの様だった。



「、、起きてよ。


お姉ちゃん。。」


葬儀は、親族だけで行われた。



私は、何故か。


涙が出なかった。



それはきっと。


哀しみよりも復讐の気持ちの方が。


強かったからだろう。。



両親が骨になったお姉ちゃんと対話している時には。


私はもう。葬儀場には居なかった。


だって。お姉ちゃんは、もう。



そこには居なかったから。



「あの、、」


葬儀場から出た時。


女の人に声を掛けられた。



「はい。?」


歳はお姉ちゃんと同じくらいだっただろうか。


「私は、、


あの。」


女の人は急に泣き始めた。


隣に居たもう1人の女の人が慰める。


「んっ、、ぐっ。」

 


もう1人の女の人「これ。


あなたのお姉さんから、、


この子に送られてきたみたいで。」



手には1冊の本があった。


もう1人の女の人「渡すか迷ったみたいなんだけど。


一応、遺品になるから。さっ??



中身はまだ、、見ない方が良いかも知れない。」


私は、言う事も聞かずに。


その本を開いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それは、まるで誰かに助けを求めているかの様に。


悲しい言葉が。綺麗に。びっしりと、連なっていた。



「お姉、、ちゃん。」


私は、その場で崩れ落ちた。



お姉ちゃんがこんなにも悩んでいるなんて。


思っても無かったからだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



△月△日。


どうして。また、



死ねなかったんだろう。。

 


一歩。脚を踏み出そうとすると。


涙が止まらなくて、溢れて来る、、



こんなにも辛い思いをしてまでも。


私が、今日を。過ごす理由が、あるんだろうか、、



どうして、産まれて来て。しまったんだろう、、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



所々。インクが滲んでいたり。


紙がふやけていた場所があった。



「どうして。お姉ちゃんは、、」


女の人「お姉さんとは、大学で知り合って。


仲良くなって。交換日記をしていたの。



でも、互いに忙しくなって。


それで疎遠になっちゃって、、



だけど。ある日。


それが送られて来たの。



私は、嬉しくって、、


でも、開けたら。そう、書いてあって、、



私が、、もう少し。


お姉さんの事を、考えてあげられてたら。。」



女の人は私を抱き締めてくれた。



私は、沢山泣いた。


葬儀の時に流せなかった涙を。


その時、流す事が出来た。



彼女が、私と。


同じだったからだろうか、、



部下「何で空巣なんか、したんだ。」


最近には珍しくもない、間抜けな空き巣の事件だった。


家のペット用の監視カメラには、


犯人の顔がばっちりと映っていた。


「おいおい。ダイレクトだなぁ、」



不景気だからか。


物価が上がっているからか。


犯罪に、そんな理由は通用しないが。


最近は衝動的な感情の傷害事件や殺害事件。


空き巣等の窃盗事件が急速に増えている。



だから関係していないとは、一概には言い切れはしない。



部下「じゃあ、何て聞くんですか??」


「そうだなあ。。



お前さん。



腹。



減ってるか??」



人は生きているだけで、金がかかる。



『産まれてきて罰金。死んでも罰金。』



とは、良く言ったものだ。



「やっぱり。



この組み合わせが一番、だよなぁあ。」



熱々の冷凍ピザに。甘い炭酸飲料。


生きている内にしか。人は食べられないし、


食べる喜びは、感じる事が出来ない。



食は直ぐに充たす事が出来る。


勿論、睡眠もそうだが。


私の場合は食の方にパラメーターが振ってあるんだろう、



「ほれ。


お前さんのもあるぞ?



一緒に、飯にするとしよう。」


部下「んぅ、、。



いただきます。」


納得いって無さそうな顔をしながらも。


部下は飯を食う。


犯人「、食って。


良いんです、か??」


「あぁ。


早く食わないと、冷めるぞ。」


犯人「いただきます。」



人間は欲求を充たす為に。


時として、犯罪を犯す。



普通ならしないが。


理性が保てなくなった場合。


犯罪に手を染める場合がある。



食欲は、それの。


1番近い所にあると思う。



物欲も。性欲も。


無くても死ぬ訳ではない。



だが、食欲は。


人間の生存本能からしても。


生きている以上。


逃れられる事等、出来ないのだ。



それは動物的で衝動的な行動であると言える。


犯人「生活が出来なくて、


金が。有りそうだったから。



、、すいません。」


部下「そんな事で!!」


「まあ、まあ。


俺達の仕事は、ここまでだ。



後はちゃんと、お前さんがやってしまった事を。


ゆっくりと。


きちんと考えて、反省しなさい。」


犯人「はぃ。。」


部下「、、。


そういえば、この場所。



あの近くでしたよね??」


部下は何か気に食わない様だった。


部下「この場所で。


何か不審な者を見たか??」


部下は家の写真を見せた。



犯人「そう言えば、、


留守の家の下見をしていた時に。


居ないハズの家に、誰かが居た様な、、」


部下「本当か!??


、、友達とか彼氏じゃなくて??」


犯人「そういうのは居なかったハズなんです。


私は、きちんと調べる様にしているんで、、


まあ。捕まっちゃったんですけど、ね?」


部下「それで?」


部下の威圧的な態度に。犯人は、答える。


犯人「ある程度の人相。


年齢や、付近の交友関係。


出入りする時間等を、、」


「要点だけで良い。」


犯人「きっと、男だと思います。」


部下「確かか??


今はマッチングアプリとかで。


直ぐそう言うのが出来るんだぞ??」


「お前。


やってんのか??」


部下「いや。。」


部下は視線を反らす。



犯人「刑事さんも、若いですから。


ねぇ?」


バンッ!


部下が興奮して、机を叩く。


「まあ、まあ。」


部下を持つのも、楽では無い。



「はあ。」


休憩の一服はたまらない。


煙草も馬鹿みたいに値上げして。


擬物を吸う奴等が増えたが。


やっぱり、煙草は"紙"に限る。



値上げして税金を多く徴収するのは良いが。


その1本の煙草で。


衝動的な感情が抑えられるなら。


何処にごっそりと消えてしまった、莫大な予備費よりも。


よっぽど。良いとは思うんだが、なあ。。



部下「お疲れ様です。」


「おう。」


部下「寒いっすねぇ、、」


部下は沢山ある椅子の中で、


わざわざ俺の近へと座った。


「おい。寄るなよ、、


世間じゃ副流煙より悪いの摂取してる奴等が。


煙見ただけで嫌な顔するってのに、、



わざわざ来るんじゃねえよ。」


部下「良いじゃ、ないですかぁ。」


さっきの事を気にしてるのか??



「さっきの取り調べだがなぁ??



警察にはテレビドラマの様に。


恐喝紛いの事をする奴もいる。



相手が犯罪者だから、と言って。


何でもして良い訳でも。


無いのになぁ、、」


部下は、バツの悪そうな顔をした。



顔に出やすい奴だ。


「だから。それを真似して、


よくやるってのが、典型的な間違いだ。


下手に恐喝して。反発され、


それで調書が録れない事がある。



それは新米のやる事だ。


あくまでも自供を促し。


解決へと導くのが"本物"なんだ。  



まあ、偉そうに言ってはいるが。


これは先輩からの受け売りでな?



そうすりゃあ。


ああやって、オマケが付く事もある。


ってな。」


部下「はぃ、、」



こいつはきちんと話を受け止める。


だから嫌いにはなれない。


「あまりそう、追い詰めんなよ。



学校じゃあ教わらない。


現場のやり方。


ってのが、あるんだよ。



今晩。飲みに行くか??」


部下「はいっ!」



帰って日記を読み返す。



これは、お姉ちゃんが。


傷心旅行に行った時に書いた物だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



△月△日。


これが終わったら、楽になれる。


今日食べた、食べ慣れた食べ物も。


見慣れた景色も。まるで、、全部が。


全てが、初めてかの様に。


いつもよりも、鮮明に。


よく、見える。



これが。


私が見ていた、景色??



さよなら。私の古い思い出、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



手懸かりは日記だけだった。


これがきっと。


お姉ちゃんの死に一番近い物だ。



本当なら、重要な資料だ。


でも、大事な形見でもある。



「私が。見付けるから、、


絶対。」



この仕事は、冬に適している。


今じゃ誰もが死を待ち望んでいるんだ。


 

そう仕向けた者達は、きっと。


その者達を笑って、見ているんだろう、、



それは、都市伝説と呼ばれるモノに近いのかも知れないが。


話としては、悪くない。



全ては自分で調べれば分かってくる事だ。


隠した事も。隠そうとしている事も。。



ただし、アクマでも。盲信し過ぎない様に、、



惑わさせ。争わせるのが、


彼等の"専売特許"だから、ね。



私もいつか掴まるだろう、、


その時まで。



私を必要とする、依頼者と共に。


死後の時間を、共に過ごすとしよう、、



『じゃあ。。



お幸せに。』



ギィイイ、、



























































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

首吊りメーカー 影神 @kagegami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ