第25話 レイモンド兄様

 入学式から三日が経過した。

私は失恋の痛みから立ち直れず、まだ学園には行けていない。

怖かった……。

又、あの二人が仲良く歩く姿を見るには、まだ傷が深いままだ。

「失恋って……こんなに辛いものでしたのね……」

ポツリと呟き、溜め息を吐いた。


 前世では、誰かを好きになるなんて無かったから、恋だの愛だのと騒いで泣いている人達を『くだらない』と見下していた。

でも、今、こうして失恋してみて、こんなに胸が痛くて苦しくなるものなのだと知った。

『コンコン』

そんな事を考えている私の耳に、控え目なノック音が聞こえた。

答える元気も無くて俯いていると、部屋のドアがゆっくりと開いてサラが入って来た。

「フレイア様、レイモンド様とアティカス様が迎えにいらしております」

心配そうに言われて、私は俯いたまま

「誰にも会いたくないの。お断りして……」

とだけ答えて口を噤んだ。

サラはそんな私に小さな溜め息を吐くと

「かしこまりました。朝食はどうなさいますか?」

そう呟いた後

「もう、3日も何も召し上がっていらっしゃらないですし……。本当にお身体を壊してしまいます」

泣きそうな顔で言われても、心が動かない。

何も答えないでいると、突然、部屋のドアが荒々しく開いた。

驚いてドアを見ると、怒った顔をしたレイモンド兄様がズカズカと部屋に足を踏み入れると、私の身体を肩に担ぎ上げた。

「きゃー!兄様、何をなさるのですか!」

驚いて悲鳴を上げる私を担いだまま、何故か食堂へと向かって歩き出した。

「こんなに軽くなって……。全く……、ほとほと呆れた愚妹だな」

と呟かれ、遂にレイモンド兄様にまで見限られてしまったと落ち込んでいると、食堂のテーブルの椅子に下ろされて

「そんなんだから、他の令嬢と婚約なんて出来ないのだ」

そう呟くと、私の前にスープとパンを並べた。

「兄様、私……食欲が……」

俯いて呟いた口に、無理やりスープを掬ったスプーンを突っ込まれた。

「むぐっ!」

口に流されたスープの味に、涙が込み上げて来た。

「兄様、このスープ……」

「分かったか?フレイアの為に、実家からマークのスープとパンをもらって来たんだよ」

優しく微笑むレイモンド兄様に頷きながら、泣きながらマークのスープとパンを口にした。

「今日まで休んで構わないけど、明日からは学校にちゃんと来るんだぞ」

優しく頭を撫でて言われ、小さく頷く。

「アティカス様には上手く言っておいたから、明日からはいつものフレイアになってくれていると嬉しいよ」

決して責めた言い方をしないレイモンド兄様に頷くと、レイモンド兄様は頷いてゆっくりと立ち上がった。

立ち上がったレイモンド兄様を見上げると、鼻を摘まれて

「そんな顔をするな。直ぐに出ないと、遅刻してしまう時間なんだ」

そう言われて真っ赤になると

「まだお兄ちゃんを恋しがるなんて、フレイアはお子様だな」

そう言って、声を出して笑っている。

「じゃあな、フレイア。又、学校が終わったら顔を見に来るよ」

レイモンド兄様はそう言い残すと、颯爽と食堂を後にした。

(残念だ……。兄じゃなければ、好きになっていたわよね)

そう思いながら、まだ数日しか経っていないのに、マークの料理がやけに懐かしく思えて切なくなりながらスープとパンを食べ終えた。

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