迷子宮女は龍の御子のお気に入り ~龍華国後宮事件帳~【書籍版】
綾束 乙/メディアワークス文庫
『迷子宮女は龍の御子のお気に入り ~龍華国後宮事件帳~』期間限定大ボリューム試し読み
第1話
第一章 迷子宮女は美貌の宦官に召し上げられる
今にも降り出しそうな曇天は、
「中に入っているものを決して気取られるな。可能な限り人目を避け、秘密裏に
後宮内の不正を取り締まる官職・
「わかっておるだろうが、この件については他言無用だ」
珖璉の厳しい声に、宦官達が無言で頷いて歩を進める。踏み潰された草の青臭い匂いが湿った空気に重く漂った。
珖璉は唇を引き結んで宦官達の背を見つめる。自由に出入りできぬ閉ざされた後宮内で連続殺人事件が起こっていると広まれば、
しかも今は、龍華国の年中行事で最も重要な、建国を祝う『
大陸東部に覇を唱える龍華国の始祖は、異界に
年に一度の昇龍の儀では、王城の露台で皇帝や皇位継承者達が集まった民衆の前で《龍》を召喚し、天へと放つのが儀式の締めだ。
現在、《龍》を喚び出すことができるのはたった二人だけだ。現皇帝である
「珖璉様?」
鍛えられた身体とは裏腹に穏やかな顔立ちの禎宇は、今年で二十歳になる珖璉より五つ年上だ。幼い頃から仕えているためか、珖璉の感情を読むのに
禎宇の隣では、瘦せぎすの
今は、昇龍の儀に出ねばならぬことを憂いている場合ではない。
珖璉は息をつくと殺人事件へと意識を切り替える。
「殺された宮女はこれで七人目か……。後手に回らされているのが、腹立たしいことこの上ないな」
ちっ、と
「禎宇は殺された宮女の身元の確認を。着ていたお仕着せから見て
掌食というのは後宮の部門のひとつで、後宮内の食の担当だ。珖璉の命に、禎宇と朔が「かしこまりました」と応じる。
「珖璉様はどうなさるのですか?」
禎宇の問いに短く思案する。禎宇とともに掌食に聞き込みに行ってもよいのだが、珖璉が動けば嫌でも目立つだろう。蜜に群がる
「わたしは今までの現場を見て回ってから部屋へ戻る。ひょっとしたら、時間をおいて見れば、前は見落としていた点に気づくやもしれん」
脳裏をよぎるのは、
まだ見ぬ犯人への怒りに突き動かされるように、珖璉は
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