事の起こり④
「ボクの学校――岩倉女学院は中高一貫の女子校でね。エスカレーター式の中学入学組と高校入学組で大きく分かれてるの。学校全体だけじゃなく、クラス単位でもそんな感じにグループがあるわ」
窓にはぁーっと息を吹きかけると、白魚のような指先がたおやかに縦線を一本引く。
区分けの仕切り。左が中学入学組で、右が高校入学組。
「言ったとおり、中学入学組はエスカレーター式だから、それなりにいいとこのお嬢様が多くいる。被害者の
左側に二人の名前が書かれて、遠野綿花にだけ丸がつけられる。快くはない、被害者の目印。
「んで、成績は良かったけれど家柄はごく普通なのが、高校入学組。リーダー格というか、一番目立ってるのは
続いて右側に、織田澪子の名前が書き加えられる。
「……正直、個人的な交流まで漁ったらキリがないと思う。だけど、クラス全体を取り巻く空気そのものまで支配するとなると、相応な人望や注目を集めてる人間じゃないと難しいんじゃないかしら」
「お前はどっちなんだ?」
「ボク?」
グループを分かつ線の真下、まるっきり外れた場所に鬼頭咲弥と書き込まれる。
「ボクはここ」
「おい、笑えない冗談もほどほどにしろよ」
「流石にこれは冗談じゃないわよ。客観的に見て爪弾き者だってこと。というか、三条の家から来てるのに高校入学……途中参入とか、まともな奴じゃないって言ってるようなものじゃない」
まともな奴じゃない――人でなし。
三条とは、草薙初音の父方の名字だ。雇い主でもある草薙さんは半ば勘当された身ではあるが、里子として迎え入れられた咲弥を介して繋がりがある。というより、草薙さんを雇い主として仕事をするべく里子として迎え入れられた……というのが正しいのだが、それはまた別の話。
「あと、良くないのが名字かしら」
「あー……」
「クラスメイトの何割が事件に関わってるのかは分からないけれど、『頑張ればスケープゴートにできるかもしれない』なんて空気が漂っていたわ」
鬼の
それがクラスメイトの心境なのだとすれば、反吐が出ることこのうえないが。
「流石に先生方もマズい雰囲気なのを感じてくれてね。嘘の体調不良を理由に早退したってわけ」
名前を書いていた窓を拭うと、かくして使用人業務に打ち込んでいるのだと見せつけるように、メイド服をつまみ上げてくるりとステップを踏む。
元々結ばれているもみあげはそのままだが、普段は腰まで届く長い黒髪も、きちんとまとめてシニヨンキャップにしまわれている。かがんでの作業もしやすいよう、膝下丈に調節されているエプロンとワンピースは実にシンプル。
曰く、ヴィクトリアンメイドという古いタイプのものらしい。フリルも最小限に留められているが、だからこそより咲弥の見目麗しさを引き立てていた。悔しいが、草薙さんの趣味は最高にして最低ということになる。未成年になにやらせとんのじゃ。
当の咲弥は別段気にしている様子もなく、「さてさて!」と手を打った。
「司令官のハツネを除いて作戦会議しても意味ないから、掃除、終わらせちゃいましょ!」
「……まあ、それもそうだな」
【ギロチン】は、自発的なボランティアではない。純然たる業務内容である。仕事は効率よく、がどこの世界でも常識だ。
吸血鬼の
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