第9話 ウネウネ罠の設置についての問題
タンパク質をとるための道具(植物を編んで作った罠)を用意したけど、問題があった。
未知の異世界で謎の光る森の中にある池に入っても大丈夫かとか、未知の動植物は危険だとか、罠を仕掛けるポイントの厳選をどうしようとか、色々と問題があったけれど。
私が真っ先に思い浮かべたのは別の問題だった。
「服……乾かないよね……。
どうしよう…………」
罠を仕掛けに行くにも服を着ていけば濡れてしまうし、時間を置いて罠の様子を見に行く時もまた濡れる。
その間、焚き火の火にあたるとしても、体温の低下は避けられないし、早々には乾かないだろう。
タンパク質不足の筋肉の修復を満足にできない状況下で、濡れたままでいるのはかなりリスクが高い。
服を気にしているのは今朝の声の主(ルブラン)の事があるからだ。
ルブランの話では、こちらの様子はむこうに見えている。
見られているのに裸になるのは…………正直、私にはできない。
恥ずかしいとかじゃなくて、それはもう"覗き"という立派な犯罪行為だ。
しかも、どこにカメラがあるのかわからないから、防ぎようがない。
360°見回しても、光る森と池しかない。
機械的なものは一切見当たらない。
ドローンみたいなものも飛んでいない。
一体どうやって私のことを見ているのか検討もつかない以上、防ぐ方法がない。
池にはいる時に服の代わりになるものが必要だけど、ここには布や糸がない。
しかし、よく考えると、古代の人々はどのようにして体を隠していたのか。
よく見るのは、木の葉や貝殻などで隠すやつだ。
幸いにも(?)、木の葉なら周りにたくさんある。
先程、木の実を保管するために使った大きな葉がある。
その葉はそのままでもかなり面積が広い。
それからチビカピさんからいただいた骨もある。
そして、罠に使った細長い植物。
これらで作ってみるしかない。
家庭科の授業で履修した裁縫の仕方がこんなところで役に立つとは思いもよらなかった。
しかも、材料は現地調達。
大きめの葉は裏も表も表面がツルツルとしていて水を弾く。
これなら水につけた時に重くならずに済む。
崩れる心配が少ないのはいい事だ。
葉を自分の体に押し当てて、だいたいの所にチビカピさんの前歯で印をつけてからフリーハンドでカットしていく。
パーツの切り出しが終わったら、今度は糸を作る。
先程、罠製作に使った細長い茎を、縦に引き裂いて細い植物繊維にする。
チビカピさんからいただいた細い骨に、引き裂いた植物繊維を取れないように結びつけ、針と糸でカットしたパーツを縫い合わせた。
「できた〜」
何となくそれなりのものには仕上がった。
植物製の肌着。
これをつければ、大事なところは十分に隠せる。
ついでにボディラインも隠せるように、葉の面積は広めにした。
この世界に来た時から着ている麻のような素材のワンピースの下から、植物の肌着を履く。
茎をそのまま使った肩紐に腕を通して、体を1周するように長めにとった植物繊維の紐を、背中でクロスさせてからお腹で結んで着用は完了。
切ったばかりの草特有のにおいや汁が体に着くのは我慢するしかないが、裸を誰かに見られるよりも何京倍もマシ。
ズレたり結び目が解けないことをジャンプしたり軽く手足を動かして確かめてみる。
多少身動きが制限されるようだけど、全く動けないということはなく耐えてくれている。
及第点でも今はこれで手を打とう。
麻のワンピースを脱いで、焚き火から少し離れたところに、苔を敷いてその上に畳んで置いておく。
既に日射しが下りに向かっていた。
左手にウネウネ餌の罠を持ち、右手には罠を水の中で固定しておくための長い枝と、結びつけるための細長い茎を持った。
せっかく縫い繕った肌着がいつまで持つかは分からない。
この肌着が壊れてしまったり、体が擦れて痛くなったり痒くなったりしないうちに、仕掛けを済ませてしまいたい。
仕掛けた後に手直ししたり、改良を施す時間も取れるかもしれない。
でも、日が落ちるまでに仕掛けを取りに行くつもりなので、早く仕掛ける場所を決めて設置しなくてはならない。
魚や魚介類はどんなところにいるのか、そもそもこの異世界の池に、獲物となるような魚や魚介類が生息しているのかすらもわからない。
種類にもよるけど、陸上や空からの敵から身を守るために、暗いところや日陰になっている所、窪みのある所を好むらしい。
岸の近くにそういったスポットがあるのなら、そこに仕掛けるのが1番楽だけど。
残念ながら池はあまり詳しく観察する時間もなかったので、そのような好条件のスポットは発見できていない。
なので、せめて人や岸辺周辺にいる動物の気配から離れているところ、岸から離れたところに設置してみることにする。
チビカピさんたちの様子から大丈夫だろう。
この水をもう何回か飲んでも今のところ平気だ。
きっと水に浸かっても死にはしないと自分に言い聞かせる。
深呼吸をしてから、片足をキラキラと日の光を反射する水面に落とす。
「うきゃあっ!ひゃっこい」
思った以上に水温が低く、冷たさに声を上げてしまった。
しかも地元の方言が無意識に出てしまい、少しだけ恥ずかしい気持ちになった。
両足をつけて、改めてこの池の水は冷たい。
そして、浸けた部分が痛くなったり、痒くなることがないことは一先ず確認できた。
水の中を覗き込みながら、踏んでしまいそうな障害物や動植物がないかを確認しつつ、1歩1歩慎重に池の中央の方に向かって歩を進める。
両手に持ち物があるのでバランスを取りながら進むのも慎重になる。
しばらくは下半身が浸かるくらいの水深が続いた。
所々少し深いところもあったけど、なるべく浅い所を進んできた。
10メートルほど池の中央に向かってきた。
水の中を覗いていると、視界の端々に魚っぽいのが泳いで去っていくことがあった。
たぶん魚はけっこういるようだ。
あとはウネウネが魚にとって餌と認識されるかと、設置する場所によって成功率が大きく変わってくる。
「ぅぅう……ここ、冷たすぎ」
急に足元の水が氷のように冷たく感じた。
そしてこの一帯はかなり水が澄んでいて、植物も多い。
「ここが湧き場なのかしら?」
たぶんそうだろう。
湧水池は地下水が地上に湧き出て溜まったものだ。
地下の水は近くにマグマなどの熱源がない限り、外気温よりもかなり冷たい。
その水が湧きでていると、外気や日射しに長くさらされていない新鮮な湧き水の近くが、周りよりも一段冷たくなる。
水が湧いているところは、湧き出てくる水に含まれるミネラルが1番濃く、水の対流も起きるので酸素や窒素、二酸化炭素などの空気中の成分も撹拌されてよく取り込まれている。
そのおかげで、湧水ポイントの近くは水草なども豊富になる。
水草が多いことで、草食魚や草食虫などが集まってくる。
さらに肉食魚や肉食の魚介類もそういった水中資源や生物の多い場所に集まり、自然とそのスポットを狩場にする。
「ここが良さそうね」
持ってきた長めの枝にトラップの1部を通して、持ってきた細長い茎で繋ぎ止める。
「んーっやっ!!」
あとは水草の茂っているところの近くに、長い枝を水底になるべく深く突き刺すだけ。
ね、簡単でしょ?
でも、この作業、見た目以上にきつい。
水温が低いせいもあるけど、水の中をかき分けて進むのは体力が一気に持っていかれる。
すごくしんどいしお腹が冷える。
体温が奪われて力が入りにくいものの、何度も枝を突き立てて、やっと水中に罠を仕掛けることができた。
帰り道、足元に気をつけながら、しかし身軽になったおかげで、行き道よりもスピードアッブして焚き火まで戻ってこれた。
少しだけ周りを見る余裕もあり、水草があちこちに群生していて、魚も色々な種類がいるようだった。
日射しが水面に反射して眩しい。
昨日から雨が降らずにいてくれて、天気にだけは恵まれている。
体を乾かすために草の上に座って、焚き火の火にあたる。
若干頭がクラクラする。
昨日から動きっぱなしで、食べたものもあまり質や量が十分とは言えない。
せめて今晩は少しマシなご飯が食べられるといいのだけど。
疲労感と、下半身に徐々に体温が戻ってくる感覚。
ぼんやりとする頭。
どうにも思考がまとまらない。
何かおかしいと感じていた。
眠気が襲ってきているのはわかる。
すごく疲れているもの。
午前中は起伏の激しい森の中で薪などを集めた。
さっきも水の中で体力が奪われたばかりなのだから、疲れていて当たり前かもしれない。
だけど、眠気と一緒に別の感覚も襲ってきている。
暑いし、眠いし……少し痛い。
……痛い……?
体が乾いてきたけど、焚き火から遠めな顔、肩、腕が何だか少しヒリヒリとする。
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