第22話 魔法学園入学式③

そんな事を考えて歩いていると、少し前にルイス様の姿が見えた。

漆黒の柔らかそうな髪の毛は、間違いなくルイス様よ!

私がレイモンド兄様の方を向き

「レイモンド兄様、変な所は無い?大丈夫?髪の毛はねていない?」

と訊ねると、レイモンド兄様は苦笑いしながら

「大丈夫だよ。今日もフレイアが一番可愛いよ」

と答えた。

レイモンド兄様、そうじゃない!!

今欲しい回答は、シスコンの贔屓目を抜きにした回答が欲しいの!

心の中でそう叫び、「コホン」と咳払いしてルイス様に声を掛けるタイミングを見計らっていると、ルイス様の隣で仲良さそうに会話している令嬢が見えた。

サラサラの長い金髪に、優しそうなお顔立ちをした美しい令嬢に

「レイモンド兄様、あのご令嬢はどなた?」

顔を引き攣らせて聞くと、レイモンド兄様が視線を明後日の方向に向けた。

私がレイモンド兄様の両頬を挟み、自分の方へと向けると

「兄様?ルイス様と親しげなご令嬢は、どなたですの?」

と、睨み付けて訊ねたその時だった。

「フレイア?久しぶりだね」

そう私を呼ぶ声が聞こえた。

聞こえたそのお声は……鈴木達央推しさんのお声だわ!

まさか、まさか、まさか!

ゆっくりと振り向くと、銀縁メガネの奥にある優しいタレ目が愛しいルイス様が立っているでは無いですか!

「フレイア、元気だった?」

優しい笑顔を浮かべ、ルイス様が私の名前を呼んでいる。

運営会社様、ブラボーよ!

此処が国立劇場だったら、スタンディングオベーションものだわ。

長かった……。

えぇ、本当に長かったわ。

機械音の『ポポポポ』しか話さない魔法学園の先輩に一目惚れしたあの日から、今日という日をどれだけ心待ちにして来た事か!

運営会社に、分厚くて長い手紙を送り続けた甲斐があったわ!

積年の思いが報われた瞬間を噛み締めていると

「あ、そうだ。フレイアにも紹介するよ。彼女は僕の婚約者で、シャーロットだ。ラフレイズ子爵家のご令嬢なんだ。仲良くしてやって欲しい」

そう言うと、大好きな笑顔を浮かべた。

「こ……婚約者?」

震える唇を隠す為に両手で口許を隠すと、ルイス様に紹介された美しい令嬢が

「初めまして、フレイア様。シャーロット・ラフレイズと申します」

と、優雅な挨拶をして来た。

私は泣き出したい気持ちを抑え、ニッコリと微笑むと

「初めまして、シャーロット様。私はフレイア・バルフレアです。仲良くして頂けると嬉しいですわ」

そう答えてから

「そうだ!私ったら、今日はアティカス様と約束があったのをうっかりしておりましたわ!レイモンド兄様、ルイス様、シャーロット様、こちらで失礼させて頂きますわね」

とだけ伝えると、その場からダッシュで逃げ出した。

決してルイス様やシャーロット様の前では泣いてはいけないと、令嬢としてはいかがなものか?とは思ったけれど、物凄い速さでその場から逃げ出した。

そして学校の裏庭に逃げ込むと、辺りを見回して誰も居ないのを確認した途端、抑えていた涙が決壊したように溢れ出した。

ルイス様に、あんな綺麗な婚約者が居るなんて聞いてない!

抑えても抑えても、止めどなく涙が溢れ出して来た。

今まで、どんなに辛くてもお妃教育を頑張って来たのは、ルイス様の為だったのに……。

全てが無駄になってしまったと、声を殺して泣いていると、背後から『ガサ』っと草を踏みしめる音が聞こえた。

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