第6話 回廊(ステータス表示あり)
――鬼の芽が宿りました。これより侵食が始まります。
――精神汚染にかかりました。精神が低下します。侵食率が上昇します。
――覚醒魔法が自動で発動しました。精神が上昇します。侵食率が低下しました。
――鬼化5%侵食しました。
――急激な身体変化により持久が低下します。
――治癒術が自動で発動しました。持久が上昇します。
――完治しました。筋力が上昇しました。敏捷が低下します。
――称号【避雷針】により最大電圧を検知しました。伝達神経は既に強化されています。敏捷の低下をキャンセルしました。
――属性【雷】を発見しました。
――スキルツリー【雷】が開放されました。
立て続けに聞こえてくる天の声で黒井は目覚めた。
眼前に夕焼け空が見えたことで、自身が仰向けに横たわっている事に気がつく。最後に見た空が黒雲に覆われていたことを考えると、数時間眠っていたのかもしれない。
やがて、上半身を起こした黒井は、視界に飛び込んできた光景に唖然とした。
「なんだ、ここは……湖か?」
それは、地平の果てまで一面に張られた水。水面は空の
「ここからどこに行けばいいんだ」
そんな彼の疑問を解決するかのように、見回した後ろにその答えはあった。
それは白い鳥居。それも、京都の伏見稲荷大社のように鳥居が奥へ奥へと連なっていた。そして、鳥居が連なる場所だけは、「そこに向え」と指示されてるみたく水没していない。
「まるで日本のようだが」
これまでのアビスとはまるっきり違った雰囲気に思わず呟いてしまう。まるで? いや、それはもはや、日本と言って差し支えない。
取りあえず立ち上がった黒井は、全身を確認。雷に撃たれたような記憶があったのだが、装備も身体も不気味なほど異変はなかった。
そして、先ほどうるさいほどに聞こえていた天の声も確認するためステータスを開く。
「は?」
そこには、もう驚くことはないだろうとたかをくくっていた彼を、まるで嘲笑うかのようなステータスが表示された。
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【黒井賽】
種族 :人(鬼の侵食率5%)
職業 :治癒魔術師
レベル:68
筋力 :55(+15)
器用 :70(+15)
持久 :50(+15)
敏捷 :80(+15)
魔力 :200
知力 :210
精神 :230(0)
運 :80
《スキル》
回復魔法・覚醒魔法・治癒術・抗体術・剣術
《称号》
魔眼08・鬼狩り・避雷針
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基本的な数値は変わっていなかった。しかし、【鬼の侵食】だったり【避雷針】という称号だったりと、増えてる要素がいくつかある。
黒井は、しばらくそのステータスを眺めていたのだが、やがて、考えることをやめることにした。
なぜなら、能力値がプラスになっていたからだ。
「……というか、相変わらず治癒魔術師のステータスって低いよなあ」
良いところよりも悪いところのほうが目立つ、というのは真理のようで、新しい要素よりレベルに比べて能力値が低いことのほうに自然と視線が向いてしまう。そんな劣等感が黒井の前提にあるためか、訳の分からないプラスは思考放棄してしまえるほどに嬉しいことだった。
「回復系統のスキルが強みなんだが、攻撃魔法もないし攻撃手段もないし……こんなんでよく最前線にいたよな、俺」
そう言って苦笑い。
彼は、自身のステータスを積極的に確認することはなかった。それは、確認することで非力な現実を突きつけられ、ネガティブが加速するからだった。
そんな黒井を、ソロで身につけた剣術スキルだけが励ましている。もちろん、気休めだったが。
「取りあえず、鳥居に沿って行けばいいんだよな?」
答えなど返ってくるはずのない質問を呟いて歩きだした黒井。
連なる鳥居はの道のりは長かったが、新鮮で美しい光景のおかげか、退屈はしなかった。
やがて、鳥居の終わりにたどり着いた彼は、歩きながら予想していた通りの光景に「やっぱりな」と呟く。
それは、鳥居からの簡単な連想ゲーム。
彼の目の前にあったのは神社だった。まあ、神社というよりは、大社と呼んだほうが格式正しい気がする。それは、木造で作りあげられた立派な
そして、社の前にはシンプルな祭壇があって、鞘に収められた一本の刀がこれ見よがしに横たわっていた。
その刀を手にとってテキストを確認。
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【
月の力を宿した刀。
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「情報が少ねえ……」
それは、アビス全体に言える愚痴でもあった。道具や武器、装備における説明文には、黒井が欲しい数値などの具体的情報がほぼなかったからだ。まあ、だからこそ、数値などがちゃんと記載されている攻略情報というのが重要になっていた。
黒井はその刀を鞘から抜く。すると、白刃の刀身が顕になった。斜陽を反射し輝く鋼は、彼を魅了するには十分に美しい。
――月の力を感知しました。鬼の侵食が減速します。
「この、鬼の侵食とやらがタイムリミットなのか」
天の声とステータスから推測をする黒井。ついでに、鬼の侵食が100%になった事も想像してみた。
「急いだほうが良さそうだ……」
その結末はあまり良くない気がして、黒井は小走りで社へと続く壇上を上がる。そして、奥へと両開きになっている戸を手で押し込むと、ダンジョンの名前でもあった回廊が広がっていた。
「情報も少ないが……道標とか道案内とかもないんだよなあ」
その迷路のような回廊に、黒井は再びアビス全体に言える愚痴を洩らすしかなかった。
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