第10話 お腹が満たされれば、幸せになるのです!

真っ赤な顔をしたアレクに、私はにっこり微笑んで

「良い香りで、お腹が鳴ってしまいましたわ。アレク様、早く食べたいですわね」

と話しかけ、マークの入れてくれたミルクティーを二人で飲みながら、パンが焼けるのを待ち侘びた。

ようやくパンが焼けて、焼きたてのアツアツのパンをガブッとかぶりついた私の隣で、礼儀正しく一口大にちぎって食べようとしるアレクに

「アレク様、かぶりついた方が美味しいですわよ」

と言って、アレクの前で再びかじりつく。

マークが生地作りをしてくれたパンなので、優しくて美味しい味は変わらない。

アレクもそんな私を見て、パンにかじりついた。

すると、キラキラと目を輝かせて私の顔を見てから、マークの顔を見たのだ。

その顔だけで、美味しいって喜んでいるのが分かる。

二人で熱々のパンを幾つか食べた後、私がルイス様とレイモンド兄様に出すスコーンをお皿に並べていると、ちょうど兄様にお茶を出す為に侍女がやって来た。

「ちょうど良かったわ!これを兄様とルイス様に」

と伝え、スコーンを並べたお皿を手渡していると

「きみは王太子の婚約者なのだろう?しかも公爵家の令嬢なら、料理なんて覚えなくても良くないか?」

ポツリとアレクが呟いた。

私は侍女が調理場を出たのを見送ると

「あら、それは違いましてよ。料理を覚えていれば、もし何かあった時に私が料理を作ってあげられますもの」

そう答えて微笑んだ。

「何かって?」

不思議そうな顔をするアレクに、私は少し考えて

「例えば……料理に毒を入れられてしまったら、その後からは私が料理を出せば安心して食べて頂けますでしょう?そして、その時に出された料理が不味いよりは美味しい方が良いでは無いですか」

と答えた。

「どんなに悲しい事や辛い事があっても、美味しい料理でお腹がいっぱいになると、その時は幸せな気持ちになれますでしょう?」

そう続けた後に

「ですから、私にとって美味しい料理はマークの料理ですから、今のうちからマークに料理を教わっておりますのよ」

と言って微笑んだ。

するとマークが感動した顔をして

「フレイアお嬢様~!」

と叫んで私を強く抱き締めた。

「俺、感動しました!お嬢が此処に来るのは、つまみ食い目当てだなんて疑った自分が恥ずかしい!」

そう言われて

(いや、それも含まれて居るけど……)

なんて思いながら、私をギュッと抱き締めているマークに鯖折りされそうになる程抱き締められた。

「マ……マーク……死ぬ!死ぬから!」

と、顔面蒼白で訴えていると

「マーク、フレイアが苦しいって……」

マークの白衣を引っ張り、心配そうな顔をしたアレクが呟いた。

すると、豪傑なマークは私の身体を離して

『ガハハハ』って笑いながら

「フレイアお嬢様、すみません」

と、やっと私を解放した。

「アレク様。助けて下さり、ありがとうございます」

ニッコリ微笑んでアレクに言うと、アレクは少し頬を赤らめて

「お礼を言われる事など、していない」

と、プイッとそっぽを向いてしまう。

きっと同じ年齢だったら、嫌われた?とか思うのだろうけど、見た目は5歳。中身は前世の35歳の記憶がある私からしたら、照れているだけだと直ぐにわかる。

ショタアレク(アティカス王子)の可愛らしさに、思わずギュッと抱き締めた。

するとアレクが

「わ~!何をする!」

と、真っ赤になって叫んでいる。

「アレク様が、可愛らしくて……つい……」

「か……可愛い?」

「えぇ……」

「馬鹿にするな!僕は男だ!」

プンプン怒り出すアレクに

「あら?何故怒りますの?褒めておりますのに」

小首を傾げて呟くと

「可愛いというのは、きみのような女の子に使うべき言葉であって……僕は男だ」

と、小さいながらに男を主張してきて、尚更可愛い!!

「アレク様、見た目の事ではありませんわ。お人柄が、可愛らしくいらっしゃると褒めておりますのよ。それに、『可愛い』は男女関係ありませんのよ!」

力説する私に、アレクが驚いた顔をして見ている。

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