あなた好みに切って下さい

光野彼方

第1話

◎あなた好みに切って下さい



1話◉ギャンブラーは真面目であれ


 鏡を見てふと思う。

(髪、伸びたなあ)

 おれは桐谷ススム。ギャンブラーだ。いつも乗るかそるかの博打を打ってその日暮らしの生活をしてる。性格は温厚でいたって真面目だと思うが仕事内容はギャンブルである。

 というより、真面目なやつにしかギャンブルのプロはつとまらないと言ってもいい。ギャンブルで暮らすには勉強熱心で自己管理能力にも長けている必要がある。そういった気質がない場合はギャンブラーなど破滅するだけだ、やらない方がいいだろう。

 ちなみに、おれの最も好む勝負は麻雀だ。それ程強いわけじゃないが、だからこそやめられない。去年はおれが日本で最も強い麻雀の打ち手だと思う奴と一緒にマカオ旅行に行ってみた。奴はやっぱり他のギャンブルも豪運で勝ってたっけな。それでもアイツは麻雀一筋で旅行から帰ったらもう仕事の麻雀しかしない生活に戻った。ギャンブルなんて全然やらないで、毎日好きな本を読んで、散歩して、勉強と運動をバランスよくやり、庭には野菜を植えて家庭菜園をしてる。そんな奴だから最強なんだろうな。おれも真面目な方だけど、そこまでは真似できねえよ。

 で、最近はどのギャンブルもあまり調子が出ないからギリギリまで節約してたらあまりにも髪が長くなってきてた。さすがにそろそろ切るか?部屋ではカチューシャしてりゃいいけど外にそのまま出るのは抵抗があるぜ。女顔だから余計にな。


「さすがに切り行くかあ…」そうぼそっと独り言を言うと玄関ポストにチラシが入ってるのに気付く。新しくオープンした美容室のチラシだった。


(駅の反対口から2分くらいのとこだな。ずっと貸店舗だったけど、あそこ美容室になったのか。1500円?安っ!)


 いつも行く近所の床屋へ行くか、新しくオープンした美容室へ行くか、悩んだ時はコインで決める。


「表なら美容室」

 誰に向けて言うわけじゃないが口にすることで自分の決定を反故にできなくなる力が加わる気がする。おれはコインを投げる前に必ず決め事を口に出してから投げる主義だ。



ピーーーン!

親指で10円玉を弾いた。天井近くまで跳ね上がる。


パシッ!

キャッチした手を開く。


平等院鳳凰堂。表だ。


 おれは新しくオープンした『エクセレントヘアー』という美容室に行くことにした。

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