第1話
「今日は冷え込むな……」
独り言を呟いて白息を吐く。真冬の十二月。夜の十一時。クリスマスを間近に控えた寒空の下で、仕事を終えたばかりの
佐々木は二十代後半。大手広告代理店の営業職として勤務し、昨年に係長に昇進した。会社の同期の中では出世頭として持て囃されており、会社の中でも期待された存在でもあった。
大学時代から交際していた恋人と別れたことを除けば、何もかも順風満帆といえる。
寒かった。佐々木がそう感じるのはこの寒さのせいだけではなかった。
人肌が恋しかった。長年交際した恋人と別れてから既に二年の年月が流れていた。
公園の方に目を向けると点滅する自動販売機が佐々木の目に留まる。缶コーヒーでも何でもいいから温かいものを手に持ちたい。
そう思い、自動販売機を目指して歩き始める。すると、
「そこの貴方。私の
声をかけられた。
声の主を探すようにして、視線を横に向けると、
「はじめまして。そして、こんばんは」
暗がりのベンチに一人の女性が腰かけていた。挨拶をされてしまい、佐々木は条件反射で「どうも」と会釈をしてしまったが、
「
「
「ええ、私の大切な
声をかけてきた女性は喪服姿のようなドレスを着て、微笑みかけてくる。彼女は膝の上にのせた鳥籠──アンティークな装飾の黒い鳥籠──を抱き締めながら、口許に指を当てて艶めかしく語りかけてくる。
二十代後半、いや、二十代前半だろうか。
彼女は美しい容姿をしていた。
どこか儚げで、妖しい雰囲気を纏う奇妙な女性だった。
一人きりでこんな暗がりの公園に夜更けにいることも異様ではあったが、その喪服姿も、黒い鳥籠も、まるで美しい肖像画が公園に飾られていると錯覚を覚えてしまいそうな程、佐々木の心を縛り付けて魅了してくる。
「俺でよければ一緒に探しましょうか」
「よろしいのですか?」
「ええ、もちろん」
怪しいとは思ったが、同時に好機だと思った。このような美人と親しくなれる機会はそうはないだろうと考えた佐々木は、
「俺は佐々木秀司といいます。貴女のお名前は? これも何かの縁です。教えてもらえないでしょうか」
紳士的に振る舞い、さりげなく名前を尋ねる。
彼女の名前は? 趣味は? 出身地は? 彼女のことが知りたい。そして自分のことも知って欲しい──。
佐々木は取り憑かれたかのように目の前にいる彼女だけを見つめ続ける。美しい。彼女を自分のものにしたい。自分だけの恋人にしたい。上手くいけば決して夢物語でもないだろう。
佐々木は期待に胸を弾ませた。彼は生涯を共にする伴侶を探していた。彼が働く広告代理店は深夜遅くまで働くことも多い。
そんな自分を支えてくれる妻を求めていた。夢を追いかけていた。温かい家庭。我が家。父親である自分を慕う妻と子供たち。休日には家族と共に外出して理想的な夫であり父親になりたい。仕事でもさらに出世をしたい。
その為に妻が必要だった。
上司や経営陣とと家族ぐるみで付き合い、社内での地位も磐石のものとしたい。既に結婚をしている数人の同期にこれ以上遅れをとりたくもない。
その為に妻が必要だった。
誰もが羨む家族を持ち、子供を育て、両親から自慢の息子だと誉められたい。
その為に妻が必要だった。
「私は
これは運命かもしれない。
彼女はもしかしたら、自分を支えてくれる生涯の伴侶になってくれるかもしれない。淡い期待と下心を表には出さないように、佐々木は彼女と共に
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