第2話 前世の私はどうなった?

 目覚めた私は、必死に記憶を辿った。

そう……あの日、私は仕事とフラソで睡眠を削りに削り、毎日30分寝られれば良いような生活をしていたせいで、前世の私は魔法学園の先輩の声を聞く事無く、36年という人生の幕を閉じた。

せめて、せめて死ぬなら魔法学園の先輩の声を聞いてから死にたかった!!

魂になった私は、悔やんでも悔やみきれない思いに地縛霊にでもなってやろうか!と思っていた。

その時だった。

「あれ?きみ、もう死んじゃったの?」

呑気な声が背後から聞こえ、振り向くと天使らしい奴が立っている。

私はそいつの胸ぐらを掴み

「お前か!私を殺した奴は!!」

と叫ぶと、真っ白な羽を背中に生やしたそいつは

「僕じゃないよ!大体、きみが死ぬのはもう少し先だよ。なんだっけ?ほら、ゲームのキャラの声を聞いて、狂喜乱舞しすぎて頭の血管切れて死んじゃうの」

と、『あははは』って笑いながら答えた。

「だったら、今すぐ戻せ!生き返らせろ!魔法学園の先輩の声を聞くまで、死んでも死にきれない!!」

天使の胸ぐらを掴んだまま、身体を揺すって叫ぶ。

すると天使は

「え~!戻すのにはさ、すっごい力を使うわけ。良いじゃん。どうせ、1ヶ月後には死ぬんだし」

と、軽く言いやがった。

「冗談じゃないわよ!魔法学園の先輩の声を聞いて死ぬのと、聞けないで死ぬのとは天と地の差よ!天使のくせに、そんな事も分からないの!!」

泣き喚く私に、その天使はめんどくさそうな顔をして

「分かったよ!ただ、一度死んだ身体には戻れない。だから、きみをその大好きなゲームの世界に転生させてあげるよ」

と答えたのだ。

「はぁ?何言ってるの?今流行りのアニメじゃあるまいし。転生したら悪役令嬢でした。的な展開で、私が満足出来るとでも思ってるの!こうなったら、私はここで地縛霊になってあんたを恨んでやる!」

天使の羽を全部むしり取ってやろうかと考えながら叫んだ私に

「待って待って!落ち着いて」

と天使の奴はそう言うと

「きみの言い分は、分かった。確かに、きみは本来なら1ヶ月後に死ぬ筈が、今、死んでしまった。それは、こちらの手違いだ。きみは元々、死んだらゲームの世界に転生する運命だったんだ。だから、本来なら転生したら前世の記憶は全て消え去ってしまうのだが、きみが転生して5歳になった日に、前世の記憶をプレゼントしてあげよう」

と続けた。

私は目を据わらせて

「はぁ?それって、私になんのメリットがあるわけ?良いわよ!私、ここで地縛霊になって、魔法学園の先輩の声が配信されるのを待ち続けるから」

そう言って、天使に背中を向けた。

すると天使は私の肩を掴み

「本当に止めて!本来、転生する筈の人間が地縛霊になんてなったりしたら……」

と、真っ青な顔になる。

「だったら、今すぐに元に戻しなさいよ!」

地団駄踏む私の肩に手を置くと

「良く考えて!ゲームの世界に転生したら、その先輩とやらは生きているんだよ」

そう天使が囁いた。

その瞬間、私の身体はピクリと反応する。

天使は爽やかな笑顔を浮かべると

「ゲームの世界で、彼の子供時代が見られたかい?」

と続けた。

「子供時代だけじゃない。その人の生声が聞けて、名前だって分かる。もしかしたら、きみの名前を呼んでくれるかもしれないだろう?」

天使の言葉に、私は生唾を飲み込んだ。

(そうだ。生きた魔法学園の先輩なら、声は「ポポポポ」っと鳴る電子音では無い。

しかも、私があの世界に生きられるのなら、魔法学園の先輩を攻略対象に出来るんだ!! )

思わず握り拳を握り締め、ガッツポーズをする私に、天使は追い打ちをかける。

「ほら、地縛霊になってゲームで音声を聞くより、転生した方が良いだろう?」

でも、音声で魔法学園の先輩の声を聞いてから死んでも良かったのではないか?と口にしようとした時

「可愛いだろうなぁ~。ゲームでは見られない、その先輩の子供時代」

と、天使が畳み掛けて来た。

(ショタ先輩!!)

そう思ったら、妄想が止まらなかった。

ショタ先輩の可愛い声で「お姉ちゃん」なんて呼ばれたら、死んでも良い!!

そうよね!転生して、魔法学園の先輩を可愛がりまくるっていう楽しみがあるわよね!と、この時の私は考えていた。

そう。皆様、お気づきだろう。

転生するという事は、私も赤ちゃんからの人生になるって事を。

でも、ショタ先輩の妄想に弾け飛んでいた私は、まんまと天使の策略にハマってしまい、現在に至ったのだ。

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