第14話 ばら撒き

前書き


前回のあらすじ


新たなスキルの使い方を見つける主人公



本文



 エレノアさんとの誓いから3日。


 「この日がやってまいりました!」


 「わーあ!!」


 パチパチパチと拍手をしてくれるエレノアさん。


 「くっ...くっうアハハははははっ!!」


 俺とエレノアさんの間に大量の...


 「大量のコピー用紙!そしてそれに記載されているレジスタンスによる犯行予告。頼むよ、エレノアさん。不可視化のローブを羽織ってこの紙をばらまいてきて。」


 「あ、あの...貴重な高級な紙をこんなに使用しても?」


 「えっ?そこ?今更だなー!こんな紙いくらでも出してやんぜ?」


 何故こんなにテンションが可笑しいのはこの3日間寝ずにエレノアさんと書き上げた犯行予告。その数3万枚。この世界の文字が分からないため、エレノアさんが書いたものを見本に書きなぐった。


 「この3日間、俺たちは死にものぐるいで書いた!これでレジスタンスが立ち上がらなかったら俺たちから殴り込む!うじうじしているレジスタンス地上に引っ張り出すぞっ!ぅあれぇええ?どうした、どうしたぁ?テンション上げてこうぜ、エレノアさぅあん!」


 「ウザいです...私、選択間違ったのかも...」


 床に手と膝を付け落ち込むエレノアさん。3日前の姿と違う。真逆と言っても過言ではない。


 「はぁ、分かっていない。まったく分かっていない。レジスタンスのバカどもを何度か見てきたが、あの無能たちは口だけのクズ!そんなクズで無能なヤツらを叩き起して...あぁー、テンション上げすぎて辛い...クッソオオオオオオ。それこれも忌まわしきレジスタンスが悪い!!俺の糧になれよぉぉおおぉ!!」


 「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん....もうやだァ!この人ヤダァあ!でも、好きぃ!!」


 ハイハイハイハイハイハイハイハイ。エレノアさんも壊れてきたぜェえ。


 「今ならなんでも、なんでも出来る!」


 「ハッ!エルさん、エルさん、見本を何度も召喚すれば良かったのでは?」


 「アッ!?憎しみを増すためのしゅ、しゅ、修行であるぞ!これは!やめろやめろやめろやめろやめろやめろ。」


 「た、確かに、憎しみが増しました!!アハッ、はははははははは。」


 「よ、よよし!それでは行って参れ、エレノアさん!」


 「御意!」


 部屋の中から姿が消え早速、犯行予告のビラが街中に舞う。身体能力をフルに発揮しているのだろう。そのビラの中に日本語で書いたものも混ぜている。理由は、俺だけ転移したとこれっぽちも思っていないから。もしこのビラを見て反応する日本人もしくは地球から異世界転移した者が万が一いるかもしれない。あの神、信用出来ねぇからな。

 我ながら会心の出来の日本語で書かれた犯行予告を読み上げる。



 騎士 商人 貴族 告げる


 我々の同胞 無念を晴らしてくれる


 次は お前たち 人間


 同様の 苦しみ 味わってもらう


 捕虜 思い付く限り 拷問する


 我々 知っている 人間の所業


 我々 命の灯火 消えるまで 殺戮する


 今宵 月 満ちる 


 月 赤く染まる 終焉の日



 (本当は、筆跡がバレないように工夫するのがベターなんだけどね。この世界で筆跡鑑定なんかしないだろう。赤のインクに筆で書いたんだ。これだけでも十分恐怖を刻むことが出来る。)


 「俺、こんなの見たら即刻街を出るね。エルフは魔法に対する適性がある。獣人は身体能力にものを言わせて力をふるう。あぁ、今夜こそこの街は血に染まり崩壊するだろう。レジスタンスは正義、信念を持ち己の命が尽きるまで戦い、人間もまた命をかけ戦う。こんなことしても俺は...他人事のように思ってしまう。」


 ガチャっと音がしてドアの方を見るとエレノアさんが肩で息をするように呼吸が荒く、汗も酷い。


 「はぁ、はぁはぁ。もう...動けないです。何か飲み物頂けますか?」


 「召喚サモン、モンスターエナジードリンク。はい、これを。これを飲むとまだ頑張れるよ。」


 カフェインバリバリの飲み物を無表情で渡す俺。内心はイタズラをする前のワクワク感で笑いを堪えるのが必死。相当喉が乾いていたのか何も確認せず一気飲み。よくそんな飲み物飲めるな...俺なら飲めねぇよ。ぐくっくく...カフェイン中毒にしてやんよ。


 「この飲み物凄く美味しいです。何の飲み物ですか?文字が読めないと言うことはエルさんの故郷のものですよね?」


 落ち着け、笑いを堪えろ。顔を作れ、これからカフェイン中毒にさせるためなら鬼になれ、俺!俺は誠心誠意やり遂げなくてはならない。


 「俺の故郷ではよく飲まれた飲み物だよ。」


 「本当ですか?」


 「本当だよ。」


 「そうですか。」


 「そうだよ。」


 平然と嘘をつく俺。話をそらすため窓の外を見る。


 「街がザワついてる。戦いはもう始まっている...」



後書き


次回 紅い月

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る