完璧美少女に勝ったら、何故か懐かれてしまった話

水無世斎宮

第1章 完璧美少女との出会い

第1話 完璧美少女に勝ってしまった… その1

 「まじで…?」




 『高校2年6月実力考査成績優秀者』


 『1位 村田遥(むらたはるか) 883点』


 『2位 望月結唯(もちづきゆい) 864点』



 完璧美少女--望月結唯が1年以上守り続けた学年1位の席を村田遥が奪ったことは、学年全員を驚かせた。


…というか、遥自身が一番驚いた。



***




 「遥、おはよう」


 「おう、おはよう」


 俺の数少ない友人である藤村宏太朗が、前の席に座って話しかけてくる。

 宏太朗は幼稚園の時からの腐れ縁で、今でもいつも一緒にいる親友だ。


 「お前流石だな。53位だったじゃねえか」


 …そういえば今日は中間考査の成績優秀者発表日だったか。


 「そういや今日発表だったっけ。忘れてたわ。

ってか宏太朗は自分の心配をしろよ」


 「はあ~。遥はほんと成績に興味なさすぎだよなー。絶対やる気出せば1位とれると思うんだけど。授業中もほとんど寝てるし…」


宏太朗は呆れたように肩をすぼめる。


 「…ほっとけ」



 俺は昔から勉強はできるほうだった。

 中学までは何となしに学年1位をキープしてたし、名門と呼ばれるこの高校に入ってからも適当にトップ5くらいはキープしていた。

 まあその分コミュニケーション能力や運動神経などほかのことは全くで、いい成績をとっても特に自慢する人もいないので文句の言われない程度の今の成績で十分満足している。




 (それに1位は…)


 そう考えて望月結唯のほうに目をやる。

ただ本を読んでいるだけなのだが光って見えるほどに美しく、男子の視線を集めていた。



 「…そうだな、1位は望月さんがいるもんな」


 と、俺の視線に気づいたのか宏太朗がつぶやく。




 そう、1位は望月結唯の特等席である。

今回で12回連続1位、入学から1年以上も失冠していないのだから他の人が1位になることなんて想像すらできない。



 「天は彼女に何物与えたんだろうな…」


 宏太朗がそうつぶやくが、本当にその通りだと思う。




 完璧美少女--望月結唯以上にその言葉が似合う人はいないだろう。


 学年1位を1年以上守り続け、その上水泳部では全国まで行ったらしい。


 それだけでなくあの美貌である。

 まっすぐ整った黒髪のストレートヘアーに、美しく透き通るような白い肌、そして大きな瞳は美しさの象徴のようだ。

 そのうえ性格も謙虚で大人しいというのだから、モテるとかそういう次元ではなかった。

 先日も、望月さんが一つ上の先輩に告白された、という話をクラスメイトがしていた。



 「…あんな子と付き合えるのはどんな超人なんだろうな」


 そうつぶやくと、宏太朗がぽかんとする。


 「へえ~。遥もそういうこと興味あるんだな」


 「…単純な興味だよ。深い意味はない」


 

 本当に彼女とそういう関係になりたいなどという気持ちはない。

 もしあったとしても手の届かない相手だろう。

 それくらいの自己分析はできているつもりだ。




 「…まあそっか、遥はずっとユイさんのことが好きだもんな」


 「俺の古傷をえぐらないでくれ…」


 宏太朗は俺の苦い思い出をイジってニヤニヤと笑っている。



 そう、俺には昔好きだった女の子がいた。

 小学2年生の時に仲良くなり、いつも一緒に遊んでいた。


 …でもその子は、小学3年生に上がるころ何も言わずに転校してしまった。

 友達の少ない俺からしたら親友であっても、あっちからしたらたまに遊ぶクラスメイト程度でしかなかったのだろう。


 それがトラウマになって、それ以降俺は女子のことが苦手になってしまった。

 まあ単純に人付き合いが下手なだけと言われるかもしれないが…


 (…初恋をまだ引きずってるとかほんと情けないよなあ)





 「はいはい、ごめんな。

でも俺は本気で遥が1位とれると思ってるんだぜ」


 「ありがとよ。

…で、お前は成績どうだったんだ?」


 そう問いかけると、宏太朗は渋い顔をする。


 「…それがですね、非常にまずい状態でして」


 「知ってる」


 宏太朗は昔から成績が良くなかった。見た目のチャラさに反して割と真面目ではあるのだが、なんせ要領が悪かった。


 「そこで遥に教えを請いたいなと」


 「自分でやれ」


 「あのな、世の中お前みたいな天才ばかりじゃないんだ。自分で理解出来たら苦労しねえよおお」


 なかなかに成績がひどかったらしく、あまりに必死に頼み込んでくるのでこれくらい受け入れてやることにした。まあテスト前一緒に遊んでた俺にも責任はあるしな。


 「…わかったよ。次のテスト前だけだぞ」


 「まじか!ありがとう神様―!」


 と、宏太朗は机にひれ伏してみせる。



 こうしてこいつに勉強を教える羽目になってしまった。

正直テストのための勉強なんてしたことがなく対策法とかも分からないので、俺に頼るのはお門違いだと思うのだが…。


 「じゃ、テスト前になったらお前の家に入り浸るからよろしくー」


 「はあ…やっぱりうちでするのか」


 「いいじゃんかー。

いやー久しぶりに夏季ちゃんに会えるのかー!

楽しみだなー。じゃあよろー!」


そう言うと宏太朗は自分の席に戻っていった。


 ちなみに夏季というのは俺の妹である。普段は俺の妹だとは思えないほど明るい性格だ。宏太朗が来ると大人しくなるのだが…そこは兄として気づかないふりをしていた。

まあ宏太朗はあの様子で妹くらいにしか思っていなさそうなので、夏季の片想いで間違いはないだろう。






(はあ…)


 ようやく静かになったので、ぼうっと窓の外を見つめる。


(ユイか…久しぶりに思い出したな)


 封じ込めていた記憶を呼び起こす。

人見知りだけど仲良くなってみると元気な子だった。

小学2年生の時に勉強を教えるようになり仲良くなった。

運動神経が抜群な子で、外で遊んではひたすら振り回されていた。

…そんな毎日が楽しくて幸せで、そしてあの子の笑顔が大好きだった。




……でも、小学3年生に上がるとき、彼女は何も言うことなく転校してしまった。










………………………………………


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