『小説家という職業』

『小説家という職業』

 著者 森 博嗣

 集英社新書 本体七二〇円(税別)


 国立大学工学部建築学科で研究をする傍ら、一九九六年に『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞してデビュー。以後、次々と作品を発表し、人気作家としての不動の地位を築く。「スカイ・クロラ」シリーズ、S&Mシリーズ、Gシリーズをはじめ、『自由をつくる 自在に生きる』『創るセンス 工作の思考』『臨機応答・変問自在』『臨機応答・変問自在2』『ゾラ・一撃・さようなら』『工作少年の日々』など多数の作品を執筆。

 

 小説を書くとは、プロの小説家としてやっていくとはどういうことか、著者なりの考えが包み隠さずに書かれている。

 ほとんど小説を読んでいなかったため、原稿は縦書きでなくてはならないというルールがないようであるような講談社の賞に送ったら、あれよという間にデビューしたという。

 一般的に、処女作は一番面白いことが多い。

 デビュー作にはありとあらゆることを詰め込むからだ。

 著者は、戦略を立てていた。

「だから、最初はセーブwして、だんだん面白くしていこう、と僕は計画した。まず5作ぐらいは書くつもりだったので、最初はオーソドックスに大人しく始めて、2作目で少しだけ個性を出し、3作目で技巧的な別の面を見せる。そして4作目でようやく全力を出し、5作目では、それをさらに凌ぐようなものを書こう。このような抽象的な計画を立てたのである」 

 この計画は、出版社側の都合によりもろくも崩れる。

 が、著者はきちんと対応していく。

「何故ならば、作家を将来にわたってプロモートするようなビジネス戦略を、出版社ではまったく、誰一人考えていないのだ(せいぜい、目の前の一冊だけについて、オビやポップのキャッチ文など、効果の極めて小さなものに優秀な頭脳を使っている程度である)。小説家にはマネージャーがいない。出版社はしてくれない。だから自分で自分の作品のマネージメントをしなければならない」 

 ゆえに、デビュー前からどんなふうに自分をプロデュースしていくか考えていた。

 事実、大学勤務しながらハイペースで作品を発表し、一躍人気作家となっている。

 二章では作家について心構え、三章では出版業界の問題点と将来について。四章は小説家の今後の展望について、五章は著者自身がどのように小説を書いているのかを具体的に書いている。が、流用は難しい。

 

 著者は、「もし本気で小説家になりたいのなら、この本さえ読んでいる暇はない。すぐにキーボードの前に座って文字を打つべきである。毎日、時間があったら作品を書こう。本当にこれに尽きる。ブログなんか書いている場合ではない。上手く書けないというなら、20作ほど書いたあとで悩んでもらいたい」とまえがきに書いている。

 だが、どうやって書くのかといったノウハウだけは書かれていない。

 巻末には、子供の頃に読んだ『漫画の描き方』の話が書かれている。そこには、どんなペンを使ったらいいか、スクリーントーンはどう使うか、コマ割りのやり方など漫画を描くのに必要な『技術』がたくさん書かれていたという。が、著者曰く、「小説にはそういう『技術』のようなものはない。文体がどうの、キャラクターがどうのなんてことも特にない。小説家になるには、とにかく書くしかないのだ」と結論付けている。

 

 本書を読んでも、小説のノウハウは得られない。

 が、デビュー作『すべてはFになる』は累計七十八万部を販売し、その他の著作を含めた印税の合計額は、十二億円を超えたという著者から学ぶ点もあると思うなら、一読を勧めたい。


 そもそも、名古屋大学工学部の助教授だった著者は、鉄道模型という金のかかる趣味を持っていた。その資金を小説で稼げないか? と考えて執筆を始めたのである。

 本書で著者は書いている。「僕はビジネスで小説を書いた。ビジネスというのは、人気者になるためにするものではない。人気者になりたかったら、無料で本を配りなさい、といつも言っている」と。

 ちなみに、著者は書くのが早く、一時間で六千字。下書きなし、前もって用意したプロットもなく、書きながらストーリーを考えていくスタイル。最初から結末が決まっていると面白くないから、だとか。

 また本人曰く、映像が頭に浮かび淡々と文字に変換していっただけ、だという。


 ご興味を持たれましたら、書店や図書館に足を運ばれて一読されてからご購入を検討されてみてはいかがかしらん

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