リア充ゲーム

栗色マロン

第1話 ゲーム開始

『”聖なる勇者”さんのリア充ポイントは累計120。前回より17ポイント増加し、ランキングが7上昇しました。』


スマホに届いたメッセージを見て、思わず歓喜の声を上げる。

ここ最近、合コンやら異業種交流会にこまめに参加したのに加え、先週末には学生時代のサークル仲間を集めてBBQ大会を開催!


参加者に連絡したり会場を予約したり、準備はめちゃくちゃ大変だったが、そんな苦労も吹っ飛ぶ思いだ。

一挙17ポイント獲得はでかい。


ピコッ。スマホに新しいメッセージが届く。


『”聖なる勇者”さんに、特別休暇3日と臨時ボーナス30万円が支給されます。リア充活動の益々の推進にご活用下さい。』


30万も貰えるのか!

土日に特別休暇を合わせれば、海外旅行にも行けそうだ。


このゲーム誰が主催しているのか、どう判定しているのかは全く分からない。

だが仕事そっちのけで遊び回りお小遣いまで貰えるんだから、こんなおいしい話しはない。リア充ゲームに参加したのは、大成功だった。


ピコッ。またスマホにメッセージが届く。


『最下位だった”森のくまさん”がゲームから脱落し、北の大地に放たれました。新しく”紅花の理性”さんが、ゲームに加わりました。』


そうだった。リア充ポイントが最下位だと、ゲームの参加権を失うのだ。代わりに新しいメンバーが補充される。


ところでゲームの参加者たちは、皆ハンドルネームで呼ばれている。


俺のは”聖なる勇者”。主催者側が勝手に名付けたものだ。

本名が聖川勇人だからそれにちなんだのだろうが、ずいぶんと安易なネーミングではある。


そう言えば、”森のくまさん”というハンドルネームには心当たりがあった。

森野祐介、俺の同期だ。


体重100kg近い巨漢がのそのそ歩く姿から、新人研修中から”森のくまさん”というあだ名で呼ばれていたのだ。

配属先のフロアも同じで、時々お互いの近況報告くらいはする仲だ。


北の大地に放たれたって、どういう意味なんだろう?


――――――――――――――――――


「やべーよ。10ポイントも下がったよ。ここんとこプレの準備が死ぬほど忙しくて、息抜きはスマホのゲームぐらいだったからな。勇者様はどうだったよ?」


その日の午後、デスクで一人データ整理をしていると、同じ課の大田がぼやきながら話しかけてきた。大田とは同期入社でもあり、お互いがゲーム参加者であることも知っている。


俺は黙って、スマホのメッセージ画面を見せる。


「凄えー、17ポイントアップか!しかもボーナス30万とは羨ましい、、、」


大田は驚き、そして悔しそうだった。


「今回はまじで頑張ったからな。ボーナスも出たんで、ご褒美旅行にでも行ってくるよ。ところで”森のくまさん”って、森野のことだよな?あいつどうなったんだ?」


俺の質問に、大田は表情を曇らせる。

そして神経質そうに周りをキョロキョロ見まわした後、ヒソヒソ声で話し始めた。


「さっき小耳にはさんだんだが、森野のやつ帯広に転勤らしいぞ。」


俺は驚いた。帯広は北海道の中央部に位置する小都市で、うちの会社の支店はなかったはずだ。


「単身で送り込まれて、営業所を立ち上げる計画だそうだ。失敗したら首って噂だ。」


このご時世に、そんなパワハラみたいな話しがあるのか?

それもゲームで最下位になった直後のこのタイミング、偶然とは思えない。

大田も同じ思いだったらしく、ヒソヒソ話しを続ける。


「お前、営業3課の江上さんを覚えてるか?」


俺は頷く。その人はかなり癖が強く、関わると面倒な人だった。

でも確か先月、フィリピンの子会社に転勤になったはずでは?


「江上さんもゲームの脱落者だったらしい。それだけじゃない。その1カ月前にインドネシアに出向になった青野さんも、同じみたいなんだ。」


なるほど、最下位になってゲームから脱落すると会社のリアルからも追放される。それがこのゲームの掟ってわけか。

ということは、主催者はかなりの権力者なのか?


―――――――――――――――――――――――――――


それから二週間後の週末。俺は成田空港の到着ロビーにいた。

かたわらには大きなバックパック。両手には、カンボジアの空港で買ったお土産袋の束を抱えている。


五日間の旅程は、遺跡巡りに市内観光までを盛り込むとかなりの強行軍だった。

だがアンコールワットの雄大な姿と人々の純朴さは俺を魅了し、会社生活で消耗した心も洗われる思いだった。


ピコッ。スマホにメッセージが届く。


『”聖なる勇者”さんのリア充ポイントは累計138。前回より18ポイント増加し、ランキングが6上昇しました。』


俺は満足げに頷く。今の俺は間違いなくリア充全開だ。

チャレンジしたいことはまだまだ尽きず、時間はいくらあっても足りない。


そう言えば、帯広に転勤になった森野がやる気をなくして引き籠っているらしい。

社内でも問題になってるそうだが、そんなのは今の俺には時間の無駄にしか思えない。


その時、スマホに着信が入る。大田からだった。


「よう久しぶり!ちょうど今成田に着いたところだ。あとでお土産持って顔出すから、楽しみにしててくれ。」


能天気な俺の言葉に、大田はひどく慌てた口調で答える。


「昨日森野が交通事故で死んだ!運転していた車が、トラックと正面衝突だと。全身が押し潰される酷い事故だったらしいぞ。」


俺は驚いた。つい先日まで普通に会話していた森野が、こんなに突然死んでしまうなんて!


「それだけじゃない。フィリピンに転勤になった江上さんも、インドネシアに出向になった青野さんも皆同じ日に亡くなってる。江上さんは強盗に襲撃されて全身をナイフでめった刺し、青野さんはフェリーの転覆事故だそうだ。」


呆然とする俺。

ピコッ。その時、スマホにメッセージが届く。リア充ゲームだった。

不吉な予感を感じた俺は、急ぎそれを開く。


『リア充ゲームは棚卸しを開始しました。皆様へは、ご理解ご協力をお願い致します。』


棚卸しって何だ?まさか脱落者の処分ってことか?


どうやら俺は、このゲームを甘く見ていたようだ。

一度参加を表明したら、途中で逃れることなど不可能。

敗北することはゲームとリアル、そして人生そのものからの追放を意味するのだ!

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