赤髪の花婿・2

やや垂れがちな瞳を細めて、紫明は溜息まじりに笑う。

そうして青明の小言よりも、冷気をともなう雰囲気が漂い始めた。


「……幼いきみたちは、いつになったら自覚をするんだろうね」

「え?」


疑問を口にしたのは赤伯か青明か……しかし答えを聞く間もなく――


「なんでもないよ。ほーら、青明うしろを向いて」


彼らの疑問をかき消して、紫明は弟に背を向けさせる。

そして背後から首元に手を回すと、小ぶりの石が一つ下げられた首飾りを巻き付けた。


「兄様……これは?」

「僕だと思って大切になさい」


光の加減によって透き通った青から紫を映しこむ玉は、青明の肌によく似合っていた。……それは、兄弟だから許されることなのだろうか。


その光景を見た赤伯は、寂しいような悔しいような、不思議な不快感を覚えていた。

――自分だって次の任地を安定させたら、首飾りや耳飾りのひとつくらい渡してやる。そんなことを考えながら。


「青明……そろそろ行こう、車夫さんが待ってる」

「ええ……」


青明は少しだけ名残り惜し気に兄を見やってから馬車に乗り込む。

こうして若き青年たち……赤伯と青明は、新たな地へと旅立った。


◆ ◆ ◆


王の怒りを買い、辺境の都市へ太守として赤伯が左遷されたのは、いまより十の月ほど前になるだろうか。


そこは王に見限られた貴族や官吏が太守という任を賜り、終焉を迎える地であった。

王都から見捨てられ、疲弊した都市をおさめるなど平民出身の赤伯にできるわけがなく、いままで左遷されてきた者同様に終わりを迎える……赤伯以外の誰もがそう思っていた。


無論それは、太守を支えるはずの太守補佐・青明でさえ疑わず、いつものように心を閉ざし仕えた。

未熟な太守と見高な補佐……出会いからして、うまくいくはずもない彼らであったが、誰よりも民を近く感じる型破りな太守は、いつしか流れ者や荒くれ者の心さえ動かした。


そして、傍にあった補佐の心も。


ゆっくりと進む都市の発展と共に、彼らは支え合える関係を築いていた。

しかし、主従の絆が一層深く編まれつつあったある日、正統の太守補佐である紫明が帰還し……そして異動をも告げられたのだった。


『一緒に来てほしい』


補佐の任を兄に返還し、一文官となった青明にそう申し込んだのは赤伯だ。まだ若く、それをうまく言葉にすることは出来ないが……彼らは共にあることを選び、飛び立ったのだった。

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