虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね

第1話 プロローグ

 本日、グランテーレ王国の第一王女が輿入れのために、国二つ隔てたサンティルノ王国に向けて出立する。

 隣国ハバラナ国、サンティルノ国、そして周辺国を巻き込んだ戦争が勃発したことは今や過ぐる日。国力の低下と敗戦を色濃く感じ取ったグランテーレ国王はいち早く、圧倒的勢力を誇ったサンティルノ国の軍門に下ることを決めた。その証であり、身の保証を引き換えに第一王女を差し出すことになったのだ。

 敗戦国ゆえの宿命か、あるいは終戦後の処理で人員を割けないのか、花嫁行列と言うにはおこがましいほどのささやかな隊列で、第三者から見ればまるで葬列かと見紛うくらい騎士や見守る民の浮かない表情の中、ごくしめやかに執り行われる。


「おかあちゃん! おひめさまのかおがみえないよ?」

「――しっ! 静かにおし!」


 そんな雰囲気の中でも子供というものは無邪気なものだ。大声で馬車を指さす子の口を母親が慌てた様子で押さえた。

 しかし事実、子供の言う通り、馬車の窓には厚い帳が下ろされており、誰も顔を窺い知ることができない。

 それは第一王女が望まなかったからかもしれない。なぜなら第一王女はこれまで一度も公の場に姿を見せたことがなかったからだ。ご病弱だとも、容姿に自信がないからだとも、人嫌いだとも、また公務を嫌って参加しないなど様々な噂がまことしやかに囁かれていた。

 そんな第一王女は最後の最後まで民に顔を見せることなく、今、この国を静かに去っていく。きっと誰の記憶にも残らないことだろう。


 ――いや。

 元敵国に捧げものとして向かった王女が過去にいたなと、歴史の一ページとして、ふと思い出される日が来ることがあるかもしれない。

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