第17話 フレイムリザードの食事
フレイムリザードの親子に出会って、その子供のご飯事情に関する相談を受け、引き受けることに。
小さなフレイムリザードの子供、シュガルインを手のひらにのせて、洞窟の入口の方まで戻ってきた。
ゴロゴロ…………ゴゴーーーン…………!
雷雨はまだ続いていた。
雨が止むまではこの洞窟を抜けられない。
雨が止んだらシュガルインの父親のジュガテインさんがこの場所を通って、雷で燃えた火を持ち帰ってくる。
そうなれば、ここには長居できない。
何しろ火そのものよりも高温のジュガテインさんがスレスレを通って行くのだ。
とは言っても、雨宿りの間はここで過ごすしかない。
持ってきた薪はジュガテインさんと話している間に乾いていた。
まずはこれを使って、試しにシュガルインに火を食べさせてみましょう。
持ってきていた木の実の火種だったものも乾いたが火種として完全に消えてしまっていた。
シュガルインのお兄さんにお願いして、少しだけ火をもらい、また火種にしてもらった。
フレイムリザードは火を食べて体の中に蓄えて生きるために消費しながら、いざという時は自分の中に溜め込んだ火を吐いて自衛するらしい。
ジュガテインさんほど大きなフレイムリザードとなれば、その口から吐く炎はすごいものになる。
さすがにそんなものを間近で放たれては死んでしまうので、シュガルインのお兄さんの馬ラクダサイズの方にご協力いただいた。
後でもらった火の分は、枝に引火させてお返ししに行こうと思う。
乾燥した薪には火種から難なく火がついた。
問題は、シュガルインがどのくらいの火なら食べられるかと、どんな風に食べるのか。
試しに、小枝の先に引火させて小さなロウソクのような火を、シュガルインの目の前に差し出してみた。
燃えている小枝の先に舌を絡ませ、引き寄せてパクリ。
「このくらいの火なら食べられるのね?」
私が話しかけると舌をチロチロ出して返事をしてくれているようだ。
思わず顔がほころんでしまう。
元の世界では動物を飼ったことはなかったけど、ずっとわんちゃんやねこちゃんなどをかってみたかった。
だけど、一人暮らしの大学生にわんちゃんねこちゃんを養えるだけの財力や設備もなく、ペット可のマンションから飼い主に連れられて出てくる子達に憧れるだけで、実際には手を出さなかった。
友達の家ではわんちゃんが2頭いて、日々のご飯や運動をその子の健康のためにしっかりと管理、監督してマネージメントしてあげる必要があること。
それに病気とかになったら病院に連れて行ったり、予防接種なども必要になること。
自分が忙しかったとしても疲れていても毎日欠かさずに、適切に暮らせるように手助けしてあげなくてはならないこと。
その子の幸せのためには、単に可愛がるだけではなく、しっかりと躾たり、連れ出して色々なものを見せたりしてあげることも大事になることを色々聞いていた。
いつか自分も何か動物を飼ってみたいと思って熱心にその話を聞かせてもらっていた。
憧れるのはわんちゃんねこちゃんだけではない。
動物園にいる動物たちや、動物系のドキュメンタリーや影像ならずっと見ていられた。
まさか爬虫類と一緒に異世界でサバイバル生活をするなんて思ってもみなかったけど、世界最大の亀やトカゲのドキュメンタリーとかもみていたので、なんとなくはどんな生き物なのかは知っていることがあると思う。
それに加えて、火を食べるという特殊な子を間近で見られるのはワクワク感もちょっとだけある。
小さな火を何度もシュガルインに手渡していると、心なしかシュガルインが元気になってきたように見えた。
それはたぶん気のせいではないと思う。
手のひらにのせているシュガルインの体温も、先程より少しだけ高くなっているように感じる。
今のところ順調、ということなら嬉しい。
この調子でもっと元気に、そしてもっと大きく育ってくれることを目標にしていこう。
シュガルインが火を食べる姿を観察しながら、次々と火を与えていたら、どうやら今はこれ以上食べられないらしい。
人間と同じようにフレイムリザードも満腹になるのかもしれない。
一日に何回食べるのが良いのかとか、適量がどのくらいなのかを把握したい。
記録をつける為の紙やペン、スマホなんかはここにはない。
チョークや軽石みたいなものを見つけられれば、洞窟の壁に一時的なメモとして残すことはできるかもしれない。
まだ雨は止まず、薪はまだあるものの、この雨が降り続けばいずれ尽きてしまう。
シュガルインには火の傍でお留守番してもらって、濡れてもいいから薪の材料や私自身のご飯をとりに行こうと思う。
火が確保できていることもそうなのだけれど、あの光るコウモリがいるところまで持っていけば、ジュガテインさんの熱で早く乾燥させられる。
低体温症の心配が少ないので、雨が降っていてもある程度は自由に動き回れる。
フレイムリザードと友好的な関係を築けたのは、私の生存にとって非常に価値のあることだと改めて実感する。
火種の心配がいらない、火がない状態でも温かい、体や道具、材料なんかをノーコストで乾燥させられる。
シュガルインを立派に育てればそれらの恩恵がより身近になるかもしれない。
雨が多そうなこの森で、これ以上ないくらいの快適さをえられるということだ。
現金なもので、そんな打算が思いついたらシュガルインを立派にさせるためにできることを何でも試したくなる。
まあ、1番はこの子が幸せに暮らせるようになることなんだけどね。
「シュガルイン、行ってくるね」
シュガルインはチロチロと舌と視線を返してくれる。
思わずニコリと笑顔になってしまう。
仮の拠点ではあるけれど、帰る場所に待っていてくれる子がいるのはとても心穏やかな気持ちになり、やる気が湧いてくる。
「がんばろう、おー!」
気合いを入れる意味でも自分に言い聞かせ、激しい雨の中に踏み出した。
━━
豪雨の中の森はところどころ
目印のいくつかは倒れてしまっていたので、この方法では良くないということが改めてわかった。
目印のセカンドプランのためにも、材料集めをしっかりとしておかなければならない。
幸い、岩場と池の間はほとんど真っ直ぐなので、今は迷うことはまずないだろう。
池にたどり着くと、池の水位が少し上がっていて、焚き火をしていた場所は水没していた。
木の実なども流されてしまっている。
池をよく見ると、ウネウネ罠の目印に突き立てた枝が見えた。
よかった。
罠は無事かもしれない。
既にずぶ濡れなので、服は着たまま池に入って罠を回収しにいく。
太ももくらいまでだった水位が、腰より少し上あたりまで増水している。
もしももっと増えるようなら、ここで食糧を調達するのは危険かもしれない。
水量が増しているのと、池自体が大きくなっているので罠の場所までが遠い。
このくらいの水位なら泳げるかもしれない。
水泳とかが得意なら、むしろ往復の時間が減っていたかな?
あいにく私は小学校以来ほとんど泳いだことがない。
プールや海水浴でも、足がつくとこにしか行かないので、泳ぎ方なんてほとんど分からない。
水面をかき分けて進むしかない。
罠には2種類の魚が、合計3匹かかっていた。
2匹は昨日の夜に食べた魚と同じ種類のようで、もう1匹はまだ食べたことがない。
サイズは15cmくらいのが1匹で、12、3cmくらいのが2匹。
いずれも昨日のより小ぶりだけれど、十分な収穫だ。
時間をかけて作った罠が流されてしまっては困るので、一旦洞窟まで持ち帰ることにした。
「ごめんね。お魚さん。
今日も生命をいただきます」
獲れた魚は活きのいいうちに首の骨を折って血抜きをした。
試したい調理方法があるので、大きな葉を数枚刈り取って、苔を少しと血抜きした魚を挟んで持ち帰る。
昨日は木の枝を上手く魚に差し込めず、焚き火で焼くのに苦労したし、時間もだいぶかかった。
今日はその反省を活かしつつ、今のこの洞窟の状況を有効活用したいと思う。
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