第14話 ハリカーコラボ①

『はい。テスト終了です。配信に問題はなかったね』


 ハリオコースを走り終えて、私達はキセキが建てたルームに戻っていた。


「そうですね。このままで大丈夫ですね」


 配信トラブルは何もなかった。


『それじゃあ、本番いくよ! 今度は好きなコース選んでね』

「はーい」


 私はコース選択画面でスタンダードなサンシャインコースを選んだ。

 まず1発目はこのコースを走ろうと事前に決めていた。

 そして集合画面に戻るとキセキも戻っていて、キセキが選んだコースはサタンキャッスルコースだった。


「これまたどえらいコースを選びましたね」


 サタンキャッスルは魔王の城の中を走るというコースで魔王という名前の通り様々なギミックのあるコースとなっている。


『レート1万のプレイヤーを倒すには普通のコースではダメだからね。てか、ボルケーノじゃないの?』

「スタンダードのコースにしました」

『イニシャルカーブだっけ? 見てみたかったな』

「もしかしてペイベックスのハリカー大会を観《み》てくれたんですか?」

『うん。ネットで話題になってからね』


 プレイヤー全員がコース決め終えたようで、全プレイヤーの中から自動で1つのコースが選ばれる。


『あら外れた』


 選ばれたのは視聴者が選んだサンライトビーチコースだった。


「なかなか面白いコースが選ばれましたね」

『私、このコース好きよ』

「私もです」


 サンライトビーチコースは島のビーチを駆け抜けるコース。輝く太陽に白いビーチ、青い海、そしてコース内にある面白いギミック。それなりに人気のある脱初心者用のコースである。


『それじゃあ、始めよう』


 画面はレース画面となり、シグナルカウントが始まる。


 3……2……1……。


『ゴー!』


 今回は全員がロケットスタートを決めた。


 このコースは第2カーブ手前まではアイテムボックスがないためであろう。


 ストレートから第1カーブに入り、全員がドリフトをする。


 このコースの特徴的なギミックといえばカニである。

 カニがコース上にいて、カートが当たるとスピンしてまう。

 そのためプレイヤーは避けなくてはいけない。


 が、このカニ、カーブ中にも存在しており、さらに左右に動くのでかなり邪魔である。それをプレイヤーはドリフトしつつ、十字キーを巧みに操作しつつ避けなくてはいけない。


 それゆえ、サンライトビーチコースが脱初心者向けコースと言われる所以ゆえんである。


 私とキセキ、いや全員がカニをかわしつつ、第1カーブをクリアする。


 そしてドリフトを解除してターボを吹かせる。短いストレートで私は先行するプレイヤーの真後ろにつき、スリップストームを発生させ速度を上げる。


 6位から4位に這い上がった。


『おお! オルタに抜かれちまった。本気だな』


 その言葉で自分が実況していないことに気づいた。


「あ、すみません。抜いちゃいましたか?」

『ムムッ、まだ始まったばっかだからね』


 そして第2カーブ手前のアイテムボックスでアイテムをランダムで手に入れる。


「ああ、チャフか」

『私はスラスターだぜ! いっくぞ!』


 第2カーブの後はになっている。そこには浅瀬になっているルートがあり、通ると一気に距離が短くなる。

 ただ、浅瀬を通るとスピードが落ちるため普通は使わない。


 けど、一時的にスピードが上がるスラスターがあるなら別だ。


『イッケー!』


 キセキはスラスターを使い、一気に2位にまで躍り出た。


「あっ、すごい」


 そして第3のカーブだ。


 カーブ後はジクザクなルートで、しかも水着を着たハリオシリーズに登場するファンシーなモブキャラが遊んでいる。

 水鉄砲、ビーチバレー、走り回る子供達。

 当たればスピンしてしまうので私達はそれを躱しつつ、進んでいく。


『ああっ! モブキャラを躱していたらアイテム取れなかった!』

「それは大変。防御できないと狙われるよ」


 するとすぐに──。


『ぎゃあ! 撃たれた!』


 後方のプレイヤーが追尾ロケットでキセキを狙い、爆発が起きる。


「お先にー」

『ああ! もう! ぎゃあ! また撃たれた!』


 私はジクザクなルートを進み切り、第4のカーブを曲がる。

 そして第4のカーブの後はストレートがあり、そこでアイテムを取って、浅瀬へと向かう。

 取ったアイテムはペイントだった。


「ペイントだ」


 ペイントはプレイヤーの画面を一時的に塗り潰して邪魔をするというアイテム。

 ギミックのあるコースでは有効である。


「浅瀬で使うぞ!」


 浅瀬は水位が上がったり下がったりして、ルートが現れたり、浅瀬になったりする。

 現れたルートには時折、カニが現れて邪魔をする。


「ここならかせるはず!」


 私はペイントを使う。


『画面が塗りつぶされた!』

「ごめんねー」


 水位が下がって現れるルートは全部で3つ。

 私はタイミングを見計らって水位が下がって現れたルートを選ぶ。


「ここだ!」


 真ん中を選び、私は突っ切る。


 私の少し前を走るプレイヤーはカニにぶつかりスピンした。

 スピンしたプレイヤーを抜かして順位を上げる。

 さらに他のルートを走っていたプレイヤーも抜かしていたようで順位がさらに上がる。


「よし。ペイントが上手く行った」


 しかし──。


『どけどけ!』

「ちょっ! ひどい!」


 キセキがミサイルを手に入れたようで、巨大ミサイルになったキセキに私は吹き飛ばされた。


『私の前を進むやつが悪い!』


 ミサイルはオートのため画面が汚されていようが関係なく、きちんとしたルートを進んでいく。


 私はルートに戻り、キセキの後を急いで追う。


 現在順位は3位。


 最後のカーブを曲がり、ストレートを走り、スタート地点に戻る。

 左下のミニマップを見ると、キセキが選んだキャラがトップを走っている。


「えっ!? キセキ、1位なの?」

『そうだよ。独走だ!』

「安心したら駄目だよ。まだ2週目だからね」


  ◯


 結果、私は3位でキセキは8位だった。レースが終わり、私達はルームに戻る。


『では、皆さん、ありがとうございます。レースは1人1回なので抜けてくださーい』


 キセキがそう呼びかけるとプレイヤー達は『お疲れ様』や『楽しかった』という定型文を出して去っていく。


『いやあ、どんどん順位下がって、8位だよ。最後にまたミサイル手に入れて、ごぼう抜きしたんだけど上位に入れなかったか』

「惜しかったですね。やはりレート1万超えは強い」


 1位と2位が共にレート1万超え。しかも3位の私とだいぶ差を開けてのゴールだった。


『でも、その中で3位はすごいよ。オルタって、やはりハリカー上手いんだね』

「上手くありませんよ。この前までブランクがあって大変だったんですから」

『長らくやってなかったの?』

「ええ。10年近くやってませんね」

『10年のブランクでこの実力! 昔はさぞ名プレイヤーだったのかな?』

「そんなんではありません。ただの小学生でした」

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