第13話 悪夢の日②

「あ~!もう、最後まで話を聞きなさい」

そう言うと、ポケットから出したハンカチで私の涙を拭ってくれる。

レイモンド兄様は、なんだかんだと私にとても優しい。

「ルイスも気持ちの整理が必要なんだって。ほら、ルイスの初恋はフレイアだったけど、一度振られているだろう?それで急に『好き』と言われて困っているみたいなんだ。だから、一度離れてルイスは気持ちを整理したいみたいだよ。」

と言われ、私は4歳と11ヶ月と30日前の自分を恨んだ。

大好きな人が自分を大好きだったのに、自らそれを壊したのだ。

例えそれが、前世の記憶の無い幼子の行動だとしても、許される事ではないのは分かる。

「それにほら、今は我が家に来客が居るだろう?フレイアに変な噂が立つのも、ルイスは嫌なんだそうだ」

必死に慰めてくれているレイモンド兄様に抱き着き、声を上げて泣いた。

七歳なのにしっかりしているレイモンド兄様も、きっと私とルイス様にとっての最善の選択をしたのだろうと悟った。

そして私は、これからは自分の我儘で誰も傷付けたりしないと心に強く誓った。


 翌日から、レイモンド兄様がルイス様の居るゼヴァランス家へと通うようになり、私はゼヴァランス家に向かうレイモンド兄様をお見送りした。

「じゃあ、行ってくるよ。フレイア、アレクと仲良くするようにね」

頭を撫でられ、私は頷いてレイモンド兄様を乗せた馬車を見送った。

「フレイア、寂しいの?レイモンドは、夕方には戻るよ」

何も知らないアレクが、心配そうな顔をして私の手を握り締めて来た。

私は両手で頬を叩くと

「クヨクヨしたって始まらない!アレク、今日は何をしましょうか?」

と、笑顔を向けた。

アレクはそんな私の顔を見ると、フワリと笑顔を浮かべて

「フレイアと一緒なら、何でも良いよ」

と笑顔を返して来た。

とにかく、今の自分がやるべき事をやろうと心に決めて、まずはアティカス王子を孤独にしない。人嫌いにさせないようにと、私はアレクがバルフレア家に滞在している間はとにかく二人で過ごした。

時には泥だらけになって、アレクと二人でお母様を驚かせてお父様に説教されたり。

レイモンド兄様と三人で、マークと一緒に作ったサンドイッチを持ってピクニックに行ったり。

そんな日々を過ごすうちに、アレクは来た当初より顔色が良くなり、よく笑い、よく食べるようになった。

アレクこと、アティカス王子の母親であるルイーゼ王妃が療養所から戻られるまでの半年間、私とアレクは二人でたくさんの思い出を作った。

冷たく閉ざされた王宮で暮らすようになってからも、ここでの生活がアレクの心の支えになれば良いと、毎日、アレクが笑って暮らせるようにとあれこれ考えて引きずり回した。

あ!もちろん、私達は『親友』だと洗脳も続けたわよ。

「アレク、私達は親友よね?もし、もしよ。アレクに好きな人が出来たりしたら、相談してね」

私がそう言うと、アレクは可愛らしい笑顔を浮かべ

「僕は、フレイアが一番大好きだよ!」

って答えた。

(可愛い!同じ歳だけど、弟ってこんな感じかしら?)

そう思いながら、ギュッとアレクを抱き締めると、アレクは真っ赤になって

「フ……フレイア!」

と叫んで慌てている。

「アレク。私達の友情は、永遠よね!」

そう叫んでアレクの手を握り締めると、アレクが戸惑った顔をした。

「ゆ……友情?」

「そう!友情よ。私達は、仲良しのお友達!そうよね!」

と、半ば強迫じみていたかもしれないけれど、そう言い続けた。

そんな私の言葉に、アレクは戸惑うような顔で頷いていた。

そんなアレクに安心して微笑むと、後は魔法学園でヒロインに出会いさえすれば、アレクだって心変わりして、私なんて早々に婚約破棄してもらえるわ!

あわよくば、友人としてヒロインとアティカス王子との恋を応援しちゃって、上手くいったらついでに私とルイス様との恋も助けて貰えば良いのよ!!

 私は自分の完璧な計画に、にんまりと微笑んだ。

それにほら、某有名な歌手の歌にもあるでしょう?

『会えない時間が、愛育てるのさ』ってね。

だから私は、会えない間に妃教育をルイス様の為に頑張って勉強した。

立派な淑女になり、ルイス様に相応しい女性になるのだと……それはもう頑張った。

そんな私の為に、年に一度だけ、お兄様が私の為にルイス様を家に招いてくれたけど、お父様から『絶対にルイスとフレイアを会わせるな!』というキツいお達しがあったらしく、部屋に外から鍵を掛けられてしまう。

でも、私には窓からルイス様のお姿を見送るだけでも幸せだった。

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